004
「なあ、A組の人?」
教室前で信二と話していたら、知らない男子生徒に呼び止められた。上靴の色からして2年だ。…そしてイケメンだ。
「そうですけど…」
「よかった。ちょっと、人を呼んでほしいんだけど…」
「あ、はい。誰ですか?」
「…花城さん。呼んでくれる?」
ドキンと心臓が跳ねた。思わず信二と顔を見合わせてしまった。
花城さん、本当にモテるな〜…!
「あ、俺のこと知らないと思うから、速水…って名前伝えてくれる?」
「あ…ハイ」
しかも知らない先輩!?じゃあ、ひとめぼれ…ってやつ?
ドキドキしながら教室に入ると、花城さんは席で本を読んでいた。鷹野さんはいないらしい。よかった。
…っていうか、俺も花城さんに話しかけるの、緊張するんだけど…。
「…は、花城さん。」
ふっと、薄い茶色の瞳が俺を見上げた。顔見て話すの、緊張するなぁ…!
だけど今の俺には、れっきとした要件がある。
「なんか…先輩が呼んでるよ。」
「え…?」
心当たりがないのだろう。花城さんは訝しげに廊下を見た。
「速水先輩、っていう人らしいけど…」
「……。」
しかしその名前を告げると、花城さんは何か思い当たった様子で席を立った。
俺も信二のところに戻るために廊下へ行くと、先ほどの先輩のところに三木がいた。
「速水先輩、こんなところで何してるんスか?」
「いや、ちょっとね…」
知ってる先輩なのだろうか。部活の先輩とか?
速水先輩は困ったように笑いながら、花城に気が付くと、あっ、と手を挙げた。
「花城さん。」
名前を呼ばれて振り向く花城さん。三木が目を見張って、えっ、と声を漏らす。
「じゃな、三木。…ごめん花城さん、呼び出して。」
三木から離れ、花城さんに駆け寄る速水先輩。二人はそのまま速水先輩の先導で、渡り廊下のほうへと歩いて行った。
「…え!?お前何か知ってる?」
三木が駆け寄ってきて俺に縋りつく。信二もやってきて、二人が去って行った方を何度も振り返って見ていた。
「いや、呼んでって言われただけで…。三木知ってる先輩?」
「知ってるよ!サッカー部のエース!しかもイケメンで有名!うわーまじかよ、速水先輩も花城さん狙いかよー!彼女いるはずだったのに…」
「そうなんだ…」
「別れたのかなー。うわー、速水先輩とか…適わねぇよ俺」
三木はあまり話したことはないであろう信二の前でもお構いなしにうんうん唸って頭を抱えた。それくらい衝撃だったらしい。
「大人気だよなー、花城さん…。うちのクラスでもぶっちぎりの人気だぜ」
「…だろうな〜。あぁ〜〜」
信二が三木に同調するように言うと、三木は大げさに項垂れて、二人は少し仲良くなったように見えた。
少し話してから、予冷が鳴る前に信二は自分のクラスに戻り、俺と三木も自分の教室の席に戻った。花城さんは予冷が鳴って少ししてから戻ってきて、少し急いで教科書の準備を始めた。
「あー!光、どこ行ってたの〜?」
花城さんが戻る少し前に教室に戻っていた鷹野さんがやってきて、花城さんに話しかける。そ、それは俺も気になる…。
「うん、ちょっと…」
「イケメンの先輩に呼び出されてたよねー!花城さん!」
言葉を濁した花城さんのほうに身を乗り出したクラスメイトの女子が、にやにやと笑った。
「え!?なにそれ聞いてない!誰!?」
「サッカー部の速水先輩だよね〜〜花城さん〜!」
「……。」
「あのイケメンの!?ええぇ!!光!!何話したの!?告られた!?」
「違うから!司静かに…!」
「教えてよ〜!!」
「あとでね!」
う…!き、気になる…!
けど、言いふらさない花城さんもまた、いい子だなあって思う…。
「ホラー席につけー」
チャイムが鳴り、先生が入ってきた。鷹野さんはもどかしげに自分の席へ戻っていき、号令をかけた。
花城さんはいつも通りきれいに背筋を伸ばして、教科書を開いた。