「なんか…空が怪しくなってきたな」
光と公園で過ごしていると、空に黒い雲がかかり始めた。気づけば風も少し涼しくなってきたし、今にも雨が降りそうだ。
帰るにはまだ早いけど…どこかの店に入っても、帰りに傘がないし。俺はともかく光を濡らすわけにはいかない。
「ちょっと早いけど、今日はもう帰るか?」
「え…。」
残念そうに表情を曇らせる光に、胸が熱くなる。
「そんな顔すんなって。」
「先輩嬉しそう。」
「んなことないっつの。」
その光があまりにかわいくてついにやけてしまったら、心外なことを言われた。
「本も濡れちまうぞ?家まで送るからさ。」
「うん…」
元気をなくした光の手を引いて、俺は公園を出た。俺とのデートを早く切り上げるのが悲しいだなんて、可愛すぎる。
そうして商店街を抜けて住宅街につく頃には、わずかに小雨が降り始めた。
「うわ、降り始めた」
俺と光はちょっと駆け足になって住宅街を通り抜けた。
光の家の立派な門が見えてきて、急に惜しい気持ちがわいてくる。もう少し光と、一緒に過ごしたかった…。
「ふう…」
門の上には少し軒がかかっていて、俺たちは一旦そこで雨をしのいだ。
「大丈夫か?本も無事?」
「うん。」
光は少し濡れた髪を耳にかけて俺を見上げた。
それからどちらからも、別れを告げる言葉を言い出せないまま、少し沈黙が流れた。繋いだままの光の手に、少し力がこもる。行かないでと言われてるような気がしてしまって、心臓が跳ねる。
「じゃあ…」
「……。」
「…大丈夫?」
「うん…」
…大丈夫?ってなんだ。俺。
帰りがたくて…まだ一緒にいたくて、勝手に理由を探してる。
光の手を握る力が無意識に強まる。もし、光に家に誘われたら…。そんな妄想を振り払う。何期待してんだ俺…まだ早いって、ゆっくり進もうって…大事にするって決めたはずなのに。
少し濡れた髪が揺れる先の、白い鎖骨。柔らかそうな肌は桃のようにほのかに色づき、甘い香りがしそうなほどに耽美で…。
光は…
光の身体は、どんな…
「…あの…」
ドキッとしたような、ギクッとしたような気持ちで、光の声に引き戻される。光は門の向こうと俺に握られた手とを見比べるように視線を動かす。そして俺の手を握る華奢な手の、柔らかな指先が…ぴくり、と動いた。
「……。」
光の顔は真っ赤で…口ごもる彼女が何か言うのを、俺は波打つ期待と心音に息苦しさを覚えながら待った。
待ってしまった。
期待をして。
家に、寄らないかって。
誘われるのを…
だけど真っ赤な顔をして迷うように躊躇う光を見ていたら、苦しいほどの愛おしさとなんとも言いしれぬむずむずと胸をくすぐる衝動が溢れてきて、俺は彼女に手を伸ばしていた。
湿った髪に触れ、耳元を撫でる。俺を見上げようとした光に顔を近づけ、その頭にキスをした。
「……。」
俺を見上げた綺麗な瞳に、頬を緩ませる自分の顔が映っていた。だってあまりにも、光が可愛くて…大切で。
「…あ…、」
光はハッと我に返ったように顔を赤くして、パッと手を離した。
「わ、私…帰る」
そう言って顔を背け、門を開けて逃げるように中に入る光を見送った。
あのまま待っていたら…もしかして、中に誘われたんだろうか。なんて…今更考える。
いや、でも、あんな光を見たら…焦らなくていい、と思う。
あ〜、でも…、
…よく我慢した、俺。