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「そんなに怒るなよ。」
「……。」
じゃんけんに勝った俺は、光と二人で中庭を歩いていた。じゃんけんに負けた成宮とかいう奴は泣く泣く友達に引き摺られて行き、倉持とかいう奴はため息をついてどこかへ去っていき、彼氏の御幸一也は最後まで不服そうだったが「少しだけだ」と俺が言うと渋々納得した。
「だってせっかく先輩と…」
「だから、ちょっと回ったら戻って良いって言ってるだろ。」
「何の意味があるの?」
「勝負の意味がなくなる。成宮と倉持とかいう奴が勝つより良かっただろ。」
「……。それで…何するの?」
早く恋人の所へ戻りたいのだろう。光は俺なんて眼中にない。
俺もそう振舞わなければならない。俺の光への気持ちに光が気づいたら、もうこんな風には過ごせなくなる。
「…今日は話があって来たんだよ。」
「話?」
「昨日…父さん達から連絡が来たんだ」
「……。」
光の表情を見るに、やはり彼女には何の連絡もないのだと知る。
「来週…光希が帰って来る。」
「……。」
光の顔が青ざめた。
「な…なんで?どこに?」
「留学が終わって。東京に。」
「やだ!私…神奈川の別荘に行く。学校もそこから通う!」
「わかるけど…光に会いに帰るんだ、どこに行っても無駄だよ」
「……。」
光は涙ぐんで俯いた。
光希は光の3つ上の異母姉で、留学の為2年間スイスへ行っていた。かなり傍若無人な人物で、短期で暴力的な女で、光のことは好んでいるようだが光は姉を恐れて嫌っている。小さい頃から暴力を受けてきたし、言葉でも虐げられてきた。もともとは長子である姉の光希と俺が結婚するはずだったが、光希が反発し、長女に弱い光の父親は代わりに光に婚約させた。そのおかげで、光希はのびのびと大学生活を送り、望んだ留学もできている。
正直彼女との結婚話が流れたのは俺にとっては万々歳だが、光が気の毒でもあった。
「…いつからいつまでいるの?」
「来週の月曜に到着する予定だ。大学が休みだから…いつまでいるかは気分次第だと思う。」
「……。」
光は唇を噛んでスカートを握りしめた。
光希が来れば、実質光の居場所はあの家になくなる。光の自室も、母親からもらったあの小屋も、光希はずかずかと上がり込む。
「…俺も帰るよ。光希がいる間」
「え…。」
「家の都合だと言えば、許可が下りると思う。家から学校にも通える距離だし」
「…本当?」
「ああ」
従弟で一応他人の俺がいれば、光希は一応は理性を保つ。
「…家ではずっと一緒にいて。あいつと私をふたりきりにしないで」
「わかってるよ」
「……。」
光は安堵したように涙を拭って、俺に抱き着いてきた。俺は柔らかな彼女の髪から目を逸らし、背中に片手を添えて、しばらく息を止めた。
彼女のぬくもりを、甘い香りを感じてしまわないように。
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