090
ついに光と最後まで……した。
ヤバかった……とにかくすごかった。光の体、スゲー綺麗で…真っ白で、柔らかくて…
そんで、中はすげぇ気持ちよくて……
…でも。
夢中で腰振って、さっさと一人でイッて…俺、クソダセェ…。
AVはファンタジーっていうけど…少しくらい、光も気持ちよくなれるように、俺に余裕があったら…。
せめて、痛がってる時に一度でも光を気遣っていたら…!
真っ白な肌の上に淡くにじんだ血の色が今も脳裏に焼き付いて離れない。
御幸一也17歳11か月、童貞卒業…したはいいけど、なんだか凹む。
…やっぱりメールでもう一回謝って…
携帯を開きかけ、光臣の顔がよぎった。
今日はずっと一緒にいる…。
今メールを送っても、光はあいつの隣で俺からのメールを読むんだ。
……やっぱり月曜日、ちゃんと顔見て話そ。
携帯を閉じて寮の門をくぐった。
外にはいつも通りバットを振ってる自主練組がいて、おかえりなさーい、と俺に声をかけてくる。
「…彼女さんと会ってたんかな?」
「あのめっちゃ美人な彼女さん?」
「いいよな〜…」
1年がそう噂しているのを漏れ聞きながら、くすぐったい気持ちで寮の自室に戻った。
***
「御幸!球団の人が来てるぞ」
「御幸、昼休み降谷に話聞いてやってくれ」
「御幸〜、放課後取材入ってるから校長室な。」
月曜日、目が回るような忙しさであっという間に放課後になってしまった。
どうしよう。全然光と会えねぇ。
「御幸、片岡先生が早く来いって!!」
「あー、わかってる!」
HRが終わるなり教室を出ると、廊下ではまたたくさんの人に絡まれる。
「御幸〜サインくれよ!」
「どこの球団行くの?」
「まだ決まってねーよ!」
「御幸くーん!メアド交換しよ!」
「私も私も〜!」
「あ〜…いや…」
「御幸!彼女来てるぞ」
喧噪の中でその言葉を聞き、俺は振り返った。クラスメイトが手招きする隣に、光が立っていた。
頷いてそちらに向かうと、クラスメイト離れて行って、光が俺を見上げた。
「ごめん!どした?」
「……。…えっと…」
「…?」
光はどこか元気がなく、言葉に迷っていた。
「…あのあと大丈夫だった?」
「え…、あ、う、うん…」
だけど頷いた光が、普通に立って歩いていて元気そうな姿を見て安堵した。
「御幸ー!」
「悪いちょっと待て!」
「違ぇよプリントの提出!」
「え!今日だっけ」
「そーだよ、もう出しに行くんだけど忘れたなら」
「待って!ある!ちょっと待ってて」
クラスメイトを待たせ、俺は光を見た。
「ゴメン、ちょっと待ってて」
光が小さく頷いたのを見て、教室に駆け込み、プリントを持ってきてクラスメイトに託した。
そしてまた光を探すも、もう廊下に光の姿はなかった。
「花城さんならさっき階段おりてったぞ」
きょろきょろと辺りを見渡していた俺に、いつからいたのか倉持がそう声をかけてきた。
そして俺の反応も見ずに、倉持は荷物を肩に下げて帰って行った。
光…どうしたんだろう。
「御幸!片岡先生が!」
「わかってる!今行く!」
***
…なんてことをしてる間に3日経ってしまった。
新生野球部はまだ不安定で様子を見てやらなきゃならないし、俺自身進路のことで手いっぱいで…
光も生徒会の仕事が忙しいらしく、教室に2度行ったけど会えなかったし、何の連絡もなくて。
もともと光はメールとかあまりしないタイプだし…今までも数日会えないことは珍しいことではなかったけど、アレのあとだから一度顔を合わせて話したい。ヤッたらヤリっぱなしで顔も見ないなんて、なんか、最低な男みたいだし…
…やっぱメールしよ!何もしないよりはマシだ。
俺は起き上がって携帯電話を開いた。
光宛のメールを作成し、本文を開く。
『元気?何してる?』
……こういう中身のないメールは光は嫌がるんだよな…
『明日の放課後会える?』
……なんかまたヤラせろって言ってるような気が…
『痛みは大丈夫?本当にごめん』
……3日も経って今更何言ってんだって感じだな……
…やっぱり直接会って、体は大丈夫か聞いて、光の気持ちを確かめた方がいいよな…。
あの日はどう考えても俺の独りよがりで…光の気持ちを無視していた。やっとできるって、そればっかりで…
あ〜〜〜〜……できることならやり直したい……
***
『3年B組御幸一也君、至急応接室へ来てください。繰り返します……』
昼休み、そんな校内放送が流れた。今日は球団関係者のアポもないし、取材の予定もないはずで、完全に寝耳に水だった俺は音を立てて椅子から立ち上がった。にわかに教室内の注目を浴びながら呼び出しに応じて応接室へ向かうと、部屋の前では校長と教頭が話していた。
「しかしわが校は多額の寄付金を頂いているしなぁ…」
