052


ゴールデンウィークが明け――

「花城、決まった?」
「うん。」

今日は花城と珍しくデートらしいデートをしている。遠征明けで少しだけオフを得たからだ。
と言っても駅前のカフェチェーン店でお茶をしているだけだが…。
花城は一緒に過ごせればいいなんていじらしいことを言ってくれるけど、本当にこんなデートでいいのか不安だ。

「どれ?」
「ホットミルクティー。」
「ホット?暑くない?」
「大丈夫。」
「?」

このクソ暑い初夏の昼下がりにホットミルクティー?と首をかしげながら、呼び出しボタンを押し、ホットミルクティーとアイスレモンティーを注文した。

「なあ、この間…従弟に見られたけど、平気だったの?」
「あ、うん。付き合ってる人がいるのは、前から言ってあったし…」
「え?でも婚約してる…んだよな?」
「私も光臣も親に勝手に決められただけだから…光臣も結婚はしょうがないって思ってるんだと思う。」
「…そうなのか」
「仲はいいほうだと思うけど、友達みたいな感じなの。先輩と付き合う前から、恋愛とかも好きなようにしたら?って言われてたし、私のことにそこまで興味ないんだよ。」
「……。」

興味ない…ねぇ。
俺には興味津々って目だったけどな。
あと…ちょっと奥村にどことなく似ていた。さすが親戚。

「一緒に住んでんの?」
「一応。でも白栄は全寮制だから、光臣が帰ってくるのは長期休みくらい。」
「ああそっか…」

じゃ、この間はゴールデンウィークで帰って来てたのか。

「ゴールデンウィークは何してた?」
「長野にある別荘に行ったよ。」
「べ…」

別荘…!!そーだよこいつお嬢様だからな…

「へぇ〜…別荘で何したの?」
「久しぶりに馬に会って、乗馬したり…お買い物したり…かなぁ…」
「へ…へぇ…」

セレブだ…。やっぱ住む世界が違う…。
…いや!だからって別れる気はないけど!

「おまたせいたしました。」

店員が紅茶を運んできた。花城はミルクティーに砂糖を入れた。

「あ〜…」

それからテーブルに置いてあった期間限定のさくらんぼのタルトのポップを見つけ、せつなげに手に取った。

「何だその顔(笑)食べれば?」
「う〜…」
「食べなよ。押すぞ?」
「だめ!やめて。」

花城は俺の手をつかんで、呼び出しボタンの上からテーブルの上に移動させた。

「今ケーキ1個食ったくらいで大して変わらねーって。」
「そういう油断が一番危ないの!」
「気にしすぎじゃない?前太ったって言ってた時も全然細かったじゃん」
「そうやって気を遣って嘘吐くのやめて!光臣はすぐ気づいたもん!」
「……。」

いまサラッとショックなこと言われたんですけど…。光臣が?すぐ気づいた?太ったことに?…どういう状況?

「やっと体重戻ったんだから〜…」

花城はそう言いながらポップをもとの場所に戻した。

「その…従弟って今も家に居んの?」
「もう寮に戻ったよ。学校始まったから」
「そ、そっか…」

…ちょっとほっとしてしまう俺。だってあんなでかい家とはいえ、一つ屋根の下、年頃の男女が一緒に…なんて。いや、あの規模だとお手伝いさんとかもいるんだろうけど。そういや光臣の両親とか…花城の父親はどうしてるんだろう?聞いてもいいものか…。

「ふう…」
「?」

不意に花城が小さくため息を吐いた。と言っても、本人自身も自覚していなさそうなくらいの、本当にかすかな溜息だった。

「どうした?」
「え?」

尋ねてみると、やっぱり無意識だったようで、花城は目を瞬いた。

「ため息ついてたから。」
「え…今?」
「うん」
「え?うそ。気づかなかった」

大丈夫なんでもない、と花城は微笑んで、ミルクティーをのんだ。
…そういえば…よく見るとどことなく、顔色もよくないような…?気のせいか?

