「あー、早く光とゆっくり過ごしたいぜ…」

休み時間、光と中庭で過ごす嬉しさから気が緩んで、俺はつぶやいた。

「今過ごしてるじゃん」
「そーいうんじゃなくて。ちゃんとデートとかしてさ」
「そんなこと言って、野球楽しそうだけど。」

光がからかうように笑う。地区予選が迫り、ただでさえ一緒に過ごせない時間が最近はほとんどなくなっているからだ。

「まー野球は楽しいけどさ…」

俺が苦笑すると、光は楽しそうにはにかんだ。

「そうだ…海に行く件、どう?」

俺が思いついた風を装ってずっと気にしていたことを聞くと、光はぽっと頬を赤らめた。

「あ…うん。」
「夏が終われば、一旦休みもらえるからさ。」
「うん…」
「まあ、たとえばだけど、その…」

泊まり、とか…。一瞬よぎったけど、高校生だしさすがにそれはな。俺は…泊まりたいけど。でも光の親に軽い男だと思われたくないし、光にもそんなことさせたくない。今回の旅は光のために、健全に行く…!

「…朝出発すれば、結構長くいても、暗くなる前に光も家に帰れるし。」
「え…。」

光が一瞬戸惑ったようなそぶりを見せたが、すぐに赤い顔でうなずいた。

「う、うん。」
「どうかした?」
「べ、別に。」

なんだろう…?少しの違和感を感じたけど、俺は追及せずにそっかと相槌を打った。

「あー楽しみだな〜」
「ふふふ」


***


中間試験が始まり、午前放課の日が続く。
試験2日目の今日、一番の鬼門だった教科のテストもまあまあな手ごたえのある結果となってひとまず安どし、俺は少し解放された気分で帰り支度をした。明日の試験最終日には得意な教科しかない。少し気が緩みそうになる。まあ、ここまでくれば赤点をとることはありえないだろう。
赤点を取れば補習と再テストで合格点をとるまで練習参加禁止。この時期に主将の俺がそんなことは許されない。
まあ、相当バカじゃなければそんなこと……

「明日マジでヤベェ〜〜!!!カネマール〜〜〜〜!!!何とかしてくれ〜〜〜!!!」
「テメーは全部ヤベーだろうが!!!明日の3教科、今日死ぬ気で暗記しろッ!!!」
「見捨てないでくれえええ〜〜〜〜!!!」
「くっ付くな気色ワリィ!!」
「あはは。今日誰かの部屋で皆で勉強しようよ」
「と…東条〜〜〜〜!!!!イイ奴〜〜〜〜〜!!!!」

騒がしいと思ったら、沢村にまとわりつかれて鬱陶しそうな金丸、それを見て笑っている東条、の3人がぞろぞろと階段を下りて行った。金丸あいつ、相変わらず大変そうだな。

「あ〜〜〜御幸先輩だあ〜〜〜!!!」

…嵐が去ったと思ったら別の台風がやってきた。

「鷹野お前、声デカすぎ」
「きゃはははは」

廊下の向こうから歩いてきた鷹野が俺の姿を見て声を上げたらしい。隣には光もいて、笑っている。

「光に会いに来たんですか〜?」
「いや…」

帰るとこ…と正直に答えそうになったが、本音ではちょっと会えるかもと期待してた下心が顔をのぞかせた。

「まあ…」
「やっぱり〜!ほらぁ行ってきな光!」
「ちょっと…」

背中を押され、もう…、と顔を赤くして鷹野をにらみ、俺を見上げる光。
その手にはバッグはなく、財布を持っている。

「今日…まだ帰んないの?」
「あ、うん。司と学食でお昼食べてから帰る」
「そっか…」

俺もこれから寮で昼飯を食う。午後一緒に勉強しよう…とか誘ったら迷惑だったりする?あわよくばまた、光の家で…とか。でも鷹野と約束してるかもしれないし。そうじゃなくても光が、さすがにテスト期間中は、一人で集中したいタイプかもしれないし。

「あ、ちなみになんですけど〜」

光の後ろに控えていた鷹野が、突然挙手をして進み出て、俺と光の間に割り込んできた。

「お昼食べたら私も帰ります〜」
「…あ、そう」
「あと光は頭いいんでもう今日は勉強しなくてもテスト全然ヨユーです」
「…そう」
「そんなことないから!」

鷹野こいつ…エスパーか?恐ろしい…。でも、ありがたい情報だ。

「じゃ、光わたし先に行ってるよ〜ん」
「も〜」

そしてヒラヒラと手を振って階段を駆け上がっていく鷹野。立ち去るタイミングも完璧…。あいつ空気読めすぎだろ。

「…あのさ、よかったらなんだけど」
「ん?」

立ち去る鷹野を見上げていた光が俺を振り向いた。

「今日も一緒に…勉強しねえ?」
「え?」
「ほら、期末終わるとさすがに…地区予選始まって全然時間なくなるからさ」

つまり今日は最後のチャンス。光と一緒に過ごせる貴重な日。

「…いいけど…」

光は頬を赤くしてうなずいた。

「自習室で?」

そしてそう続けた。…まあ。うん。そうなるよな。
いや別に、そういうことが目的なわけじゃないけど。もちろんちゃんと勉強するつもりだけど。あの日あの後、ちゃっかりコンビニに寄って、コンドーム買ったけど。あの日から毎日、鞄に忍ばせてるけど。でも、全然そういうつもりじゃないし。

「…そうだな」
「何?その微妙な顔」
「してねーって」

下心しかないと思われたら嫌だ。俺は間髪入れずに否定した。

「ふーん…」

光はつま先でツンツン床を突きつつ、呟く。

「まあうちでも…いいけど」
「…え」
「自習室でもいいけどっ」

照れ隠しなのかすぐにそう言って、光は赤い頬を膨らませる。
なんだこの可愛い生き物。

「あー…、じゃあ…」

ドクン、ドクン、と期待が膨らみ始める心臓の音を隠すように、俺は口角を上げて平静を装った。

「…行っていい?」

俺のよこしまな下心が伝わっていないか、そして光はどんな風に考えているのか、少しくらいでも、光もそういう期待をしてくれてるのか…。色々な不安と期待が胸の中に渦巻く。

「…うん」

光が小さくうなずいた。そして、ちらっと俺を見上げた。

「…じゃ、お昼食べてくるから」
「あ、おう。じゃ…食い終わったら連絡して」
「うん」

じゃね、と光はちょっと素っ気ない態度で階段を駆け上がって行った。照れてるのかな…。

つーか…。

もしかして…今日こそ……?

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