051


ゴールデンウィークが始まるため、俺は自宅に戻った。
…と言っても、自宅に居られるのは2日間だけで、残りは学校のキャンプに参加する。
家に戻ったのはそのための荷物を取りに来るためでもある。それと…

「あーあ…りんちゃん、あなたに会えるのも今年が最後かもしれない」
「……。」

光は栗毛の馬の鼻面をなでながら愚痴をこぼし続けている。
ここは避暑地にあるうちの別荘で、厩舎と乗馬コースが併設されており、光の母親が可愛がっていた雌馬のリヒャルティア・ローチもいる。馬番はローチと呼んでいるが、光はりんちゃんと呼んでいる。
どうせ家で暇だ暇だと愚痴って使用人を困らせているだろうと思って、光をこの別荘に誘った。家に帰ったもう一つの理由だ。

「別に…来たいときに来ればいいだろ」
「私が一人で家を離れるとお父さんが嫌な顔するもん」
「どうせ顔なんて見せないじゃん」
「手紙が来るもん。たまに手紙が来るのは全部私への文句」
「……。」
「結婚式に備えて髪を伸ばしなさい、発表会のためにピアノの練習をしなさい、パーティーがあるから怪我しないようにアーチェリーは控えなさい…ってさ」
「はいはい。」

相槌を打ってから、しまった、と思った。投げやりな相槌を打つと光の文句が加速する。
案の定不満げに口を開く光が俺を見て、しかし俺は咄嗟に話を変えた。

「…そういえば、この間の彼氏」
「…えっ?あ、うん…」

…よかった。怒りが収まった。

「3か月?4か月?結構続いてるよな。」
「…うん」
「俺のことは話したのか?」
「…一応」
「一応?」
「婚約のことは…話したよ。家の都合でって」
「ふーん…」

俺を見たときの動揺した目。だけど、俺から目を逸らさなかった。なかなか肝が据わってそうな男だった。

「光って…」
「?」
「ああいうのが好みなんだな。」

それなりに顔が整っていて、なかなか度胸がありそうな、だけど要領の良さそうな男。スポーツをしているらしいが、確かにガタイも結構良かった。

「どういう意味?」

光は照れたように顔を赤くして、澄まして言いながら馬を撫で続ける。

「そのままの意味。」
「あ、ああいうのって…どう思ったの?光臣は」
「あいつを?」
「…うん」
「別に何とも。」
「はぁ?な、なにそれ…」
「一瞬だったからよくわからん。」

…というか、無意識にあまり見ないようにした…光に好意を抱かれてる男だと思ったら、胸の奥が気持ち悪くなって。

「どこが好きで付き合ったんだ?」
「う、うるさいな…。もういいでしょ」

光は耐えきれなくなったのか、赤い顔を隠すようにして馬を連れて厩舎を出て行った。光は乗馬を始めると2,3時間は戻ってこない。俺は別荘に戻って暇をつぶすことにした。

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