「東条って去年、花城さんと同じクラスだったよな?」
新学期が始まってから、たまにこの質問をされる。
「うん。なんで?」
「いやー、仲良かったからさ…」
「え、そう?」
ほかのクラスの人からそう見られていたというのは、嬉しいような恐縮なような。花城はうちの学年では、あまりにも高嶺の花というか、ちょっと近づきがたいくらい、格の違う女子…という感じだから。
「よく廊下とかで話してたじゃん」
「あー、まあ、たまにね。」
「うわ〜どや顔!」
「えっ、いやいや!そんなことないって。」
ちょっとからかわれて顔が熱くなる。ほかの男子と比べたら自分は仲がいいほう…だとは自負があるけど、自分が特別だなんて思いあがってはいない。
「俺は東条だと思ってたんだけどな〜。」
「…なにが?」
「花城さんの彼氏!3年の御幸先輩だっけ?」
その言葉に俺は、嬉しいやら、切ないやら…。
だけど御幸先輩と付き合ってると知って、一丁前にショックを受けた自分にも驚いた。その傷もちょっとずつ、慣れてきたように感じるけど…。
「あ…やっぱ、好きだった?」
俺の顔を見てばつの悪い顔をして、そいつがそんなことを言うものだから、俺は慌てた。
「いやいや!全然そういうのじゃなくて、ただの友達だし」
「え〜、花城さんみたいな子がぁ?」
「なんだよ!ははは」
疑われるのもわかる。だって花城は…あんな綺麗で魅力的な女の子なんか…他にいるわけないから…。
***
「明日、監督が出張で練習休みだってよ!」
部員がそう叫び、食堂はにわかに盛り上がった。
突然のオフ日。毎日練習漬けの野球部員にとって、こんなに嬉しい事はない。
「よっしゃ〜放課後どっか行こーぜえ」
「沢村達にも声かける?」
「あの練習バカが行くか?」
「あはは…」
信二とそんな話をしながら夕食を食べていると、3年の席のほうから声が聞こえてきた。
「御幸テメェ彼女に連絡しようなんて思ってねーよなぁ?」
「主将として自主練に励むべきだよなぁ?」
「後輩たちに背中見せねーとなぁ?」
「うるせーな、ほっとけ」
花城とのことが広まってから、御幸先輩は何かと彼女いじりをされる。彼女がいる部員はほかにもいるけど、相手があの花城だから…妬みがすさまじい。
「お、おい奥村、どうした!?」
「光舟落ち着けって!」
何やら1年のほうでも騒ぎが…。瀬戸になだめられる奥村を一瞥し、俺は味噌汁を飲んだ。
「明日どこ行く?やっぱカラオケ?」
信二がすでに楽しそうにそう尋ねてくる。
「そうだなー、あ…俺服見たいかも」
「あ、いいな。俺も夏服買うかなー」
「あ…沢村たち!明日さ…」
沢村、降谷、小湊が俺の声に振り向き、やってくる。
そうして平和な寮の夜は更けていった。