050
「…どした?」
周防たちと別れてしばらく歩いていると、花城が何度か後ろを振り向いた。
尋ねた俺に花城は目をキラキラさせてはにかんで、俺の腕に掴まった。二人が見えなくなるまで我慢していたようなその行動に、俺の胸はきゅんと鳴る。
花城からこんな風にボディタッチしてくるようになるなんて…これはもう、あとはタイミングの問題じゃないか!?
今日の夜の予定はすべてこなしてきたし、もしこのあと家に送ってその流れになったら…。大丈夫、あれからアレは必ず肌身離さず持つようにしている。
「…寄ってく?」
コンビニの前に差し掛かり、そう尋ねると、花城は歩みをゆるめた。
「うーん…」
そして何か買うものがあったかと花城が考えたとき、コンビニからむさくるしい集団が出てきた。
「…あ!御幸!!」
ゲッ…。不運なことにそれは倉持、中田、麻生、関だった。こいつらいつもは後輩をパシってるくせに、なんでこんな時に限って…。
倉持達の視線が俺の隣で腕をからませている花城に移った。花城は恥ずかしかったのか、すぐに手を離した。全員がニヤニヤし始めたが、花城に告ってフラれた過去がある麻生に限っては呪い殺しそうな目で俺を睨んできた。
「てめー夕飯の後から見ないと思ったらこんなとこに…」
「こんな時間までデートかよ!!」
「ちげーよ家に送るんだよ。危ないから」
なっ、と花城の肩を抱き寄せると、花城は顔を真っ赤にして俯いた。
「危ねーのはテメーだエロ眼鏡!!」
「花城さん!!コイツマジ変態だから!狼だから!気を付けたほうがいいぞ!!」
「変なこと言うなよ!」
今その辺デリケートな時期なのに…!せっかくいい感じの流れになって来てるのに…!!
「行こ、花城」
花城の背中に手をやって先へ促すと、倉持達はからかうようにどよめいた。
「ヒュ〜ラブラブ〜!」
「花城さんの前だからってカッコつけてんじゃねー!!」
「いつもよりやけに優しいじゃねーか御幸ィ!!」
「…そーだよ!邪魔すんな!」
開き直って怒鳴り返すと、倉持達はぽかんと目を点にした。恥ずかしいけどあのままからかわれてたら花城がかわいそうだ。俺は慣れてるからいいけど…
コンビニを過ぎて少しして、奴らの目が届かなくなったとき、花城はまた俺の腕に腕を絡ませてきた。
「…あ、悪い、コンビニ…」
「ううん、大丈夫」
コンビニによるかどうか迷っているところだったんだ。だけど花城は笑って首を振った。
……腕に密着する花城の体…柔らかいな〜…。
もうそこは花城の家の門…。どうしよう、今行くべきか…
「…先輩、来週…」
「ん?」
「…来週、ゴールデンウィーク…だよね」
「…あぁ」
そうだ。ゴールデンウィーク。…と言っても…
「…ゴールデンウィークは俺、遠征で…野球部の」
「あ…。そ、そっか…」
残念そうに笑って頷く花城。…あ〜〜、胸が痛い…。
それに、俺だってせめて1日くらい、花城と過ごしたいのは山々なんだけど…
「じゃあ、頑張って…」
「…うん」
「……。」
「……。」
門の前で立ち止まり、向かい合って、花城が俯いているのを見つめる。…面と向かって聞くのもなんだし、キス…して、いい雰囲気に流れを…
「光?」
「!」
後ろから声がかかって、花城はびっくりしたように目を丸くした。振り向くと、そこには…きりっとした目元が印象的な男が立っていた。男の俺から見ても、かなり顔が整った…目の色は花城と同じ青、髪は花城より少し暗い亜麻色。白栄の白い詰襟制服を着こなしている。男はじっと俺を見つめている。
「み、光臣…」
花城が呟いて、俺を見上げた。
「あの…従弟の光臣…です」
従弟…って、婚約者の…?
問うように花城を見つめると、花城は頷いた。
婚約者…。…こいつが。
「彼氏?」
「う、うん…」
光臣は気にも留めない態度で花城に尋ね、俺は面食らった。なんだこいつ。婚約者として何か思わねーのか?
