006
『生徒会役員は、至急生徒会室に来て下さい。繰り返します…』
昼休み、校内放送が流れ、花城さんがお弁当箱を持って静かに教室を出て行った。花城さんは生徒会に入っている。先生に入るよう誘われたらしい、と噂で聞いた。
「…もーいいじゃん、誰ともつるむ気ないんだよきっと。」
「ちょっと、やめてよ。」
花城さんが教室を出て行くと、鷹野さんたちのグループが話し始めた。
「だってこないだだって早く帰りたそうにしてたしさぁ〜。」
「それは…気まずかったのかもしれないし」
「もうほっとけばいいじゃん。司気にしすぎだよ」
「でも…」
「別にのけ者にしてるわけじゃないんだしさー。無理に誘う必要ないんじゃん?」
「……。」
この間一緒に遊びに行ったみたいだったけど…何かあったのかな。あれから、鷹野さんたちが花城さんに声を掛けているところを見ていない。
「東条ー、食堂行こうぜ。」
「あ…うん!」
俺は友達に呼ばれて、後ろ髪惹かれながら教室を後にした。
***
「あ〜クッソ…」
その日の夜、俺と信二は先輩たちのパシリで学校近くのコンビニに来ていた。
「麻生先輩何だっけ?」
「えーとね…アクエリ。」
「倉持先輩が?」
「ポカリ。」
「…宮内先輩は?」
「アクエリ。関先輩はポカリ。」
「…あーちくしょう!!どっちだっていいだろこんなもん!!」
「いや、風邪をひいたときはポカリで、スポーツするときはアクエリがいいらしいよ。ポカリの方がナトリウムが多くて栄養価が…」
「あーはいはいもういい!!」
信二が舌打ちしながらジュースをかごに入れていく。ピロリロリロン、と入店音が響き、いらっしゃいませー、と店員の気の抜けた声がした。
「あとカロメとポテチと…」
「ここぞとばかりにあれこれ頼みやがってあの人たちは〜…」
「あはは、1年の宿命だね。」
「ちくしょー!来年後輩ができたら絶対…」
「こんにちは!何かお探しですか?」
コンビニでは聞きなれない丁寧なセリフが聞こえ、つい振り向くと、軽食コーナーの前に立っている女子高生にレジの店員が積極的に話しかけていた。…ってアレ…花城さんだ…!
「ここにないものでもすぐにお作りしますよ!」
「なんだあれ…可愛い子だからって…」
チッ、と信二が舌打ちを零した。
「てかあの子青道じゃん。すげー可愛くね?」
「…花城さんだよ」
「え!?アレが!?」
へぇ〜…、と見惚れる信二。ちょっと顔が赤い。目がキラキラしてる…。
「てか、青道生っすよね?」
「え…」
「何年生なんすか?」
「……。」
「すげー可愛いっすね、へへ…」
な、ナンパだ…!!どうしよう、助けた方がいいのかな、これ…。でもどうやって…。
「ピザまんふたつ!」
「えっ…」
ドサッ、と一杯のかごをサッカー台に置き、信二が高らかに言った。
「いやピザまんは今…」
店員は言いかけて、口ごもる。たった今花城さんに、「ここに無いものでもすぐにお作りしますよ」と言ったからだ。花城さんは店員と信二のやり取りを見守っていて、店員は折れたように言った。
「…切らしてるんで、15分ほどお時間いただきますが…」
「あ〜ハイ、お願いしまーす」
「……。」
店員は舌打ちを噛み殺すように唇を噛んで、少々お待ちください、と奥に引っ込んだ。
「花城さん。」
ショーケースの前に佇んでいる花城さんに声を掛けると、花城さんは振り向いて、あ、と目を丸くした。
「…東条君。」
…よかった〜、俺のこと覚えてた…。この間のことがなかったら、未だに覚えられてなかったかもだけど…。
「今帰り?遅いけど…」
「あ…うん。生徒会の仕事があって…」
「ああ、そっか。昼休みも呼ばれてたよね…忙しそうだね。」
「年度の初めは、色々申請が多いみたいで。入部届とか…」
「あ〜、なるほど…」
生徒会ってそういう仕事をするのか。大変そうだ。
「おつかれ!」
「…ありがとう。」
「……。」
……背後から信二の視線を感じる…。
「あ…信二。金丸信二。同じ野球部なんだ。」
「あ、ども…。」
根負けして信二を花城さんに紹介したけど、花城さんは小さく頷くように会釈を返しただけで終わってしまった。し、信二…ドンマイ。
「東条君…は?」
「ん?」
「なんでここに…?」
