007
「御幸く〜ん」
朝登校すると、教室前の廊下で、待っていたかのように二人の女子に囲まれた。
隣のクラスの林彩夏と安田梨歩だ。今はいないがあと一人、田中美佳という女子と3人でいつもつるんでいて、去年は同じクラスだった。派手なグループだったからよく覚えている。たまに絡まれたし…。
「…何?」
なんとなく嫌な予感しかしなくて、サッと離れて聞き耳を立てている倉持を睨みつつ、つい身構えた。
「あのさあ…」
「1年の…花城さんっているじゃん」
二人は声を潜めて、チラチラと目配せをしながら聞いてきた。
「ああ…で?」
なんとなく言われることは想像できた…。俺はげんなりしながら先を促した。
「…付き合ってるの?」
二人は緊張した顔で聞いてきた。
ああ、もう、関係ないだろうが。放っておけ。と言いたくなるのをこらえたが、小さくため息が出た。
「いや。」
面倒くさくて短く答えると、二人は安堵したように顔を見合わせた。
「あ、そうなんだ。」
「じゃあ、なんで仲いいの?」
急に饒舌になったな…。
「別に仲良くねーよ。」
なんでそんなこと、お前らにとやかく言われなきゃならないんだ。報告しなきゃならないんだ。俺が誰と話そうが関係ないだろうが。
そんな不機嫌がにじみ出てしまったのか、二人は少し青ざめた。
「あ…わかった、ごめんね!」
二人は慌てて話を切り上げて、隣の教室に戻っていった。
「コエ〜笑」
倉持がからかってくるのを振り払い、教室に入って席に着く。
さっきの会話の様子をうかがっていたように、クラスメイト達の視線をチクチクと感じる。
…朝から疲れた。
「なあ御幸!なんで花城さんと仲いいの?」
「……。」
席に着くなり、今度はクラスの男子の三宅たちに囲まれた。先ほどとは違い、周りにかまわずでかい声で聞かれたため、俺は面食らった。
「…別に仲良くねーって」
「廊下でたまに話してるじゃん」
「大したことじゃねーし」
「でも知り合いなんだろ?」
「たまたまな」
「なんで?中学が同じとか?」
「違う」
「じゃあなんで?」
…お互い告白で呼び出されて偶然知り合った、なんて言えるわけない。
「どーでもいいじゃん。聞いてどうすんの?」
面倒くさくなってそう答えると、三宅は不満げな顔をした。
「気になるんだって!」
「お前らに関係ない。」
「はあ?なんだよ」
聞き出せないと察した三宅たちは興ざめしたように席に戻っていった。
…疲れた…!!
***
「でも、マジでどこでどうやって知り合ったんだよ?」
休み時間に、倉持に興味津々で聞かれた。何で皆こんなに花城のことばかり聞くんだ。ああ、可愛いからか。
「同じ学校だからだよ」
「んなこと理由になるか。お前全校生徒とお喋りする仲なのかよ。」
「しつけぇな〜。」
「お前が頑固過ぎんだよ!どうやって知り合ったかくらい教えたって良いだろうが」
「そんなことどうでもいいだろ〜」
「…あ!言えないようなことなんだろ。お前、花城さんのこと呼び出したとか?」
「俺じゃないし。」
「は?どういう意味?」
「なんでもな〜い」
「ふざけんな、おちょくってんのかテメェ!」
ケラケラ笑い出すと倉持はこめかみに青筋を立てた。血の気の多い奴だ。
「…まさか花城さんに呼び出されたとか!?」
「んなわけねーだろ。」
「じゃあなんなんだよ!!」
「はっはっはっは」
***
「やっぱ花城さんだろ!」
夜の男だらけの寮で、女子の話題になることは珍しくない。
今日も麻生たちがわいわいと、学校で一番可愛い女子は誰か、という話題で盛り上がっている。
「ダントツだよなー。」
「花城さんは殿堂入りで!他に誰可愛い?」
「3年に芸能人いなかったっけ」
「アイドルのでしょ?。」
「あれだろ、広瀬ふみか。」
「グラビア出してたよな!?」
「巨乳だし、2位は広瀬先輩かなー。」
「1年結構可愛い子多いんだろ?」
「そうそう、A組の浜野はるかと…鷹野司?」
「鷹野司ってあれだろ、剣道の。」
「鷹野司は可愛いっていうより、イケメンだよな。顔は整ってるけど」
「花城さんと仲いいから、セットで崇めてる女子いるよな。」
「あーうちのクラスの女子も、姫と騎士だって…」
「ファンクラブみたいになってるよな」
まじか。そんなことになってんのか。
確かに花城の美貌は、ちょっと息をのむレベルだからな…。
しかし、姫と騎士…。物々しいな。
「何ニヤニヤしてんだ。気持ちわりぃ」
「別に…」
倉持に脛を蹴っ飛ばされた。
「そういやさ、B組の速水、花城さんのこと好きらしいよ」
突然飛び込んできた情報に、俺はなぜかぎくりとした。いや、俺はもうそんなことは知っているのだけど。
「マジ?」
「本人が言ってた。」
「本人が!?」
「公言するなんて、余裕だね〜…」
「まあ…速水、イケメンだしな。」
「まじかよ速水と花城さんが付き合うの、なんか嫌なんだけど!!」
「付き合うかまだ分かんねーじゃん」
「でも速水イケメンだしなぁ」
「サッカーでプロ行くみたいな話もあるしな」
「速水に告られて、断る女子っているのか…?」
「なに青くなってんの、お前」
「別に…」
倉持がいぶかしげに俺をにらむ。
「でも速水って彼女いなかった?」
「もう別れてるよ、最近だけど」
「マジ!?C組の田中だろ?」
「そうそう、あの気の強い…」
「俺あいつ苦手」
「顔はまあまあ…だけど、性格がな」
「なんで速水、あいつと付き合ってたんだろ?選び放題なのに」
「田中がかなり積極的だったらしいよ」
「へえ〜…じゃあなんで別れたんだろ?」
「知らね」
田中か…。
去年同じクラスだった時、何度か話しかけられて困ってたのを覚えてる。なんとなく自分に好意が向けられているのは感じていたが、速水と付き合ってるのを知っていたし、田中のことは苦手なので適当にあしらっていた。今年はクラスが分かれて、ほっとしていたのだが…。
今朝、田中の取り巻きの林と安田が妙なことを聞いてきたのが、少し引っかかる…。
「えー、速水、告んのかなぁ。」
「嫌だー!」
男どもの悲鳴が、やけに俺の心をざわつかせた。
なんか俺…花城のこと、気にしすぎ?