「先輩、光舟は寮ではどんな感じ?」
「ん?そりゃもう飢えた野良犬のように俺と顔を合わせるたび威嚇を…」
「うそー!あはは!」
「あながち嘘じゃないんだけど…」

だけど明るく笑う花城を見て、きっと気のせいかな、と心配を頭の隅に追いやった。



***



「そろそろ…帰る?」

夕暮れの気配を感じ始めたころ。まだ早い時間だったが、俺は一か八かの賭けのつもりでそう切り出した。

「そう?いいけど…」

花城がちょっと残念そうにそう言うのを、胸を痛めながら見て、帰り道に促した。
…家まで送ったら…今日こそ…。
そう悶々とする俺の隣を歩く花城が腕に掴まってきて、ドキリとした直後花城が、ふぁ、と小さく欠伸をした。…こいつもしや全くそういうこと意識してない?この間あんな雰囲気になったのに…。俺はいよいよかと毎日悶々としてるのに…。
ほんと…あの日のこと、どう思ってんのかなー…。俺は毎日思い出してしまうというのに。でも一度はそういう流れになったんだし、今だって花城の方から腕を絡めて来たりして…嫌ではないってこと…だよな…!?

「…今日忙しいの?」

ちら、と俺の顔を見上げてちょっといじけたように言う花城に、俺は不意打ちを食らい一瞬言葉を失った。何だこの可愛い生き物…!?

「いや…、そういうわけじゃないけど…」
「…ふうん」

あ…いじけてる…。そんでちょっと拗ねてる…!か、可愛すぎ…
俯いた花城と、花城の家の前まで歩いて来ると、花城はするりと手を離した。

「…あ、花城。」

その手を引き留めると、まだちょっと拗ねた青い瞳が俺を見上げた。

「…まだ時間…あるから」
「……。」
「…寄ってもいい?」

ドクン、ドクン、と痛いくらい心臓が鳴っている。花城の頬がふんわり赤く染まる。

「…うん。」

そして俯くようにうなずくと、そのまま俺の手を引っ張って、門の前を通り過ぎた。
西側の裏口のナンバーロックを外して、まるで隠れるように森の小屋に入った。薄暗い部屋の中は以前来た時と何も変わっていなくて、俺は扉を後ろ手に閉め、部屋の奥に進む花城の後を追った。
花城はクッションの傍に座ると、隣に座る俺を見つめ、頬をなでられると顔を傾けた。俺は緊張しながらバッグも降ろさないままキスをして、花城の表情を確かめた。
少しはにかんだ赤い顔の花城は、また顔を近づける俺に目を閉じる。何度かキスをして、手探りで花城の手を握り、少しずつ押し倒した。クッションを寄せてそこに花城を寝かせ、頬をなでると、花城はにわかに顔に緊張をにじませた。
まだ緊張はするだろうけど…せめて怖くないように、優しく…。
そう自分に言い聞かせながら、花城の首筋にキスを始める。そこは甘いにおいがして、唇に触れる肌はすべすべで柔らかくて、俺はまた理性が吹っ飛びそうになった。…だけど、花城の体がこわばったのが分かった。

「えっ…。」

俺の腕を掴み、肩を押し返す弱い力を感じ、俺は顔を上げた。

「…まだ無理?」
「……。」

じっと目を見て問う。ここまできて、しかも、この間のことがあってからすげー期待してて、なのにやっぱ無理って言われたらだいぶ凹むけど…花城が無理ならしょうがない…。

「ちょ…ちょっと待って…」

花城に押し返され、俺は起き上がり、花城も起き上がった。

「…嫌なら…」
「い、嫌とかじゃない」

慌てて首を横に振る花城。

「じゃあ…何?怖い?」
「……。」
「……。」

冬休みのこと…まだ引きずってるとかだったらどうしよ…。いや俺が悪いんだけど…でもどうすりゃいいんだよ。

「…生理中…だから…」
「……。」

……え?せ…生理中!?な、なんだ…。そりゃ言いづらいよな…でも、ちょっとほっとした…。
…あぁそっか、顔色悪く見えたのもそれか…。なんかいろいろ納得した…。

「そ…、それは…。ごめん…」
「わ、私も…ごめん」
「いやいや…」
「……。」
「……。」
「…ふふ」

ぎこちなく顔を見合わせて、謝り合って、俺たちはまたどちらからともなく小さく笑った。
あ〜…安心したらじわじわがっくりきた…。今日こそは…って思ってたんだけどなー。まぁしょうがないんだけど…。
俺は携帯で時間を確認した。寮の夕飯の時間までまだまだ余裕あるな…。

「…まだ早いし…」
「?」
「もうちょっと…いい?」

せめてキスだけでも…。俺は花城の頬に触れた。もうちょっとイチャイチャしたい。花城に触れたい。だって人目のつかない場所で二人きりで過ごせるなんてこと、マジで滅多にないんだから!!

