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「ただいま…」
「おかえり〜!!」

光の帰宅直後、光希が光を抱きしめた。あとから階段を下りていくと、光のひきつった笑顔と視線がぶつかった。

「あ…光希帰ってたんだ…、おかえり…」
「はぁ?2年ぶりに会うのにそれだけ!?冷たすぎない?」
「いや、びっくりして…」

ごめん、と光が言うと、光希は一応納得した。

「お土産アンタの部屋に置いといたから。」
「あ…ありがとう」
「つーかマジで白栄辞めたんだ?その制服地味〜!なんて高校だっけ?」
「…青道高校」
「あーそうだそうだ!なんか甲子園とか出てるんでしょ。庶民って感じ〜。白栄の高校の制服、中学より可愛いのにもったいな〜い。」
「別に…青道も楽しいから」

光が呟くと、光希はにわかに不機嫌になった。

「何?怒ってんの?別にバカにしたわけじゃないんだけど。」
「…わかってるよ。怒ってないし…」
「っていうかやっぱ日本は退屈だな〜!ねー光の部屋に泊まっていい?私の部屋飽きちゃったし。」
「え…」

「今テスト期間中なんだよ。」

俺が階段を下りて行き、口を挟むと、光希はやっと俺に気づいて口を噤んだ。

「テスト勉強ヤバいんだろ?光。」
「え…。あ、う、うん。そう…苦手な教科が…」
「ふーん…じゃいいよ、自分の部屋で寝るから」

光希はつまらなそうに口をとがらせ、足音を立てて階段を上がっていった。

「…ありがとう」
「別に。」

光はため息をつき、俺と並んで階段を上がる。

「あーもう…悪夢の日々の始まりって感じ」
「退屈って言ってたし、またすぐどこか行くんじゃないか?」
「ならいいけど…。…あ、ばあや」

通りかかったばあやを光が呼び止めて、はいなんでしょう、とばあやは柔らかなほほえみを浮かべた。

「今日から夕食は私、部屋で…」
「…食事くらい一緒にとらないと、また機嫌悪くならないか?」
「……。」

確かに、と光は青ざめた顔に浮かべた。

「…なんでもない。用意出来たら…呼んで」
「はい。」

ばあやは光の苦労を見越したような笑みで頷き、気の毒そうに眉を下げ、仕事に戻っていった。

「そういえば、今日は料理しないのか?」
「するわけないじゃん。光希に知られたくない」
「ああ…」

確かに、また余計な問題が増えそう。御幸一也のことも、光希には知られないほうがいいだろう。

「…彼氏、家の近くに連れてこないほうがいいぞ。」
「わかってるよ。どうせ今テスト期間で会えないし」
「…ならいいけど」
「光臣。」

光の部屋の前まで来ると、光は声を潜めて顔を近づけてきた。

「着替えたら呼ぶから、私の部屋に来て。夕食まで一緒にいて。」
「……そこまで?」
「私の部屋、遠慮なく入ってくるもん。いろいろ漁られても嫌だし、光臣がいてくれたら安全だから」

ね、お願い、と手を祈るように組んで、光は俺を見上げた。

「…はいはい」
「やった!ちょっと待ってて。」

光は嬉しそうに部屋のドアを閉めた。俺がいれば安全…か。
俺が何度、頭の中や夢の中で、彼女の思いもしない方法で、光の体に触れたか。考えもしないんだろうな…




***



夕食が済み、入浴も終えて、下着とズボンだけの姿でバスルームから出たところで、いきなり部屋のドアが開いて光が駆け込んできた。

「…おい、ノックしろよ」
「ごめん!でも捕まるところだったの」

焦りを押し隠してシャツを羽織り、ボタンを閉める。光はドアの外の様子を窺っていて、俺のことなんてまるで意識していない様子で、少し腹が立つ。

「…は〜、部屋に戻ったみたい」

まるでゾンビ映画でゾンビから逃げる人間のような物言い。光は俺を振り向いて、困った顔をした。

「しばらくいてもいい?今顔合わせると絶対一緒に寝ようって誘ってくると思うから」
「……いいけど…俺はもう寝る」
「え?ずるい!」
「ずるくない。」

これ以上光に振り回されるのはごめんだ。夜、ふたりきりで自分の部屋にいるだけでも勘弁してほしい状況だというのに。ベッドにもぐりこむ俺を見つめ、何を思ったか光は呟いた。

「…私もここで寝ようかな」
「…は?」

思い切り顔が引きつってしまった。だって、何を言ってるんだ、光は。

「だって部屋に居たら絶対光希が来るもん」
「……光希と一緒に寝たくないんだろ?」
「うん。」
「それと同じことを今俺にしてるの、自覚してる?」
「……。」

光は目を瞬いて、眉を下げた。

「光臣…そんなに私のこと嫌だった?」
「……あのな。光、馬鹿だろ?」
「え?」
「はー……馬鹿」
「な…何なの?怒るよ?」
「怒れば?」

言い返すと、光はムッとして口を噤む。光が本気で怒ることなんてめったにない。

「わかってないだろ。俺は男なんだぞ。」
「……。」

光はドアの前に立ったまま、目を瞬いた。

「…わかってるけど?」
「……。」

…全然わかってない…。

「ちゃんとわかってるってば!でも家族でしょ。従弟なんだから。この前キスしたって、全然なんともなかったでしょ。」
「……。」

なんともなかった…?光は俺にキスをされてもなんともなかった、って言えるのか。
本当…馬鹿だな。…俺は。
今…光をベッドに押し倒して、「なんともなかった」なんて言えないくらい濃厚なキスをして、服を脱がせてその体に触れたら――少しは俺のことを男として意識するんだろうか。いや、でも、俺が…家族で唯一味方でいようと決めた俺がそれをしてしまったら、光は居場所をなくしてしまう。よりによって、光希がいるこの時に…そんなことにはさせられない。

「あ〜、もう〜…光希まだ起きてるし…。」

窓の外からバルコニー越しに光希の部屋の明かりを見て光は嘆く。
俺はため息をついて、ベッドの端に移動した。

「…仕方ないな。」
「え?」
「今日は…ここで寝れば。」

素っ気なく言うと、光はそれはそれは安心した笑顔を浮かべて。

「いいの?」
「蹴飛ばすなよ。」
「しないよ!バカ。」

光は無防備にもベッドに入ってきて、横になった。

「ありがとう光臣。おやすみ。」
「…おやすみ。」

…寝れるわけないだろ。馬鹿。

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