065


最近、皐たちよりも、花城さんと過ごすことの方が増えてきた。

「花城さん!おはよー!」

待ち合わせた駅のロータリーで、花城さんは私を見て微笑む。め、めがみだ…。

「おはよう。」
「行こ!」
「うん。」

もう夏休みに入り、私は今日やっと部活が休みで、花城さんとプールに行く約束をしていた。
市民プールはここから歩いて5分もかからない。

「わー、野球部頑張ってるねぇ」

学校のグラウンドのそばを通りかかり、響く掛け声に気づいて、私たちは足を止めた。

「御幸先輩いるんじゃない?」
「うん…」

照れくさいのか、花城さんは少し顔を赤くして横目でグラウンドを見て、俯いた。もう付き合って半年…?くらいなのに…かわい〜…。
すると笛が鳴り、部員たちが一斉に集合して、何やら話をした後にばらばらと解散した。みんな自由に木陰やベンチに座り、飲み物を飲んだりおにぎりを食べたりし始めている。

「休憩かな?」
「うん…」

御幸先輩を探しているのか、花城さんはその様子を見つめている。

「あー!花城先輩!」

びくっ、と花城さんの肩が揺れた。元気のいい眼鏡の男の子と、小さいけどしっかりしてそうな男の子がやって来て、フェンス越しに花城さんに駆け寄った。

「こんにちはー!何してるんですか?」
「拓馬君」

たくまくん、と呼ばれた元気な男の子は、私にもこんにちはと礼儀正しくあいさつし、一緒に来た友達に私たちのことを紹介している。

「花城先輩は光舟と親戚なんだぜ!」
「えっ!そうなんだ」

確かに似てるかも…、と呟く男の子は、花城さんと目が合うとちょっと顔を赤くした。美人っていいなぁ〜…私、男の子にこんな反応されたことないよ。

「私たち、プールに行くところなの」
「プール!?いいなぁ〜!」

拓馬君は本当に羨ましそうに地団太を踏み、目を輝かせた。

「そうだ!今年甲子園行けたら、花城先輩一緒にプール行ってください!」
「え?」

え!?うわ〜!この子1年生なのに積極的…!

「花城先輩とプールに行けると思えばめちゃめちゃ頑張れます!!」
「…拓馬君試合出るんだっけ?」
「あ…!バレてたかぁ〜!でも俺の分まで光舟が頑張るんで!あと…」

ぐい、と拓馬君は友達の肩を抱き寄せた。

「由井も選ばれてるんですよ!なっ由井!花城先輩とプール行くためなら勝てるよな!」
「え、ちょ、ちょっと…」

由井君は顔を赤くしてうろたえた。初心な反応で可愛い…。

「ねっ花城先輩!甲子園行けたら皆でプール!お願いします!」
「うーん…」
「このとおり〜!!」

手を合わせて頼み込む拓馬君に、花城さんは恥ずかしそうに告げた。

「…夏休みの予定は…空けておきたいから」

ごめん、と告げた花城さんの、その言葉の意味…御幸先輩の為だって、多分、私と拓馬君と由井君はほとんど同時に気が付いた。由井君なんて顔を真っ赤にしている。

「え〜〜!じゃあ御幸先輩に聞いてみよ!皆で行きましょーって」
「瀬戸君…」

すごいね君…、と由井君は呆れ気味に呟いた。

「…あ、もしかして御幸先輩探してたんですか?」

ふと、拓馬君が急に思いついたように言って、花城さんは顔を赤くした。

「今日は御幸先輩、今度の対戦相手の偵察に行ってていないんですよ。」
「そうなんだ〜。残念だね花城さん」
「……。」

花城さんはますます顔を赤くして黙り込んだ。

「安心してください!花城先輩が会いに来てたこと、ちゃんと俺が御幸先輩に伝えますから!」
「い、言わなくていい!」

花城さんは赤い顔でそう言って、グラウンドを見渡した。

「…光舟もいないの?」
「あ〜、光舟も一緒に行ってます!」
「一緒に?」

花城さんは目を丸くして、なんだかうれしそうに微笑んだ。

「二人とも仲良いんだ。」
「え?う、うーん…」

どうかなぁ…と苦笑いで呟いた拓馬君を、由井君が言葉を飲み込んだ顔でちらりと見た。仲悪いの…?

「二人ともキャッチャーだもんね。」
「そ、そうですね…」
「……。」
「あ、由井君もキャッチャーなの?」
「あ、ハイ!そうです。」

にっこり、花城さんは女神のような笑顔を浮かべた。

「光舟と仲良くしてあげてね。」

由井君は真っ赤な顔で、絞り出したような声で、はい…、と頷いた。

「……。」

…と、そこへ、大柄でガタイのいい男の子がやってくる。お、と拓馬君たちのその子に気づき、振り向いた。同級生かな?でもなんか、この子…。…今年卒業した、結城先輩に似てる…。

「将司君。」

おつかれさま、と花城さんが声をかけた。

「知り合い?花城さん顔広いねぇ」

「近所の子。ほら…結城先輩覚えてる?」

え?と目を丸くする私。ドキドキと心臓がうるさくなって、脳裏にいつかの日の結城先輩の顔がよみがえった。

「結城先輩の弟さんだよ。」

ぺこり、と静かに会釈をする、その寡黙な様子がまた結城先輩にそっくりで…。結城先輩よりも不愛想だけど、やっぱりすごく似てる。

「そ、そうなんだ…。」
「似てるよね。」

花城さんが微笑み、将司君は沈黙を貫いた。…と思ったら、そのまま歩いて行ってしまった。

「え!?おい結城!何しに来たんだお前!そしてどこへ行くんだ!」
「お腹すいたんじゃないかな?」

由井君の言う通り、将司君は皆のところに戻っておにぎりをもらって食べ始めた。
それを見止めると、花城さんは踵を返した。

「じゃあ、邪魔しちゃうしもう行くね。」
「え〜もう行っちゃうんですかぁ〜!?」
「頑張ってね。」
「プールのこと、御幸先輩に聞きますからねー!」

大きく手を振ってそういいながら見送ってくれる拓馬君に、花城さんは少し笑いながら手を振って、私を見上げた。

「行こう。」
「あ、うん…」

…結城先輩…元気かなぁ…。

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