「…うん。」

花城がはにかんで頷いた。お互い照れ臭くはにかむ顔で見つめ合い、少しずつ顔を近づけ…唇を重ねた。花城の柔らかくて小さな唇…あ〜、可愛いな…ぎこちなく応えるように俺の唇を撫でて…食まれて…
頭がぼーっとする。もっと欲しくなって、つい…その可愛い唇を、不意に舌の先で舐めた。

「っ…」

びっくりしたように体が強張る花城を抱きしめ、宥めるように抱きすくめたまま頬を撫で、また唇を舐めた。

「んっ、せんぱ…」
「……。」
「……ん…」

戸惑った声を零す花城も、唇を食んで舌で優しく舐め続けると、だんだんと力を抜いて身を任せてくれた。少し開いた唇の間に舌を侵入させると、熱くて柔らかいものに触れ、俺はもう目を瞑ってその感触に夢中になった。舌と舌を絡ませ、花城の小さな顔を撫で、その口を犯すみたいに…めちゃくちゃにキスをした。

「……は…、……。」

苦しそうな花城の吐息も…熱も…夢みたいな心地で…。
いつの間にかまた花城を押し倒し、細くて柔らかな体を抱きしめながら夢中でキスをした。
可愛い…。もうめちゃくちゃに、このまま何も考えず、ヤりたい…!…いやいやダメだって!花城は生理中だって…。…生理中ってつまり出血してる…ってことだよな?どこから?どの程度?それってセックスできないくらい酷いの?…って違うだろ、花城が無理だっつってんのに無理やりなんてしたら嫌われるぞ…!そんな最低ヤローになるつもりはない。そう、だから、そう、我慢…我慢だ。まず、このキスを…やめる…。

「…っは…。……ん…」

……いや無理…。
花城の声、可愛いな…。喘ぎ声はどんな感じなんだろ…。
…ってマジでもうやめないと、止まらなくなる…!

「…っ、はぁ…、……。」

ちゅっ、とキスを何とか終わらせて、花城を見下ろすと、紅潮した頬と赤く熟した唇、そして潤んだ目にしっとりと汗ばんだピンクの肌に目が釘付けになった。なんつーエロい…
その潤んだ目が瞬き、一瞬下の方をちらりと見て、慌てて逸らされる。花城の顔は真っ赤で、その反応を見て俺は自分の下半身が主張していることに気付いた。
…いや、まあ、ここに来た時点で期待しまくってて半勃ちではあったんだけど…。
でも、この反応…やっぱり花城、初めて?

「…花城」

頬を撫でると、花城は恥ずかしそうに俺を見つめ返した。そのまま親指で頬を撫でていた手を、少しずつずらして、優しく啄むようなキスをしながら、どさくさに胸に触れた。

「っ…。」

花城が少し驚いたのが分かったけど、俺はさらに手のひらで胸の膨らみを撫でた。下着の丸い感触と、その向こうの柔らかな感触の気配…。やばい。俺今、女の子の胸触ってる…!

「せ…んぱい…。」

花城が恥ずかしそうに俺の手を握り、胸から離した。だ、だめか…。

「…ご ごめん」
「……。」

唇を噤んでうつむいてしまった花城の顔は真っ赤で、じわじわとこちらまで照れてしまう。うーん、ちょっとがっつきすぎたかな…。花城、奥手で初心だからなぁ…。でもだからこそ、俺がグイグイいかないと進展しないし…。

「…触られんのは嫌?」
「……。…恥ずかしい」

嫌…ではない、ってことか?ちょっとずつ慣らしていくしかないのかなー…。

「…キスはいい?」
「……。」

俯いている花城が、口をつぶんだままの真っ赤な顔で、こくん、と頷いた。その頬を撫でて、顔を近づけ、またキスをした。何度も、何度も。花城がキスに慣れたら…もう少し先に進めるだろうか。
こうしているだけでも幸せだけど…。
もっと花城と近づきたい。

けど今はまだ、花城のペースに合わせよう。
花城とキスをしながら手をつなぎ、体を密着させて、幸せな時間を過ごしながら俺はそう考えていた。

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