ゴトン、という物音で目が覚めた。
「あ…寝てたのか、ごめん。」
リヒトがドアを閉めた音だったらしい。私は目を擦って起き上がり、リヒトを見た。
「ソーマらしい人を見たって言う人もいたけど、あまり当てにならない。この街は旅人が多いらしくて…」
「…そう、なの。」
「あ、あと、薬草が高く売れた。旅人が多いから需要も高いらしい。」
「よかった。」
リヒトは上着と靴を脱いで私の隣のベッドに腰を下ろす。彼が近づくと、少し酒の匂いがした。
「お酒…?」
「あ…あー、少し…勧められちゃってな。あ、金は大丈夫だぜ!」
「……。」
リヒトって…何歳だっけ。あ、でもこの世界って、20歳になってなくてもお酒飲んでいいのかな…?
「まあ、明日…朝になればもっと人がいるだろうから、また聞き込みしてみようぜ。」
「…うん。」
ソーマ…今どこにいるんだろう。
私たちが追っているなんて、思ってもいないのかな。
ひとりで…寂しくないのかな。
「…レイちゃん」
ふと、リヒトが思い詰めたような顔で私を見つめていることに気づいた。
「ソーマのこと、心配してるんだよな。」
「え…。」
私、そんなに顔に出してたのかな?
確かにソーマは心配だけど…。
なぜか、彼を追わなきゃって…会わなきゃって…焦る気持ちがある。
紋章の、影響…?
「レイちゃん。」
リヒトが思い切った顔で立ち上がり、そばに来て、私の隣に腰掛けた。リヒトの重みでベットが沈み、ギシ、と軋んで音を立てる。
「…ソーマとは、そういう…関係だったのか?」
「…え?」
そういう…関係?
私はしばし考え、自分の予想した翻訳が多分間違っていないことを確かめた。
「…そういう…違うよ。」
「…え、だけど、こんなに必死に心配してるし…」
「……。」
私は少し悩んだけど、ここまで一緒に来てくれて、一生懸命に協力してくれているリヒトに、紋章のことを打ち明けることにした。
ただ、言葉が拙いぶん、説明は不足するだろうけど…。
「…これ。」
私はリヒトに右手の甲のあざを見せた。
「これは?」
「光…の、力。」
「光の力?」
「前…。ほこら、倒れた。」
「ああ…あの時」
「あの時。これ、ここに…できた」
「……???」
リヒトの顔にはてながたくさん浮かんでいる。
だけど私はこれ以上上手く説明できる気がせず、強引に話を進めた。
「ソーマ、闇…の力、持ってる。」
「…え!?」
光と、闇。
それが揃って、リヒトは少し話を理解した様子で息を呑んだ。
「ソーマ…苦しい、してた。私…できなくて、だから…。」
「…なんとなく、わかったよ。」
リヒトは私の手に自分の手を重ねておいた。
「だからソーマを追いかけようとしたんだな。」
「…うん。」
リヒトは力が抜けたように顔を緩め、長いため息をついた。
「なんだ…。」
項垂れた彼の頭を見つめていると、顔を上げたリヒトと目が合った。
リヒトは私の手の甲に視線を落とし、あざを撫でた。
「これは…どういう力なんだ?」
「…わからない。」
ソーマに向けて力を使おうとしたけど、何の反応もなかった。だけど、森で見たあの黒く焦げた残骸が、本当にソーマの力なのだとしたら…ソーマのそれも自分のこれも、とてつもない力なのかもしれないと思う。
「