「御幸と花城が交際しているという話もありますが…」
「要望通り話をさせるしかなかろう。未来ある若者を悪いようにはせんだろう…」
「あの…」
声をかけると、俺に気づいた校長と教頭ははっとして顔を見合わせた。
「お、おお、御幸君。君に話があるという方が見えていてね…」
「…どなたですか?」
記者か、球団関係者か…いや、さっき花城って聞こえたような?寄付がどうとかも。
「2年の花城光という女子生徒のことは知っているかね?」
教頭の言葉に一瞬面食らった。
「ええ…知ってますけど」
教頭と校長は焦ったように顔を見合わせた。
「…では、彼女と交際しているという話は本当かね?」
「え?」
どうしてそんなことを…。
「……まぁ…そうですね…」
頷くと、教頭と校長はいよいよ青ざめた。
「…ま、まあ…そうか、わかった」
「実は…花城さんのお父様が見えているんだ」
「ひか…花城のお父さん?」
「とにかく、中に入りなさい。話があるそうだから…」
教頭と校長に押されるようにして、応接室のドアをノックした。
「どうぞ」
中から低い声が返ってきた。
「失礼します…」
ゆっくりとドアを開ける。応接室の椅子には、一人の男が深く腰掛けていた。その後ろには男が一人、まるで映画で見るボディーガードのようなスーツで控えるように立っている。
座っている男が…光の父親だろうか?
まだ若く見える。髪は光とは違い、カラスの羽のように真っ黒で、切れ長の目も黒々としている。パリッと張ったような肌とシュッとした輪郭、吊り上がった眉と細く通った鼻筋…。美形だけど冷たい印象を受ける。そして、さすが高級そうなスーツを着ている…。
男はしばらく品定めるように俺を上から下までよーく見て、薄い形のいい唇を開いた。
「座りなさい。」
「……。」
俺はドアを閉め、男の言葉に従って、男の向かい側の椅子に腰かけた。
部屋の中の空気は張りつめていた。男が俺を見る目には全く遠慮というものがない。しばらくの間男は黙ったまま俺を見つめていて、やがてふっと視線を外したかと思うと、机上にサッと紙を置いた。それはスマホで撮影されたらしい画像で、よく通る土手の道を、光と俺が手を繋いで歩いている姿が写っていた。
「これは君だな?」
「……。はい。」
俺の返事を確認すると、男は背もたれに背を預けてふんぞり返った。
「娘と交際してどのくらいになる?」
「え……。……一年…くらいです」
俺の答えを聞くと、男は深いため息をついた。悪い予感が当たってしまった…とでもいうように。
「娘と性行為は?」
「……、え?」
言葉を失った俺を、男はじっと見つめた。すべてを見透かすような鋭い眼は、射抜くように俺を睨んでいた。俺は知らず知らずのうちに息を止めていて、どれくらい時間が経ったのか、やっと視線を外されると途端に、沸騰する湯のような焦燥感と決まりの悪さを覚えた。
「もし君との行為で娘にもしものことがあったらどうするつもりなんだ?」
「……。」
「その時は君に相応の責任を取ってもらうことになる。」
「……。」
「とにかく…娘とは別れろ。話は以上だ」
「…なぜですか?」
「何?」
退室を促す男を無視して、俺は光の父親を見た。
「なぜ別れなければいけないんですか。」
「娘には婚約者がいる。」
「……。」
「知っていたようだが。」
そうだけど…。でも、それは…光は望んでいないことで…
「さっき…君に相応の責任を取ってもらうと言ったが、とても君が責任をとれるような問題じゃあないんだよ。」
「……。」
「わかるだろう。屋敷にも時々来ていたようだからな。娘と君は住む世界が違うんだ。」
「……。」
「仮に娘に婚約者がいなかったとしても、私は君のような男との交際は認めない。」
散々な言われようだな…その通りだけど。
俺は町の小さな鉄工所の父子家庭育ち…光は規模も推し量れないほどのお嬢様。
「聞いたが…君は少々有名だそうだな。」
「……。」
「プロ野球選手として将来有望だとか。野球界には何人か知り合いがいてね」
「……。」
「幸い君はあと数か月で卒業する。いい機会だから、もう娘とは会わないでくれ。」
「……、嫌です。」
「……。君の気持ちは関係ないんだよ、せっかく輝かしい将来があるというのに、余計なことで道を閉ざしたくはないだろう。」
…脅すつもりか?だけど…こんな別れって…
「悪いがこれでも忙しい身でね。これで失礼する。」
光の父親が立ち上がり、俺を見下ろした。
「もう会わないことを願うよ。」
そう言い残して、男たちは部屋を出て行った。
俺は膝の上で拳を握り締めた。
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