「速水先輩とはどうなったんだよ?」
最近ではほとんど日課となった、花城との渡り廊下でのお喋り。実は役得だと思っていることは、花城には秘密だ。
「毎日メールがくる…。」
ストレートティーのペットボトルに唇をつけながら呟く花城。柔らかそうな赤い唇がツンととんがって可愛い。
「嫌そうだな〜。」
「嫌っていうか…。メールとか、あまり得意じゃないから…。」
「そうなんだ?」
「喋るのとかも、苦手だし」
はあ、と小さくため息をついたかと思うと、あっ、と俺を見上げる花城。
「東条と話してるのは楽しいけど!」
「あ、そ、そう?はは…」
こう言ってくれるのはうれしいけど、完全に友達ポジションで、なんだかちょっともどかしい。
「無理に返信しなくてもいいんじゃないか?」
「うーん」
曖昧にうなずく花城。速水先輩のこと…本当に何とも思ってないのかな?それとも、謙遜?
実際のところ、どんなやりとりをしているかまでは、俺は知らない。速水先輩はイケメンだし、鷹野も女子からモテる先輩だと言っていた。花城が今は乗り気じゃなくても、今後親しくなっていくうちに惹かれていく…なんてこともあるかもしれない。
そうなったら…嫌だなあ…。
「…うわ。」
急に花城が嫌そうな声を上げ、俺の背後に隠れた。
「おーい、何俺の顔見るなり逃げてんだ。失礼な奴だなー。」
向こうから歩いてきたのは御幸先輩。…と、倉持先輩。花城が反応したのは御幸先輩のほうだろう。
俺がお疲れ様ですとあいさつをすると、御幸先輩はおざなりにああと返すだけで、花城をからかうのに夢中だ。
「はっはっは。頭隠して尻隠さず…」
「セクハラですか?」
「ちげえよ!」
「鬼塚先生に言っちゃおー」
「じゃ俺もあの人に言っちゃお〜」
「ちょ、ふざけないでください!」
「はっはっは!まったね〜」
「ほんとに怒りますからね!!」
高笑いをしながら上機嫌で去っていく御幸先輩と、それを睨みながら追いかけていく倉持先輩。
な、なんか、いつのまにかすごく仲良くなってるな…。
「…御幸先輩と仲いいね?」
「え!?全然!あんな人…」
花城はそう言いつつも、本気で怒っているわけではなさそうだし。こんな風に砕けた態度を人にとるのは初めて見る。
「…てか、『あの人』って誰…?」
「な、なんでもないの!」
明らかに動揺している花城を、それ以上追及はできなくて、そっか、とひとまず退いた。教室に戻ろうと花城が言って、俺もうなずいて、二人で渡り廊下を歩く。すれ違う生徒たちが、色めき立って俺たちを見る。まるで俺たちが特別な関係であるかのように。俺はちょっと鼻が高くなるのを、こっそりと胸にしまう。花城の隣にいられるのは、俺が友達だからだ。
「あっ!光〜!」
教室の前で鷹野が手を振っている。
その隣には速水先輩がいて、俺たちを見つけると花城と俺を見比べるように目を瞬いた。
「速水先輩!来てるよー!」
「あ…。」
花城は俺を見上げて苦笑して、先輩に会釈した。
「ごめん、忙しい?」
「いや…大丈夫です。」
「あ…、じゃあ、ちょっと、話せる?」
「…はい。」
そんな初々しいやり取りをして、二人は連れ立って歩いて行った。
「ふうーっ、光モッテモテだねー。」
「はは…、だな。」
鷹野が面白そうに俺の脇腹を小突いて盛り上がっている。
「さっきもさあ、矢野先輩が来て、光が教室にいなかったから嘆きながら帰ったんだよ。」
「へえ…」
「そのあと速水先輩が来てさあ。いないって言ったんだけどしばらく待ってたの。光、やばくない?モテモテじゃない?」
「そうだなー…」
ほんと…モテすぎだよ、花城。俺なんて、太刀打ちできないくらい…。
「でも〜…私から見たら、東条君が一番仲良しだし、チャンスあるよ!めげるな!」
「え!?い、いや、俺はそういうんじゃ…」
「えーっ!違うの?」
「…違うよ。」
俺は…。
花城の、連絡先さえ知らないし。
俺が花城の隣にいられるのは、連絡先を聞いたり、好意をアピールしたりしない、気楽に話せる友達だから、だし…。
土俵にすら、上がっていない。
「なーんだ、私はてっきり…」
「変なこと言うなよー。」
だけどこの居場所を失うのが怖くて、土俵に向かう勇気すらない。
花城の隣が…近くて遠いこの場所が。
とても惜しい。