「うおー!あれが忠犬ハチ公か!?」
「沢村騒ぐな!!…おい降谷勝手にどっか行くな!!」
「降谷君お腹すいたの?」

放課後、皆で渋谷にやってきた。早速振り回される面倒見のいい信二に苦笑を返しながら、俺はのんびりとみんなの後をついていく。

「見ろよ春っち!人がゴミのようだ…!」
「栄純君、失礼なこと言わないの!」
「…ん!?…あっ!?え!?アレはもしや…!!」

はしゃいでいた沢村が突然声色を変えた。どうしたの?と穏やかに尋ねる小湊に、沢村はわなわなと震える指で一点を指した。

「あれって…御幸と花城じゃねーか!?」
「え!?」

沢村の指さす先…少し前方を歩く、青道の制服姿のカップル。その後ろ姿は確かに…見まごう事なき、御幸先輩と花城だ。

「わっはっはっは!デートかぁ!?おーーーいみゆ…」
「アホかやめろ黙れバカ村!!!」
「うわっ!?なんだよせっかくの御幸先輩の弱みをつかむチャンスを」
「ふざけんな俺らまで怒られるだろーが!邪魔すんじゃねえ!」

大声で御幸先輩を呼び止めようとした沢村を、信二が間一髪で止めた。
そうしてる間にも御幸先輩と花城の姿が雑踏に紛れていくのを、俺はついつい目で追っていた。

「じゃあ後つけようぜ!普段偉そうにしてる御幸のプライベートを暴いてやる!ふはははは」
「い、いやでも降谷君は…」

前、降谷が花城のことを好きだとわかったことがあったため、小湊は降谷を気遣うように見る。すると降谷は怨念すらこもった眼差しで御幸先輩をにらみつけており、後をつける気満々の様子で、小湊は苦笑して閉口した。

「決まりだな!行くぞお前ら!」
「何仕切ってんだアホ」

ともかく沢村が張り切って先陣を切り、俺たちは御幸先輩たちの後をつけ始めた。
信二が俺に大丈夫かと問うようなアイコンタクトを送ってきて、俺は口角をあげて気にしていないふりをする。
二人は交差点を横切ると大きなビルに向かって歩いていく。すると御幸先輩が花城を2度見し、ぎこちなく手を伸ばして…花城の手に触れた。指先が触れて花城が気付いたように御幸先輩を見る。そして御幸先輩の手が少し遠慮がちに…花城の指に指を絡ませ、しっかりと握った。

「うわっ!手ぇ繋いでる!!」
「付き合ってるんだから当たり前でしょ…」
「な…なに!?春っちがませた事言ってる!」
「栄純君、騒ぐとバレるよ。」

指を絡ませて手をつなぐ二人を見て、俺は一瞬意識が遠のいた。

「でもなんか意外だな…御幸先輩ってもっとグイグイ行くタイプかと思ってたぜ」

信二がぽつりとつぶやいた。

「あの人モテるし…女慣れしてそうっつーか」
「確かに…意外と初々しいよね」

信二の言葉に小湊が同意した。それは俺もそう思う…いつも御幸先輩目当てに黄色い歓声を上げている女子たちを軽くあしらっているし、告白されたという噂も何度も聞いた。花城と付き合う以前に誰かと付き合ってるとか、付き合っていたという話は聞いたことはないけど…。

「意外と初心なのかな?」
「ぶはははは!!御幸が初心!!?あの腹黒ヤローがぁ!?」
「沢村大声出すな!」
「まあ相手、花城さんだしね…さすがの御幸先輩も緊張するのかな」

本当に…今見ている後ろ姿でさえも、花城はきれいで。周りの通行人もほとんどみんなが振り返って見ている。一瞬見えた御幸先輩の横顔が、遠目にもわかるほど浮かれて、嬉しそうで。俺は羨ましさをぐっと飲みこんだ。

二人はビルに入っていき、エスカレーターに乗って上の階へ上がっていく。

「なあいつまで後つけんの?これ…」
「あいつの弱みを見つけるまでに決まってるだろーが!それをネタに今日球受けてもらうんだから」
「!?ずるい…」
「アホか…」

だけどそんな沢村の思いとは裏腹に、二人はごく自然で楽しそうに…幸せそうに、服を見たり、ゲーセンを見たり、クレープを買い食いしたりして、眩しいほどの青春を謳歌しているだけだった。

「御幸先輩って甘いもの嫌いじゃなかったか?」
「彼女の手前、見栄はっちゃうものなんじゃない?」

幸せそうにクレープを食べる二人を見て信二がつぶやき、小湊が微笑ましそうに微笑んで返す。
御幸先輩は大口であっという間にクレープを食べ終えると、まだ半分くらい残っているクリームたっぷりのクレープを上品に食む花城を見つめる。その目が本当に、愛おしくてたまらないといった感じで、見ているこっちが恥ずかしくなるくらい、熱のこもったまなざしで…。

「なんか…御幸先輩、ずっと花城さんのこと見てるよね」

小湊が照れたように言った。

「…ほんとに好きなんだろうね」

俺がついそう呟いたのを、信二が言葉を飲み込んだ顔で見てきて、それから慎重に口を開いた。

「天才高校球児も普通の男子高校生ってことだな」

そう言って俺の肩に手をのせる。信二の手は熱いほどに温かかった。
花城が御幸先輩を見上げ、御幸先輩はちょっとにやけた笑顔で花城に見とれ、花城の頬に触れる。クリームがついてたらしい。それを指で掬い取り、そのままペロッと舐めてしまった。まるで少女漫画。御幸先輩、あーいうキザなことするんだなぁ…。
もうここまでくると悔しいとか悲しいとかよりも、野次馬心が勝ってしまう。

「あーもうイチャイチャしやがって…」
「洋さんたちが見たらとんでもないことになりそうだね」
「あっ!そーか、よし!もっちパイセンに写メ撮って見せてやろ。ヒッヒッヒ」
「やめときなよ栄純君…」

小湊が止めるのも聞かないで、沢村は携帯のカメラを翳した。そのときだった。

「あっ…!」

御幸先輩が屈んで花城に顔を近づけ、…一瞬唇が触れた。
不意打ちのそれを成功させた御幸先輩は赤い顔ではにかみ、花城も赤い顔で照れ笑いをして御幸先輩を見つめる。

「クソ!撮り逃した」
「アホか!撮ろうとすんな!」

悔し気に携帯を構える沢村の後頭部を信二が引っぱたいた。

二人がキスするのを…見てしまった。あれは、ちょっと…。…見たくなかったかも。

「……。」
「あ!ちょっと大丈夫?降谷君!」

フラッとよろけて壁に手をつく降谷に駆け寄る小湊。その隣で信二も心配そうに俺を振り返って見るのを、俺はかろうじて口角を引きつり上げて頷きを返した。

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