中間試験が差し迫り、部活は休止期間に入った。
うちの部では赤点を取ったら追試で合格点をとるまで練習参加を禁じられるため、主力を中心に皆死ぬ気で試験勉強に身を費やす。

「早く野球がしてえ…」

そうぼやく倉持に同意の苦笑を返し、一緒に昇降口へ向かう。早く寮に戻って試験勉強をしなくては。
部活が休止期間なので、放課して間もない今の時間でも昇降口には全学年の生徒たちが詰めかけてごった返していた。みんな早く帰って試験勉強をするのだろう。遊びに行くやつもいるだろうが…。
周りには野球部の面々も見える。その中に、花城の姿を見つけた。

「よっす、花城。」
「……。」

声を掛けたら鬱陶しそうに睨まれた。

「相変わらず愛想がねえな〜。」
「なんで御幸先輩なんかに愛想ふりまかなきゃならないんですか。」
「なんかとはなんだ、なんかとは。」
「うざい。」

ぴしゃりとぶつけられる、顔に似合わぬきつい言葉。これが面白くてついつい笑うと、花城はまた俺をにらみ、下駄箱を開けた。
パササ、と足元に落ちる数通の便せんや折りたたまれたルーズリーフ。え、これはまさか。

「……。」

ささっ、と恥ずかしそうに落ちたものを拾い、スクールバッグにしまう花城。

「モテモテ美女は大変だな〜」
「うるさいな…。」

ニヤニヤとからかうと、花城はあきれたように言ってローファーを取り出し、上靴を仕舞う。

「岡田はどーなったの?」
「うるさい。」
「矢野は?」
「は?何で知って…」
「テメー、花城さん困らせんじゃねえよ。」

げし、と倉持の蹴りが鳩尾に入る。さすがにひどい。

「なんだよ倉持だって気になるくせに〜。」
「はあ!?なんで俺が…」
「よう。」

顔を赤くして否定する倉持の言葉を、低い声が遮った。
目を瞬いた花城の、真っ白な頬が赤く染まる。振り向くと、哲さんを先頭に、3年の野球部主力メンバーがそろっていた。

「あ…お疲れ様です。」

俺も倉持も挨拶をする。花城は黙り込んでうつむくように会釈をした。

「お前らも今帰りか、早いな。」
「はい、テスト勉しないとなんで…」
「倉持お前、赤点とるなよ。」
「な…何言ってんすか亮さん!取るわけないっすよ!」

「花城も今帰りか?」

こそっと立ち去ろうとしていた花城を、哲さんが呼び止めた。

「…はい。」
「ひとりか?」
「…はい。」
「じゃあ、一緒に帰るか。」
「え」

!?
ぎょっとして哲さんに注目したのは俺と倉持だけじゃなかった。亮さんや純さんたち3年も、驚いた顔で哲さんを見上げた。

「え…、え?」

花城は動揺して真っ赤になっている。

「帰り道、同じだろ。」
「あ、え、はい…」
「じゃあ、行こう。」
「は…はい…」

「じゃあお前たち、また明日。」

哲さんは唖然とする俺たちをよそに、花城を連れて昇降口を出て行った。
しばし立ち尽くした後、亮さんが最初に口を開いた。

「え…哲とあの子ってどういう関係?」

どうやら亮さんたちは知らないらしい。

「なんか…家が近所だって言ってましたよ、前。」
「あぁ!?マジか!?」
「幼馴染ってやつ…?」
「うが…」

学校で一番美人だと有名な新入生。そんな子と家が近所で、幼馴染とは…。
できすぎた少女漫画の設定でもなかなかないよな…。

「明日哲を問い詰めよう。」
「ったりめーだゴルア!!!俺は何も聞いてねーぞ!!!」

一致団結する亮さんたちを見て、俺と倉持は目を見くばせ、苦笑した。

「…で、お前らは花城さんとどういう関係なわけ?」

ぎくり。肩をすくませる俺を、倉持がちらりと見る。

「御幸がしつこく絡んでるんす。俺は毎回止めてるんすけど…」
「お〜〜〜い倉持クン?嘘はやめようか」
「嘘なんてついてねー」

「へ〜。御幸、あの子のこと、そーなんだ。」
「……。」

にやにや、新しいおもちゃを見つけたような亮さんの笑顔といったら…恐ろしい。

「…違いますよ。」
「ま、どうでもいいけど…」
「ちょ…違いますからね!?」

亮さんは俺の言葉なんて意にも介さず、3年同士連れ立って行ってしまった。

「おい…どうしてくれんだよ」
「知らねーよ。いい気味だぜ、ヒャハハ」

011

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