056


初夏の日差しを受けて輝かんばかりの透明感と美貌を放つ花城さん。…と、そんな彼女をニヤニヤ緩み切った顔で見つめるクソ眼鏡。
その視線に気づいて居心地悪そうにしていた花城さんが、恥ずかしそうに頬を染めて御幸を見上げた。

「も〜…何?さっきから見すぎ…」
「だって可愛いんだもん。」
「は、はぁ…?」
「一日中見てられる♡」

なにそれ…、と花城さんは眉を寄せて照れたようなかわいらしい顔で御幸を睨んだ。

「死ね…」

意図せず口からこぼれた言葉に、隣の麻生が同意するように唸った。
定期試験前で部活が休みになり、ふたりは放課後よく一緒に過ごしているようで、今も寮の傍の自販機のところにあるベンチに並んで座っていた。見せつけやがって…花城さんは普段、野球部員ばかりがうろつく寮の方に来るのを遠慮しているようだし、絶対に御幸がわざと俺たちに見せつけてやがる。

「あれ…御幸主将の彼女?」

すると通りかかった1年達がふと足を止めて御幸と花城さんに注目した。

「えっ、めちゃくちゃ美人じゃん」
「2年の花城先輩だよ、うちの学校で一番可愛いって噂の」
「マジで可愛いな…」
「野球部ってモテんのかな…」
「いやでも御幸主将はイケメンだから…」

チッ、と舌打ちをした俺と麻生に1年達は気づき、ハッと青ざめて縮こまりながら寮の方に逃げるように戻っていった。

「…誰かに言いたかったけど言えなかったこと言っていいか?」
「意味わかんねぇよなんだよ」

ぼそり、と麻生が呟いたので、俺は先を促した。

「花城さん…最近なんか……色気増してね?」
「……。」

その言葉はガツンと頭に響いた。まさしく俺も思っていることだったからだ。
女の子は恋をすると可愛くなる、みたいな、甘ったるい歌詞の歌があったっけ…。いや、でも花城さんは元々可愛いけど…なんていうか…御幸を見る目、御幸の前ではにかむ唇、はにかみながら髪をなでる白魚のような手、腰つき、胸元、脚…。見ているとムラムラ…いや、もやもやしてくる。そう、御幸の前の花城さんは、なんだか艶やかで…目が離せない。

「……どこまでいってんのかな」

麻生の呟きにぎくりとした。あの二人が付き合いだしてから、もう半年近くになる。…もうヤッたのかな…。キス…は、もうしたんだろうなぁ…。そう考えて、ふたりがキスをする光景を思い浮かべそうになってしまい、慌ててかき消した。胸糞悪ぃ。

「そろそろ帰るね。」
「えー、もう?」

不意に花城さんが言って、御幸はつまらなそうに口を尖らせた。

「テスト勉強しないといけないし。」
「偉いな〜。じゃ、そこまで送る」

そう言って御幸は、ちょっと遠慮する花城さんの背中に手を回し、一緒に校門を出て行った。

「ヘラヘラしやがって…主将が情けねえ」
「つーかクソうぜぇ」



***



「あるけど?」
「えっ…!!!」

夕食時、御幸に「花城さんの家に行ったことがあるのか」と麻生が尋ねると、御幸はあっけらかんと頷いて、俺たちはしばらく言葉を失った。

「…なんだよその顔」
「えっ、だって…家行ったことあるってお前…」
「つまりそれは…」
「だから何?」

御幸は半分答えを予想したような呆れた顔で言い、麦茶を飲んだ。

「…もうヤッたってこと?」

麻生は小声で、マジなトーンで尋ねた。ごくり、と俺の喉が鳴った。

「…アホくせぇ〜」

御幸は顔をゆがめ、構わず飯を口に運んだ。

「いやマジで!教えて!なっ!?」
「嫌だよ。なんでそんなことお前らに言わなきゃなんねーんだよ」
「嫌ってことはヤッたのか…!?」
「小学生並みの理論だな。」

くっ…。御幸の奴、花城さんのこととなると口が堅いんだよな…。

「じゃ、お先ー。」
「あっ!待て御幸!」

御幸はさっさと食事を終えて立ち上がり、食器を片付けて食堂のおばちゃんにごちそうさまでしたと声をかけて、食堂を出て行ってしまった。なんかあの余裕の態度、腹立つぜ…。



***



あ…。

翌日の放課後、テスト勉強の気晴らしにコンビニへ向かう途中で、御幸と花城さんを見つけた。俺の少し前を歩いていく二人は、なんだか微妙な距離感で…手をつないでいるわけでも会話をしているわけでもなく、ただ触れそうで触れない距離を保ったまま、静かに歩いていく。
やっぱ…ヤッてはねーな、あの様子じゃ…。多分…。
意外と御幸の奴が奥手で、キスもまだかも…。だってそんなことしてたら、手くらい繋ぐだろ。
先走ってゴムなんて買ってるくせに、案外御幸も情けねーとこあんだな…、

と、そこまで考えたところで、御幸が突然行動に移った。
自然に手の向きを変え、それまで微妙な壁を感じているように触れなかった花城さんの小さな白い手に触れ、自然な動作でするりと指を絡めて繋いだ。あっという間の出来事に俺は息をのみ、ちょっと御幸を見上げた花城さんの耳が赤いのを、気が遠くなるような思いで眺めた。

やっぱ…付き合ってんだな…なんか、フツーに…。
いや…フツーに付き合うってよくわかんねーけど…。

ふふ、と花城さんが小さく笑った。御幸は愛おしくてたまらないような、俺の見たことのない目で花城さんを見た。

「コンビニ寄ってく?」
「私は大丈夫。先輩は?」
「俺もいいや。」

そんな他愛のない会話を交わして、御幸がじっと花城さんを見つめた。花城さんはその視線に気づいて、たまらずはにかんで、何?と笑う。

「いや…。」

御幸は花城さんから目が離せないままそう言いつつ、不意に周りを気にするようにかぶりを振った。
あっ、と思った瞬間には、御幸と目が合ってしまった。

「……。」
「……。」

御幸はみるみる顔を赤くして、ぎこちなく花城さんの手を離した。
それに気づいた花城さんが御幸を不思議そうに見上げ、御幸の視線を辿ってこちらに振り向き、俺に気が付くと花城さんまで顔を赤くして俯いた。

「お前…いるなら言ってよ…」
「いや声かけづれぇじゃん」

珍しく顔を赤くしてまごつく御幸に戸惑いながら、俺は何とかぶっきらぼうを貫いた。
つーか、今周り確認したのって…人目を気にして?まさか…キス、とかしようとした?

「どっから見てたんだよー」
「手ぇつなぐとこからだな。」
「おま…、…もー…」
「……。」

照れる御幸と花城さん。あ…俺、そろそろ立ち去るべきかな。

「ラブラブだな〜。ヒャハハ」
「うるせぇ!」

しっし、と御幸に手で追い払われながら、俺は二人をからかいながら足早に追い越した。
そしてそのまま歩を速め、振り向かないままコンビニへ向かい、見慣れた看板が見えてきたとき、急激にむなしさのようなものが胸を襲ってきた。
何だこのもやもやした感情は…。嫉妬?まあ御幸にあんな可愛い彼女がいて、しかも目の前でイチャイチャされたら胸糞悪い。でも、それ以上に…なんで俺、こんな泣きそうなくらいむしゃくしゃしてるんだ?

誤魔化すようにデカいため息をついて切り替えて、俺はコンビニに入った。
それからしばらく何を買いに来たかを考えて、うまく思い浮かばずに、舌打ちをこぼした。

prev next
Back to main nobel
ALICE+