006

「東条、おはよー!」
「試合勝ったんだってな!おめでとう!」
「あはは、ありがとう。俺は応援だけどね」

昨日は野球部の試合で学校は欠席していたこともあり、今日登校したらクラスメイト達が声をかけてくれた。

「花城さん、おはよう!」
「おはよう。」

今日も勇気を出して挨拶をすると、花城さんは少し慣れた様子で挨拶を返してくれた。これ…自然になってきてる…よな!?頑張ったかいがある。そのうち、話もできるようになれたら嬉しいんだけど…。

「光ー。」

そのとき、鷹野さんが花城さんのところへやってきた。

「今日の帰り、駅前じゃなくて、学校裏のコンビニ行かない?」
「いいけど…なんで?」
「これ!」

鷹野さんは興奮気味にスマホの画面を花城さんに見せた。

「期間限定のシュークリーム、今日から発売なの!セブンにしか売ってないからさぁ。」
「へー。でもそれだと部活終わってからだから…遅くなっちゃうけど、売り切れてないといいんだけど。」
「それ!それなのよ!」

女の子だなぁ…。
…っていうか、それって…今日の夕方に学校裏のコンビニに行けば、花城さんと会える…?
…い、いやいや!なんかそれってちょっと、ストーカーみたいだよな。ダメだろ、そんなの。

「じゃ、そういうことで!」

予鈴が鳴ったので、鷹野さんは急いで自分の席に戻った。
…コンビニ…かぁ。



***



「沢村ァ、ポテチ買ってこい!」
「ハァ!?俺は忙しーんですよ!!」
「テメーの都合なんざ知るか!」

沢村が倉持先輩にいつものごとく絡まれている。同室で仲がよさそうだ。

「まーたやってるわ…」

信二が呆れたような、だけどちょっと気味がいいような感じで、沢村たちを見て言った。

「たまには自分で買いに行けよ!」
「あ?テメェまたタメ口ききやがったな?コラ」
「いてててててて!!!!」

「あ、あの!」

沢村を羽交い絞めで締め上げる倉持先輩に声をかけると、信二がぎょっとして息をのんだのが分かった。

「俺、コンビニ行くんで、買ってきましょうか」
「お!東条気が利くな!ヒャハハ、テメェも見習えよバカ村!」

倉持先輩は上機嫌で沢村を小突いて解放した。

「じゃ、コンソメな。あとファンタグレープも。」
「あ、はい!」

倉持先輩が部屋に戻ると、信二が俺を見た。

「いきなりどうしたんだよ東条。」
「いや、ちょうどコンビニ行きたかったしさ。」
「東条ありがとう!助かった!」

沢村が起き上がってそう言うと、今度は信二にどつかれる。

「そーだよお前東条に感謝しろよ!」
「してるわ!」
「ははは、全然気にしないでよ。」
「…しゃーねえな、じゃあ俺も行くよ。」

信二は財布とってくる、と部屋に向かった。俺も部屋へ行って財布とスマホを持って戻ってくると、もう信二が待っていた。
…花城さんのことを考えて、とっさに申し出ちゃったけど…ずいぶん思い切ったことをした、と我ながら思う。花城さんたちと会えるかな…。
…でも、そういえば、会えたところで何を話せばいいんだ!?

「なんかあったのか?」
「え?」

俺が黙りこくっていたからか、信二が心配そうに聞いてきた。

「いや!何もないよ。ちょっと疲れただけ。」
「そーか…?」

学校裏のコンビニはすぐそこだ。お店の前には、ちらほらと部活帰りらしい青道生がいた。

「で、東条は何買うんだ?」
「え?あ、えーと…シュークリーム?」
「なんで疑問形だよ、来たかったんだろ?コンビニ」

ははは、と笑ってごまかした。コンビニに入ると、お客さんはまばらだ。
…花城さん…いないかぁ。そんなに、甘くないか。

「…お、東条、これ?シュークリームって」

信二がスイーツコーナーで小袋を手に取った。期間限定と書かれたそれは、きっと鷹野さんが言っていたシュークリームだ。

「最後の一個じゃん。よかったな」
「え、ああ、ありがと…」

落胆した気持ちのまま笑顔を作り、信二からシュークリームを受け取る。
花城さんたち…これ、買えたかな?花城さんもこれ、食べたのかな。

「あと倉持先輩は…ポテチのコンソメと、ファンタグレープだったっけか。」
「うん。」
「俺、ちょっと雑誌も見てくるわ」
「了解。」

かごを取り、倉持先輩の要望のものを入れて、雑誌コーナーにいる信二のもとへ行った。まだ新刊出てなかったわ、と信二は残念そうに言った。
そのとき、入店のアラーム音が鳴り、にぎやかな声が響いてきた。

「あるかなー!シュークリーム!」

これ…鷹野さんの声だ!
にわかに緊張して、たった今入ってきた女子高生たちのほうを見た。やっぱり…花城さんと、鷹野さんだ!

「あれ?」

スイーツコーナーの前に立ち、のぞき込んだり見渡したり、しゃがんだり背伸びしたりする鷹野さん。

「あれ?え?…あ!!ここにあったんじゃん!」

そして空になった棚にシュークリームの値札だけを見つけたらしく、悲しそうに声を上げた。

「売り切れ!?そんなぁ〜!」
「遅くなっちゃったもんね。また明日来ようよ。」
「え〜〜〜ん」

花城さんになだめられてがっくりうなだれる鷹野さん。

「おい、あれ…花城さんじゃん。」

信二も騒ぎで気が付いたようで、こっそり俺を小突いて言った。やっぱ可愛いな、と目が物語っている。

「…ちょっと行ってくるよ。」
「え?東条!?」

俺は緊張で足がすくむ前に、とっさに進み出た。花城さんのほうへ。

「なあ。」

声をかけると、顔を上げて俺を見る二人。

「シュークリームって…これ?」

カゴから先ほどのシュークリームを取り出すと、鷹野さんの目がパアッと明るくなった。

「それ!そう!えっ、てか、東条君なんで!?」
「あはは、先輩のパシリでさ。これ、俺はいいから、買いなよ。」
「いいの!?」

鷹野さんはシュークリームを受け取り、嬉しそうに顔をほころばせる。

「ありがとう〜〜〜!東条君!」
「よかったね司。」
「うれしい!!」
「あはは。よかった。」

急に照れ臭くなって、じゃあ…、と踵を返そうとしたとき。

「東条君。」

花城さんの甘い茶色の瞳が俺を見つめた。

「ありがとね。」
「え…、い、いや!全然!」

恥ずかしいくらい挙動不審になって、熱くなる顔を隠すのが精いっぱいで、俺はぎこちなく信二のもとへ逃げ帰った。

「優しいじゃん。」
「やめろよ…。」

信二にニヤニヤとからかうように小突かれ、苦笑いでごまかす。
鷹野さんたちはすぐに会計を済ませ、退店前に俺たちのほうを見た。

「東条くーん!ありがとねー!」
「いえいえ!」

手を振ってきた鷹野さんに手を振り返すと、隣の花城さんもちょっと微笑んで会釈をしてくれた。
二人がコンビニを出ていくと、信二はまたニヤニヤしながら俺を小突いた。

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