もう下校の時間をとっくに過ぎている。だけど俺も信二もラフなジャージ姿で、下校途中にも見えない。
「あ、俺たち寮生なんだ。」
「寮?」
「野球部でさ。」
「あ…。あぁ、そっか…。」
花城さんは納得したように頷いた。
「1,236円でーす」
「はい。」
「…ちょうどお預かりしまーす」
店員が戻ってきてやる気のない声で信二の会計を済ませ、ピザまんできたらお呼びしまーす、と「ここで待ってろ」と言うようにカウンターの横を指した。それから身を乗り出して、ニコニコ笑顔で花城さんに言った。
「お次の方!どうぞ〜。」
「……。」
チッ、と信二が小さく舌打ちした。た、確かに店員の態度があからさま過ぎる…。
きょとんと俺たちを見比べた花城さんに、店員は再度、どうぞ、と手を添えてレジに促した。
「今日部活だったんすか〜?もう遅いですよね?」
「……。」
花城さんがレジの前に立つと、注文を聞く気もないのかというほど緩み切った顔でナンパを再開する店員…。
「…いえ、あの…」
「名前は?彼氏いる?」
「……。」
「年上好き?22歳って君的にアリ?」
「いいかげんにしろよおっさん!」
は…?と店員が信二を見上げた。花城さんも息を飲んで信二を振り向いた。
「アリなわけねーだろ、困ってんのがわかんねーのかよ!」
「…は?何?君関係ないっすよね?」
「俺ら同級生なんだよ!」
堂々と胸を張って言った信二に、店員の顔がちょっと引きつった。
「店長に言うからな、女子高生をナンパするバイトがいて安心して利用できねーってな!」
「いや、ちょ…」
「何だよ?つーかピザまんまだかよ!」
「……。」
くっ、と悔しそうに奥に引っ込んだ店員は、慌てた様子でピザまんを持ってきた。
「お待たせしました…」
「はいどーも。」
しかし受け取っても立ち去ろうとしない信二に、店員は苦々しい顔で再び花城さんに向き直った。
「…お決まりですか?」
「あ…。えっと…。」
花城さんはショーケースを見て、おずおずと口を開く。まるで初めてのおつかいのように…。
「あ…あんまん…ひとつ、お願いします…。」
「はい、あんまんおひとつですね…」
店員は言いかけて、思いついたように付け足した。
「15分ほどお待ちいただいても?」
「え…?」
花城さんはショーケースを見る。あんまんはひとつショーケースに並んでいる。あるじゃん、と言いかけた時、また信二が口を挟んだ。
「おー、待ってやるよ。急げよ。」
「……。」
店員は顔を引きつらせ、消え入るような声でスミマセン、と言った。
***
「あ、あの…。」
コンビニから出ると、花城さんはおそるおそる、信二を見上げた。
「ありがとう…。」
「へっ?」
「さっき…。色々…」
「へ、あ、いや、全然!別に…」
「……。」
よかったね、という気持ちを込めて信二を見たけど、信二は花城さんにくぎ付けだった。なんだか…ちょっと、妬ける。
「でも、大変だな…花城さん…」
「…何が?」
「え、だから、今みたいな…」
「ん?」
「ナンパとか…。…か、可愛いから」
信二がしどろもどろになってそう言うと、花城さんはちょっと俯いて、別に、と呟いた。…照れてるのかな?
「花城さん、帰り大丈夫?もう暗いから、俺たち…」
途中まで送るよ、と言いかけた時、近づいてくる足音があった。
「花城。」
え…?
低い声に振り向く花城さん。そこにいたのは、駆け足で来たのか、少し息が乱れた結城主将…。
「よかった、追いついて。今日委員会で遅くなるって言ってただろう。」
「結城先輩…」
え…、え…!?ま、まさかこのふたり…ええ!?いや、そんな、嘘だろ…!?
「危ないし、一緒に帰ろう。」
「……。」
頷くように俯く花城さん。俺は少しずつ目の前が真っ白になっていくのを感じた。なんでだろう、すごく…ショックだ…。
「む…東条に金丸?」
「お、お疲れさまです」
「ああ。お前らも帰り気をつけろよ。」
「は、はい…」
「お疲れさまです…」
さ、行こう、と結城主将が花城さんの背中に手をやって、二人は歩き始めた。
「なぁ…あのふたり、付き合ってんのかな…」
「…どうだろ…」
俺と信二はただ茫然とその背中を見送りながら立ち尽くした。
prev next
Back to main nobel