078


「花城。少し話があるんだけど」

放課後生徒会室に迎えに行って、さあ帰ろうというときにそう切り出すと、花城はきょとんと俺を見上げた。
…襲われそうになったって…そんなことがあったのに、俺の前では何事もなかった顔をしてるんだ。

「話?」
「うん。」

真剣な顔で言う俺に何かを感じたのか、花城はわかった…、と呟いて、周防を振り返った。周防は既に心得ている顔で荷物を持っていて、じゃあお先に、失礼します、と帰っていった。

「…話って?」

ふたりきりになると花城はそう尋ねてきた。…このあどけない顔…この間俺にやっと…1年近く付き合ってやっと、体を晒してくれた…。この初心で純粋な花城が、襲われそうになっただって…?考えただけで怒りが込み上げてくる。

「…先輩どうしたの…?」
「……。…宮口のこと…聞いたんだけど」
「…あ…。な、なにも…なかったよ、大丈夫」
「大丈夫じゃねーだろ…」

震える声で言う俺に、花城は少し青ざめて俯いた。

「倉持がいなかったら…」
「……。」

…違う。そんな話をしたいわけじゃ…花城を責めたいわけじゃない。花城は何も悪くないんだから。俺が…俺が悪い。俺は落ち着くために一度深呼吸をして、花城に向き直った。

「ごめん俺…何もできなくて…」
「え…。ち、違うよ。先輩のせいじゃないし…」
「いや俺のせいだ。それに、気づいてあげられなかった」
「でも…違うよ…」
「花城。…今度からは俺を頼って。ちゃんと話してくれ。…頼むから」
「……。」

こくん、と花城は頷き、ごめんなさい、と呟いた。

「もし何かあった時…自分が何も知らなかったら、俺は俺を許せないと思う」
「……。でも…迷惑…だし…」
「……バカ、迷惑なんて思わねーよ。お前のことなら」
「……。」

花城の頬が少し赤くなった。

「いい?」
「…うん。」
「よし。」

俺は花城の頭を撫で、抱きしめた。

「…本当に無事でよかった」
「……。」

花城の小さな手が、きゅっ、と俺の服を掴む。その愛おしさに胸を焦がして、少しの間抱きしめ合ってから、俺たちはどちらからともなく体を離した。

「…帰るか。」
「うん。」

倉持に宣戦布告されたことは、話さないでおこう…。花城を渡すわけねーだろ。




***




『もしもし一也!?』
「なんか用?」

文化祭を前にして、夜、珍しく鳴から電話があった。

『ちょっと!久しぶりに俺から電話してあげたっていうのに何その態度!?』
「そりゃどーもありがとうございます。で、何?」
『ムカつくなお前!まーいいや…それよりさ!』

ムカつくことよりも大事な用があるらしい。珍しい。どっかの球団からこんな声がかかったとかそういう自慢話かな?

『光ちゃん元気!?』
「……。」

用ってそれかよ…。まだ花城のこと覚えてたか、こいつ…。

「元気だけど?」
『そーじゃなくて!』
「お前が聞いたんだろ…」
『今どうしてんの!?彼氏とかできてないよね!?』
「……ぷ…」
『おい?ちょっと何笑ってんのさ!?』
「悪いけど…俺がその彼氏なんだよね」
『……。』

あー面白い。どんな反応するかな…。
そう思ったけど、鳴はしばらく沈黙した後で、言った。

『…ハァ?何言ってんの?』
「……。」
『そういうつまんねー冗談はいいから!』
「いやマジなんだけど…」
『はいはい!それよりさ光ちゃん何組!?文化祭会いに行くから教えてよ!』
「やだ。」
『は!?なんでだよ!』
「だから付き合ってるつってんだろ。ちょっかい出すな。」
『あーもーいいよ!自分で探すから!』

じゃあね!!とキレ気味に電話を切る鳴。マジか、今年の文化祭も来るのか…。めんどくせーことになりそう。

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