「おっ、ポニテ。」
「……。」

廊下で見かけた花城が、いつもおろしている髪をすっきりとポニーテールに結んでいたものだから目を丸くして声をかけると、この間と同じ冷たい視線が返ってきた。

「いいねー、俺そーいうの好き…」
「御幸先輩の好みとかどーでもいいんで。」
「はっはっは!じゃ、あの人の好みってこと?」
「ちょ…!」

顔を赤くした花城が踵を返し、俺をどつきに戻ってくる。後ろで東条と、この間も一緒にいた友達の女子が笑いながらその様子を見ている。

「もうやめてください!違うって言ってるでしょ!」
「いや〜わかりやすいんだもんお前」
「ほんっとうざい!」
「はっはっはっは!」

もう!とプンプンしながら友達と歩いていく花城を見送る。隣にいた倉持が、じろり、と俺をにらんだ。

「テメー花城さんと何があった…?」
「え?いや何も?」
「そのにやけた面で言われても説得力ねーんだよ!さっさと本当のことを吐きやがれ!」
「もー倉持すぐ怒る。そんなだから友達出来ねーんだぞ」
「テメーに言われたくねー!」

倉持は俺にタイキックを食らわせて、がっちりと肩を捕まえた。

「で、あの人って誰だよ?何の話か言えやゴルァ」
「ホントになんでもないって…」


***


「御幸!ちょっといい?」

休み時間、同じクラスの速水が声をかけてきた。あまり普段しゃべらないから一体何の用かと頭の中を疑問符が飛び交った。

「何?」
「ちょっと…別のところで話せる?」
「?ああ…いいけど」

俺は速水に連れられて、階段を上って非常口の前まで来た。ここまでくればひと気も、通りすがる人もいない。
そんなに誰にも聞かれたくない話を、特に接点のない速水が俺に、いったい何なのだろう?

「悪いな、急に」
「いや、別に…」

速水は俺を振り返り、何やら言いづらそうに口ごもる。いつも爽やかで気さくで明るくて、大勢の友達とつるんでいる速水がこんなにもじもじしているのを見るのは初めてで、ますます疑問が深まった。

「で、何?」

急かすように言うと、速水は苦笑を浮かべ、少し顔を赤らめた。

「あのさ…。」
「ああ」
「…一年の、さ。花城さん…って、知ってるだろ?」
「……。」

あー…、なんとなく、察しがついた。

「あー…うん。で?」
「なんか、さっき、絡んでたから。仲、いいの?」
「仲?別に…フツーだけど」
「普通?」

速水は目を瞬き、困ったように苦々しく笑った。

「え…何?速水って花城のこと好きなの?」
「……。」

ズバリ尋ねると、速水はわかりやすく硬直した。

「……う…うん。」

そして観念したように、真っ赤に茹った顔でうなずいた。

「…あ…そお…」

なんだこれ、気まずい。

「…じゃ、じゃあ、御幸はあの子のこと…特にそういう風には思ってないのか?」
「俺?別に…」

花城の顔が頭の中をよぎる。
すげえ美人で、まじめそうで、おとなしそうで、だけどからかうとおもしろいくらいわかりやすくて、素直で、愛らしい。

だけど…あんなに動揺するくらい、哲さんのことが好き。

「なんとも思ってねえよ。」
「…そうなんだ。」

安堵したような速水の笑顔が、なぜか今は気分が悪かった。

「…ありがと、呼び出して悪かったな。」

速水はさわやかに言い残し、階段を駆け下りていった。
胸にずしんと、うっとうしいモヤが残った。

009

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