「どうも。」
そして俺にぺこりと会釈する。俺も会釈を返しながら困惑した。なんか…思ったよりフツーだな…。
「……。」
光臣は俺と花城を見比べ、ブザーを指さした。
「押していいか?」
「え、あ、うん…」
花城は頷き、ビーッ、とブザーを鳴らす光臣を横目に俺を見上げた。
「先輩、じゃあまた…」
「ああ、また…」
また…ゴールデンウィーク明け。長い…。
花城はにこ、とほほ笑みを浮かべ、ちょっと俺の手に触れて踵を返した。
***
「…うわ!!帰ってきやがった!!」
「そりゃ帰ってくるよ。」
寮に戻った俺を出迎えたのは倉持達のしかめっ面だった。
「何してきたんだよ?」
「チューした?」
「花城さんちって近いの?」
「チューしたのか?」
「随分早かったじゃん。」
「チューは?」
「チューチューうるせえ〜〜〜ネズミか!」
なんだと!余裕ぶりやがって!とモテない男たちの怒号を浴びせられながら、のどが渇いたため食堂へ向かう。
「つーかもうチューとかしてんの!?」
「てかヤッた!?」
「やめろ!!俺の前でそれを聞くのはやめろ!!」
「……。」
うざい野次馬共と麻生が言い争っているのに呆れながら麦茶を注ぎ、飲み干して、返却口にコップを置いた。
「つーかさ、沼岡と浅野、ヤッたらしいよ」
「マジ!?」
不意に誰かが下種な噂話を打ち明け、皆の興味はにわかにそちらに流れた。
沼岡と浅野…。どっちも3年の同級生だ。二人とも明るくてちょっと派手で友達が多いタイプ。2年の時から付き合ってるのは知ってたけど…。
「しかも浅田…初めてじゃなかったらしいぜ〜。」
「マジ!?沼岡カワイソ〜w」
「浅田ギャルだもんなーw」
「1年の時大学生と付き合ってるって噂あったしなw」
「あーw」
わいわいと盛り上がる奴らを後目に、花城のことを考えた。花城がもし、初めてじゃなかったら…。
…けっこーショック。いや、でも…多分初めて…だと思うけど。それに花城なら、そんなほいほい軽く流されちゃうような子じゃないというのはわかっているし、もし初めてが俺じゃなくても、その相手もちゃんとこう…大切な…ちゃんと考えてそうしたんだろうなって思うけど…。
…あぁでも…やだな…。俺が初めてだから余計そう思うんだろうけど…。女子は基本、自分が良しと思えば相手に断られることなんてないんだろうし…早い奴は中学で経験してるって…。いやそれは早すぎだろう。…これも童貞の思考なのかな。
「で、御幸はヤッたの?」
「しつけぇな〜」
食堂を出ようとする俺を引き留める男たち。どんだけ下ネタに飢えてんだ。
「どけよ。風呂入って寝たいんだよ」
「ヤッたかどうかだけ言えって!」
「そーだよそしたら通してやる!」
「なんでだよ。やだよ」
「御幸って花城さんのこと全然話さねーよな。」
ふと思いついたように倉持が言った。
「自慢してもおかしくねーのに。」
「確かに…」
「なんで?」
「なんでって…」
そういやなんでかな。なんとなく花城とのことはだれにも言いたくない。自慢したいって気持ちがないわけじゃないけど、それよりもやっぱり…
「そういうのは俺だけ知ってればいいの。」
「なんだそれ?」
「わかんねーかなあ…」
俺は頭をかき、ぽかんとアホ面を並べている男どもを見た。
「大事なものって誰にも教えたくねーじゃん。」
は…?と、アホ面の男たちの顔がみるみる赤くなっていった。俺は立ち尽くしているそいつらの間を通り抜け、食堂の扉に手をかけた。
「ま…いつかお前らにも彼女ができりゃわかるよ。…できればな(笑)」
「どういう意味だコラ!!」
「クソ眼鏡!!死ね!!」
prev next
Back to main nobel