「とりあえずは、この道をたどって進むしかないよな。」
リヒトと二人、森の中を進む。
森にはほとんど草に覆われている道が一本伸びているのみで、ソーマがどこへ向かったのかはわからない。だからまずは、この道をたどって進むしかない。
「俺も狩りで、途中までしか行ったことないけど…この森、結構深いと思うんだよな。」
「そう、なの?」
「まあ、危険な魔物は少ないし、俺がいるから大丈夫。」
リヒトは背中の長弓を指して言う。確かに、彼の弓の腕前はすごいと、以前ドレンも褒めていた。
「さて、そろそろ俺が知ってる道を出るけど…」
森の木の枝には、ここから先は危ないから行くな、とドレンが結び付けた黄色いリボンが結ばれている。私たちはその黄色いリボンを見上げながら、木の横を通り過ぎた。
「ここからは気を付けていこう。」
「うん。」
リヒトと森を歩く。時々小鳥のさえずりが聞こえ、道中は穏やかだった。
「あ…!」
リヒトが立ち止まって手を広げ、私の行く手を遮った。
「魔物がいる!ここにいて。」
「う…うん。」
見ると先の木の根元に大きな毛玉のようなものが動いている。
あれは…もさもさだ!
実際に見るのは初めてでこっそり感動していると、リヒトは弓に矢をつがえ、遠くにいるもさもさを見事に射抜いた。もさもさは黒い靄のように霞み、消えてしまった。
「わぁ…!」
思わず拍手すると、リヒトは自慢げに私を振り向きはにかんだ。
もさもさがいたあたりに駆け寄って、落ちていた矢を拾って、まだ使えるな、とまた矢筒に戻す。考えてみれば、矢は貴重品だ。
「魔物といってもこの程度か、心配いらなそうだ…な…、」
足を踏み出したリヒトが固まった。追いかけて行った私も、目の前の光景を見て背筋が冷えた。
そこは木々が焦げて真っ黒になり、なぎ倒され、ぽっかりと穴をあけた空間が広がっていた。
「なんだこれ…。」
愕然とするリヒトの横で、私はソーマの言葉を思い出していた。
黒い雷を落とし、塔を粉々に…。
これは、ソーマの力が暴走したということなのだろうか。
「ソーマ…。」
私がつぶやくと、リヒトは私がソーマの身を案じたと思ったのか、努めた笑顔で私の肩を抱き込んだ。
「大丈夫だって!あいつ、ちゃっかりしてるし…きっと無事だ。」
「…うん。」
私は胸騒ぎが収まらないまま頷いた。
「とにかく、休めそうなところを目指して歩こう。」
「うん。」
私たちはまたしばらく歩いて、日が暮れる前に、大きな木のうろを見つけて毛布を敷き、体を休めることにした。
リヒトが火を熾し、干し肉を割いて渡してくれた。
「レイちゃん、休みなよ。俺は火の番するからさ。」
「あの…かわ、り?代わる…?」
「あ、交代で?うーんまあ、俺は全然平気だけど…」
「ダメ。」
「ははは、わかった、少ししたら起こすから。」
「うん。」
私は火の明かりに背を向け、寝転んだ。
ほとんど一日歩いていた疲れからか、こんな場所でもすぐに睡魔が襲ってきた。
多分、すぐ近くにリヒトがいるという安心感もあるからだ。
そんなことを考えながら、私は眠りについた。
目が覚めると、あたりがうっすら明るかったので驚いた。
飛び起きて見渡すと、火の消えた焚火跡と、木にもたれかかって眠そうな顔のリヒトが目に入る。
「あ…起きた?」
へらり、と楽しそうに笑ったリヒトに、私は顔を赤くした。
「な…、どうして!」
「いや〜すごいカワイイ寝顔だったからつい…」
なんちゃって、とおどけるリヒトに、私は恥ずかしさでむっと顔をしかめた。
「あ…、え、レイちゃん、怒った?」
「……。」
「ご、ごめんって!でも俺、本当に大丈夫だから安心して!」
リヒトは慌てて元気だというジェスチャーをして見せた。私は言ってやりたいことがたくさんあったけど、言葉にすることができなくて、そのもどかしさからもますます鬱憤が溜まってしまった。
「レイちゃん〜!」
だけど慌てるリヒトがおかしくて、今回は許してあげることにした。
「もう、しない?」
「しないしない!」
「じゃあ…。わかった。」
うなずくと、リヒトは胸をなでおろす。
「…休む?」
「え、いやいや、俺は本当にへーき!普段も徹夜のひとつやふたつ、よくしてるし。」
「……。」
そして私があきれた視線を送ると、へへへと無邪気にはにかんだ。