007
「次…花城!」
「はい」
中間試験が終わり、今週の授業は順次答案用紙の返却がされていく。そして花城さんは、その存在感をさらに増していた。
「満点だ!よく頑張ったな!」
「…ありがとうございます。」
また?今のところ全教科だよな…、とクラスが騒然とする中、花城さんは少しうつ向いたまま席に戻った。
花城さん、やっぱりすごく勉強できるんだ…。すごいなぁ…さすが新入生代表…。
「えー、今回の平均点は62点!お前らもっと頑張れー。」
「せんせーもっと簡単にしてよー。」
「それじゃお前らの為にならないだろ!それに満点は二人いたぞー。」
「え?花城さんとあとひとりって…」
「他のクラスだけどな〜。」
それじゃ答案の解説始めるぞー、と先生はチョークを持ち、黒板に数式を書き始めた。
***
最後に英語のテストが返却され、花城さんは全教科満点という驚異的な結果だった。すごすぎる。中学は白栄だったと言ってたけど、勉強についていけなくて高校で進路を変えたわけじゃなさそうだな…。
「間違えたところをなおして持ってきて。終わった人は自習してていいわよ。」
高島先生はそう言って教壇にパイプ椅子を持って行って座った。教室の中はざわざわしている。友達同士相談しながら答案を埋めているのだ。私は決意して、答案用紙を持って窓際に行った。
「花城さん!」
「!」
単語帳を見ていた花城さんは驚いた様子で顔を上げた。
「答案教えてくれる?満点だったんでしょ?」
「…うん…」
「ありがと!」
教科書を端に片付けてくれた花城さんの机に、私は自分の答案用紙を広げた。
「私60点しか取れなくてさー。恥ずかしー」
「……。…でも、ほとんどケアレスミスだし、惜しいよ。」
「え?」
「ほら、ここは前置詞が抜けてる…。ここはaをeに書き間違えてるだけだし…ここの章はeatの変化を勘違いしちゃったんだね。最後はちゃんと変化できてるし、ここの過去形を見逃してなければ15点は追加されてたから…」
「……。」
「あ…。ご、ごめん…」
「…ううん!びっくりしただけ!」
私はしぱしぱ目を瞬いた。こんな一瞬見ただけでこんなに色々わかるなんて…花城さん凄い…!
「そっか〜〜。私よくそそっかしいってコーチにもよく言われるんだよね〜…。あ〜〜ここ気付いてれば15点…。あ〜悔しい…」
「ふふ…」
花城さんが笑った!うわーやっぱキレーだな。笑顔、初めて見たかも。
「えへへ…じゃ、ここは過去形で…」
「うん、次は…助動詞だね。」
「助動詞…」
「これはここを指してるから…」
「あ!そっか!じゃ…BじゃなくてAだ!」
「そうそう。」
「は〜、なるほど〜…花城さん教えるの上手いね!」
「そうかな…」
「うん!めっちゃわかりやすい!」
花城さんはちょっと照れ臭そうに笑った。
「…おわった〜!あっという間!花城さんありがとー!」
「ううん。」
えへへ、と笑い合って、花城さんと仲良くなれた気がして、私は嬉しくなった。
***
「ねー、東条君ってちょっとカッコよくない?」
放課後寄り道したファミレスで、穂が内緒話のように打ち明けた。女の子なら誰でもわかる。これは、穂が東条君のことを好きっていうこと。そして友達なら、うまくいくよう協力すべきだってこと。
私は東条君がそこらの男子よりちょっとカッコよくて優しいという点には同意で、だけど恋愛感情は抱いていなかったから、手放しで穂を応援できた。
「爽やかだよねぇ。」
「野球部だっけ?」
「中学の時有名だったらしいよ。」
環と茜も乗り気だ。こうなったらもう、明日から穂と東条君の仲を取り持つのは決定事項だった。
「優しいしね〜。」
「アホな男子みたいにバカなこと言わないし。」
「わかるわかる。」
そこからは東条君をほめちぎって、あっという間に時間が過ぎた。何かの際には穂と東条君の距離が近づくように協力する、という話がまとまって、穂は嬉しそうに帰って行った。
穂は女の子らしくて小柄で可愛いし、きっと東条君も悪い気はしない。
「じゃーまた明日〜。」
「またねー。」
私はいつもと同じように帰って、何の心配もせずに眠った。
***
「じゃ、男女で二人組作って〜。」
そのチャンスはすぐにやってきた。私は環と茜に目配せし、穂に頷いて見せた。
男女、というところにみんな躊躇って、恥ずかしそうに笑いながら、とりあえず近くの席の人と組もうとする人が大半だった。幸い私の二つ後ろの席が東条君。東条君はまだ誰にも声を掛けていない。恥を捨てて東条君を呼ぼうとした、その時。
「…花城さん!」
東条君が意を決したように立ち上がって、花城さんの席に近づいて行った。
「組もうよ。」
「うん。」
花城さんが頷くと、他にも花城さんの様子を窺っていた男子が何人か諦めたように席に着き、東条君ははにかんで、花城さんの向かいに椅子をもってきて座った。
あ…これは、まずい…。
「俺、花城さん以外に話したことある女子いなくてさ…」
「…私も、東条君以外…」
えへへ、と笑いあった二人は、なんだか仲が良さそうで…。
穂を見ると、息を飲んで花城さんを少し睨んでいて、環も茜も咎めるような目で二人を見ていた。
花城さんは何も悪いことはしてないことはわかってる。もちろん、東条君も。だけど、これは、タイミングが悪すぎる…。
「…もー、なんでぇ!?」
お昼休み、穂は不満を爆発させた。誰も悪いことはしてない。穂もそれをわかっているからこそ、駄々をこねるしかない。私は環と茜と視線を交わした。
「あの二人接点なんかあった!?」
「さあ…知り合いっぽかったね」
「うーん…」
っていうか…東条君、花城さんのこと好きなのかな…。…とは、言えない。
だって花城さんは女の子でもドキドキするほどの美人さんで、男の子からしたらそれはもう、たまらないくらい可愛いだろう。東条君が花城さんに好意を抱いてないわけがなく、それが本気の恋愛感情である可能性も高い。
だけど、だとすれば強敵すぎる…。花城さんが恋敵だとすれば…。あんなに格の違う美女がライバルだなんて…私だったら諦める…。だって、敵うとこないもん…。
「もうサイアクだよぉ〜…なんでよりによって花城さん…」
「ど…ドンマイ…」
「で、でも、まだ決まったわけじゃないしさ…」
「決まってるよぉ!だって東条君、自分から声かけに行ったんだよ!?」
「……。」
だよねぇ〜…。という言葉を飲み込んだ代わりにため息が出た。
「こうなったらもうしょうがないな…」
茜が腕を組んで呟いた。
「…諦めろ穂!」
「ひど!」
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