「…終わったああぁ〜っ!!!」
中間試験最終日のHR後。倉持の魂の叫びを聞いて笑いながら鞄を肩にかける。
試験最終日は部活も休みで勉強からも解放される、真の自由だ。
野球部の奴らも、今日は遊びに出る奴が多いだろう。
「さーて帰ってゲームでも…」
「友達いない奴は寂しいなあ」
「あ?テメーはいんのかよ友達…」
倉持にどつかれてよろけつつ、教室の前で倉持とは反対方向に足を向ける。
「どこ行くんだよ?」
「礼ちゃんにスコアブック借りにいくから、先行ってて」
「好きだな〜お前…」
何が面白いんだか、と言い残して、倉持は一人で昇降口へ向かう。
俺は職員室へ行って礼ちゃんから目当てのものを借り、足取り軽く昇降口へと向かって歩き始めた。
…ところで、足を止めた。
花城がいる。廊下で、窓の外を眺めている。
綺麗な横顔が少し物憂げに風に吹かれている。
「なーに黄昏てんだ?」
「きゃっ!?」
想像以上に可愛い悲鳴をあげ、花城は耳を抑えてこっちを振り向いた。
「な…何!?もう、驚かさないでよ!」
「はっはっは。何見て…」
言いかけて、花城が見ていた方を見て、息を呑んだ。
体育館前で話し込む男女の姿。哲さんと、マネージャの一人、貴子先輩だ。
「お前…」
「…え、いや、勘違いしないでください!」
「あれ見て黄昏てたのかよ〜泣けるぜ…」
「だから違うって…!」
「あれ、うちのマネージャーだよ。」
「え?」
花城は赤い顔で目を瞬いた。
「だから、あの二人は花城が思ってるような関係じゃ…」
「な、何も思ってないってば!」
花城は俺の背中をどついた。
「前から言おうと思ってたけど、結城先輩のことそういうふうに思ってるとかじゃないので!本当に変なこというのやめてください!」
「はっはっは、んなムキにならなくても。」
「先輩が話通じないから!」
「あ、あの。」
そこに割り込んできた、低い声。気がつくとそこに、速水が立っていた。
ぎこちない照れ笑いで花城を見て、窺うように俺を見る。
「ごめん、花城さん、探してて…職員室に行ったって聞いたから。良かった、会えて」
「あ…はい」
そう言う速水に花城は戸惑い気味に微笑んだ。
「えーと…」
速水がまた、俺を見る。
「なんか話し中だった?」
あまり悪いと思ってない顔で、ごめん、と言う速水。
「いえっ、全然。」
間髪入れずに否定する花城。
「おい、即答で否定すんな。」
「うるさいですよ。」
俺が即座に突っ込むと、花城はいつもの調子で睨み返してくる。
そんな俺たちのやりとりを、速水は面食らったように目を丸くして見ていて、俺は少し気分が良かった。
「仲…いいんだね?」
「全然!」
「はっはっは!」
花城がムキになればなるほど、速水は悔しそうな顔をして、俺は得意になっていく。
「…じゃあ、話し中に悪いんだけど」
すると速水は意を決したように、花城を見つめた。
「花城さん、この後暇?」
「え…」
花城の顔が赤く染まり、俺は胸がざわついた。
今日はテスト最終日。学生みんな、解放感のままに街へ遊びに繰り出す日。
そんな放課後の予定を聞くなんて、遊びに…デートに誘っているようなもの。というか、実際そうなのだろう。
「えっと…」
戸惑って彷徨う花城の目。だけど、その表情は決して、岡田の時のような困惑は浮かんでいなくて。
なぜか嫌な気分になって、願うような気持ちで花城の目を見ていたら、ふとその目が俺を見た。
どきりとした。
「あっ!いたいた、光ー!」
バタバタバタ、慌ただしく駆け寄ってくる足音。
「あ…司」
花城が司と呼んだその子は、いつも花城と一緒にいるショートカットのスポーティーな女子生徒だった。
「あっ!速水先輩、光に会えたんですね〜」
…と、言いながら、女子生徒の視線が俺たち三人を巡る。
そしてすぐに状況を察した様子で、にやー、と面白そうな笑みを浮かべた。
「えっ、何なに、何話してたの?」
「い、いいから…司はどうしたの?」
花城は顔を赤くして友達に向き直る。返事をおあずけにされたままの速水は、もどかしげな顔で頬をかいた。
「いや、光が今日暇なら遊びたいなーって」
「…あ、そっかあ…うん。」
花城は目を瞬き、にっこり笑って、何度か頷いた。
「暇!?遊べる!?」
「あ…えっと…。」
困惑した様子で苦笑いを浮かべる花城。
予定があるならとっくに断っているだろうから、速水か友達か、どちらかをここで断るのを迷っているのだろうか。
「ごめん、困らせて。」
すると速水がぎこちなく会話に入った。
「俺がさっき誘っちゃったから…」
「…えっ!?」
そう言った速水を、友達は目を丸くして見上げた。
「今日は友達と遊びに行きなよ。ごめんな、花城さん。」
「いやいや!私の方がすみません!光、速水先輩と行ってきなよ!」
「え、ええ…?」
いよいよ収拾がつかなくなってきた。
「じゃ、俺と行く?笑」
「……。」
ふざけて横槍を入れたら、花城に冷たく睨まれた。
「…すみません。今日は友達と…」
そして言いづらそうに、速水に丁寧に頭を下げた。
「…うん。じゃ、また…今度。」
速水は寂しそうに、そして含みを持たせて、花城に言った。
「……。」
花城は了承はせず、唇を引き結んだ笑顔で頷くように頭を下げる。
「速水先輩、すみません〜…」
「いやいや、何も悪くないから!」
花城の友達はお調子者らしい。彼女には速水も明るく笑って吹っ切れたように見えた。
「花城、俺は?」
「無理!」
またふざけて茶々を入れると、花城ははっきりと言ってフンとそっぽを向く。
「なんで俺にだけ辛辣なんだよー」
「日頃の行い!」
「なんだよそれー」
俺たちを見る速水の目が、また動揺で揺れるのを見た。…俺は何をしてんだ。
「じゃ、失礼します。」
いこ、と友達と連れ立って、花城は昇降口へ向かっていく。
「…じゃあ、俺も帰るから…」
またな、と、速水も教室の方へ戻って行った。ああ、と手をあげて、俺は窓の外を見る。
そこにはもう誰の姿もなかった。