5月も下旬に入り、半袖の生徒が増えた。
特に女子は薄着になり、シャツの下のブラジャーの色が透けてる生徒も少なくない。

「なんで女子って下着が透けてても平気なんだ…」

隣の倉持が信じられないという目でぼやく。その気持ちはわからんでもないが…

「ドコ見てんの?倉持クンのエッチ〜」
「ふざけんなぶっ殺すぞ」

面倒くさくて適当に流したら、殺意のこもった眼で睨みつけられた。いつものことだけど。

「テメーも見てないとは言わせねーぞ」
「いやいや俺は…」

「何の話ですかぁ?」

突然背後から声がかかり、俺と倉持はぎくりとして振り向いた。
そこには予想通り、鷹野と花城が立っていた。

「なんでもない」

俺は自分の頭も追いついていない反応速度で答えていた。

「なんでもないって言われると気になる〜。ね〜光〜。」

鷹野は何か気づいてるようなにやにやした笑みを浮かべ、花城は邪気のない笑顔でほほ笑む。
その胸元を見て…俺は安どした。光は下着、透けてない。

「じゃ私たち、音楽室なので〜」

急いでいたらしい、鷹野がそう言って光も俺に小さく手を振り、二人は歩いて去っていった。

「お前今光のこと見てたろ」
「……。」

二人が遠ざかったのを見て俺が倉持を睨むと、倉持はにわかに赤面して目をそらした。

「おい。俺の彼女なんだけど」
「見てねえって」
「嘘つけ」
「でも透けてなかったじゃん」
「やっぱ見てたじゃん」

俺が睨むと倉持は二の句が継げずに舌を噛んだ。

「お前マジでふざけんなよ…」
「違うって!わざとじゃねーよ!話の流れで無意識に!」

俺が怒りをにじませるとさすがの倉持も慌てた様子で謝ってきて、少し溜飲が下がった。

「透けてたら絶対許さねーとこだったわ」
「勘弁しろよ…」


***


定期試験が近づき、部活は休みに入る。

「先輩。」

廊下で待っていた光に俺は顔が緩んだ。今日の放課後は学校の自習室で一緒にテスト勉強をしようと約束したのだ。

「行くか。」
「うん。」

そうして歩き出そうとした時。

「おっ花城さん!夏服も可愛いね!俺と結婚して!」

教室から出てきた間宮が光に絡んできた。

「嫌です」

光は苦笑をしながらきっぱりと断る。

「消えろストーカー」
「うるせー、一瞬付き合えたからって調子乗んな」

しっしっ、と俺が間宮に手で追い払う仕草をすると、間宮は舌を出して負け惜しみを言って教室に戻って行った。

「一瞬てなんだよ…」
「まあまあ、ね、もう行こうよ」

光に宥められて俺は矛を収めた。

自習室に着くと思ったよりも人が多く、もう席が並んで空いている場所がなかった。静かすぎてシャーペンが髪を引っ掻く音だけが響くその部屋で、俺と光は目配せをして、一旦廊下に出た。

「どうしよっか…」

真面目に勉強をする気はあるが、半分は一緒に過ごすことが目的。…というか、むしろテスト勉強にかこつけてるフシすらある。せっかく予定を合わせて来たのに離れた席では、一人で勉強するのと変わらない。

「俺のクラス行く?」
「他の学年の教室はさすがに入りづらいよ」
「だよな…」

俺は寮だから、光を部屋に連れてはいけないし。でも光の家なら…。
って、いやいや。何考えてんだ俺。

「私の家は?今日親いないけど…」
「…え」

待て。今のは期待しすぎた俺の幻聴か?

「……。」
「……。」

目が合った光の顔が、少しずつ赤くなっていく…。

「な、なに?嫌?」
「いや…、じゃなくて…。それは…なんつーか」
「なに?はっきり言ってよ。」
「ま、まあ…光がいいなら…、い、いいのか?」
「え…、」

光は顔も体も硬くして俺を見上げた。

「い、いいって何が?」
「…い、いや!何もしないけどな!?」
「えっ?」
「えっ…?」

なんだ?なんでこんな話になってんだ!?
俺は試されてるのか!?
いや…、でも…
高校生にもなって…光だってさすがに、そういうことは知ってるはずだし、理解もしてるはず…。

「…勉強、するだけでしょ?」

少し目を伏せて、赤い顔でつぶやく光。俺…、大丈夫か…?やれんのか…!?ちゃんと…、我慢…。

「そ…、そーだよ」
「…うん」

しばらく沈黙し、光は踵を返す。

「じゃ…、いく…?」

…大丈夫か俺!?

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