057


昼休みの中庭で花城さんを見かけた。
声をかけようか一瞬迷ったが、別に個人で話すような仲でもないし、それは不自然だなと考え直した。花城さんもこちらには気づく様子もなく、中庭の渡り廊下を歩いていく。

…しっかし…
やっぱキレイだなー…。あんな子と御幸はあんなことやこんなことを…。クソッめちゃくちゃ腹立つ。
いやでも、まだヤッてはないよな…。でもキスくらいはしてるんだろなー…。あ〜…いいなぁ〜…
あのすべすべしてそうな太腿…ほっせぇ腰…胸はそこまでデカくない…けど、絶対綺麗…。それをいつか御幸は…。いやもう半年付き合ってるんだから、いつヤッてもおかしくない。
…あ〜クソ、イライラする…!

――パシャ!

突然、校内では聞きなれない音が響き、俺は周りを見渡した。花城さんも驚いた顔で視線を巡らせていた。
すぐに目に入ったのは、中庭で騒いでいる3年の男たち。一人がスマホを持っていて、その画面と花城さんをニヤニヤ見比べている。

「撮れた?」
「撮れた撮れた」
「やっぱ・・・だよなw」
「俺にも送れよー」
「やば、めっちゃかわいい・・・」

……。もしかしなくても、隠し撮り…?花城さんの?

「……。」

花城さんもなんとなく状況を察したように、もの言いたげに男たちを見たが、2年の女子がたった一人で3年の男子たちに怒鳴り込めるわけがない。花城さんはそうでなくても、おしとやかでおとなしいし…。

「オイ」

俺はすぐに踵を返して、男たちの方へ歩いて行った。3人いるうちの2人は知った顔だった。

「あ?…倉持?何?」
「消せよ」
「は?何が?」

男はニヤニヤしながら俺を見て、とぼけようとした。

「隠し撮りなんかしてんじゃねーっつってんだよ!」
「…え?いやいやw別に何も撮ってねーし…」
「じゃあ見せろよ」
「なんでだよw」
「ヘラヘラしてんじゃねーよ!見せろコラ!!」

つい素で怒鳴ってしまったが、男がびくりとひるんだのを見て、これはいけると確信した。
もう一度、見せろ!と怒鳴ると、男はおずおずと手の力を緩めたので、俺はその手からスマホを奪い取った。
画面には、渡り廊下を歩いている花城さんの横顔。腰から上あたりをアップで撮られている。そんな隠し撮りでさえも、まるでシャンプーのCMの女優のように綺麗で…俺は一瞬息をのんだけど、男への苛立ちのままにその画像を削除した。

「ほらよ」
「……。」

ひょいと投げたスマホを男は青ざめた顔で受け取り、黙り込んだまま仲間と校舎に逃げて行った。
振り向くと、花城さんが驚いた顔で俺を見つめていた。…一気に顔が熱くなる。

「……。」

花城さんはまだ動揺した表情のまま、戸惑いながらも小さく会釈をした。それから何か言いかける花城さんに俺も曖昧にぺこっとして、彼女の前を逃げるように横切り、踵を返して教室に戻った。




***



夜の寮で俺は頭を抱えていた。
……なんか今更ものすごく後悔してきた……。

花城さんと大して面識もないのに、あんなふうに花城さんのことで怒鳴ったりして…。絶対引かれたよなー…。あ〜…最悪すぎる…。

「!?倉持先輩が落ち込んでいる…!?どうしたんすか!?好きな子に振られたとか!?」
「さ…沢村先輩、静かにしてたほうが〜…」
「……。」

ゆらり、と立ち上がり、沢村の腕を掴み、そのまま関節をキメた。ギブ!ギブ!ごめんなさい!と叫ぶ沢村を見て少し溜飲が下がり、また立ち上がって机に向かう。今はテスト前だ。勉強に集中しなければ。
……。
……花城さん、昼間のことどう思っただろう。つーか俺、認知されてんのか?

…いやいや!だからなんで俺花城さんのことばっか考えてんだよ!可愛いけど…御幸の彼女だぞ!?冗談じゃねー。

「…あ!そうだ倉持先輩!」
「なんだようるせーなぁ…」

急に、沢村が思い出した様子で声を上げた。本当にいつも騒がしい奴だ。静かな時が不気味に感じるくらい。

「今日花城から倉持先輩のこと聞かれたんすよ!」
「……は!?」
「俺と同室って前に東条から聞いたらしくて!まあそれだけなんすけど…」
「ちょっとまて詳しく話せ!聞かれたって何を!?」

花城さんが俺のことを気になって…!?
動揺する俺に、沢村は親指を立ててにかっと笑った。

「安心して下せえ!倉持先輩の情報は何も漏らしていやせん!」
「……は?」
「俺のリテラシー意識の高さを舐めてもらっちゃ困りやすよ!野球部の情報は誰にも漏らさない!今は大事な時期ですからね!御幸先輩にも口を酸っぱくして言われてやすんで!」
「……。」
「たとえ姫でもそれは例外ではない!姫は稲実の白アタマとも仲が良いって噂ですから!どこから情報が洩れるかわかりやせんからね!」
「……。」
「だからご安心ください!倉持先輩!…先輩?」
「……。」
「ちょっ…なんすか!?なんなんすか!?ちょっ待っ…ぎゃあああああ!!!」
「ひ…ひいぃ〜〜…」

俺はやっと落ち着いたところをまた立ち上がり、無言のまま沢村を締め上げた。

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