「おじゃましまーす…」

昼食の後光と合流し、妙にぎこちない空気で光の家へ来た。光も何となく、そういう空気を察知してる…っぽい。いや、べつに、俺はそういうつもりってわけじゃないけど。でも時期的にも、タイミング的にも、そろそろだよな…とは思ってる。
光さえいいのなら……。

「待ってて、お茶持ってくるから」
「あ、さんきゅ…」

部屋に入ると、光は前回と同様、お茶を取りに一人部屋を出て行った。いつもと同じ、落ち着いた様子。でも家に呼ぶ時点で…ちょっとはそういうことも考えてる…はずだよな?
…いやいや、とりあえず勉強。

俺がノートと筆記用具を取り出していると、すぐに光がグラスをトレーに載せて部屋に戻ってきた。

「はい」
「ありがとう」

光はグラスを机に置き、トレーをチェストの上に置いて、俺の隣に椅子を持ってきて座る。それから手際よく教科書やノートを取り出し、シャープペンシルの蓋をカチカチと押した。真面目に勉強を始めるらしい。まあ、そりゃそうだよな。
俺もノートを開いてルーズリーフを広げた。

それからしばらく勉強をして、1時間近く経ったころ。光がペンを置き、グラスに手を伸ばした。

カランカラン、と氷が涼しげな音を立てる。その音を聞いてのどの渇きを思い出した俺も、ペンを置いてグラスに手を伸ばした。

「先輩、どう?」

ふいに光が聞いてきた。俺の勉強の進捗のことか。

「ああ、まあ割と終わったよ」
「ふーん…」
「光は?」
「私も…大体は…」
「そっか」

沈黙が流れた。…え、これ…勉強終わりにしてもいい感じ?そういう流れ?

机の上に放り出していた手の指先が、ぴくり、と動く。行け。俺。動け。

手を伸ばし、光の髪に触れた。光がこっちを向き、戸惑いながら聞いてくる。

「なに…?」

サラサラの柔らかい髪が指の間をくすぐり、流れ落ちて光の肩にかかる。俺はまた手を伸ばして、今度は光の肩に触れ、そのまま抱き寄せた。
戸惑いがちにゆっくりと顔が近づき、光が目を閉じる。唇が触れて、頭の中が目まぐるしく回り始める。熱を放ち始めた肌を、空調の涼しい風が撫でていって心地いい。

キスは…もう、普通にできる…。まだ少し、緊張するけど…。
光はどう思ってんのかな…。

そんなことを考えながら、長いキスをした。今までで一番長いキスを。
その気持ちよさに酔いしれながら、頭の片隅に生まれ始めた戸惑いがどんどん大きくなってきた。

このあと、どうしよう…。

キスして、それでおわり?
普通ならこの流れで…ベッドに行く?いや、普通ってなんだ?
それにベッドに行くのって…ベッドに行こうって言うの?なんかダサくね?
それにここ、光の部屋だし。俺がベッドに誘うのもなんか変な感じが…。

「ね…、ねぇ」

光が身じろぎをして俺の肩を押し、唇が離れた。

「長すぎ……。」

顔を真っ赤にしてそう言う光を見て、俺は腹の底がぶわっと熱くなった。

「もう少し…してもいい?」

絞りだした言葉に自分でくらくらした。何言ってんだ俺、という羞恥心と、まだまだ物足りない、という欲求がせめぎあう。

「…うん」

そしてそううなずいた光を見て、たまらない気持ちになる。腹の底がギュッとなって、胸の奥から何かがこみあげてくる。
2度目はなんの躊躇いもなく唇が重なって、貪るようなキスを繰り返す。何度目かに俺は光の唇を舌で割って、深いキスをする。

「んん…っ」

光がくぐもった声を出す。俺は腹の底の疼きが堪えきれなくなりそうで、だけどキスを続けた。
抱き寄せている肩を撫で、光の細い二の腕をつかむ。やわらかい腕。そして、そういや二の腕って胸の柔らかさと同じだと聞いたことがあったっけ、と思い出す。
別にそれを確かめたいわけじゃないけど、それを思い出したのは、光の細い腕の柔らかさに驚いたからということと…腕をつかんだ時に、親指の先がほんの少し、光の胸元に触れたように感じたから…。
今胸を触ったら…光は嫌がるだろうか。でも、こんなキスをしてるのに、嫌がってないし…。
このまま…してもいい…のか?

手を少し緩め、光の肌をシャツ越しになぞるようにして、ゆっくりと移動させる。腕を撫でおろして、腰に手を差し込み、その細い腰をゆっくりと撫でた。少し腰が反って、光が俺のほうに身を寄せたのが分かって興奮した。細い腰…細い体。そして、どこもかしこも柔らかい…。

キスをする音が響く部屋で、俺はついに、手を上へと滑らせた。そして…

手のひらに、男には決して無い魅惑的なふくらみが収まった。

光が吐息をこぼした。キスとは違うタイミングで不意にこぼれたその吐息は、胸を触られたことへの反応だと分かった。そのはずみでキスが途切れ、光は触られている自身の胸を真っ赤な顔で見つめ、その視線を俺に向けた。

「……。」

そして恥ずかしそうに逸らされる目。だけど、嫌と言われないことに俺は動揺と興奮で混乱した。
これ…。いい、ってこと、だよな…?

ゆっくりと手に力をこめる。それは…驚くほど柔らかかった。
二の腕とは全然違う。この魅惑的な感触…。

「…ん…。」

光の声が小さく漏れた。なんだこれ…。なんだこの状況。俺、どうにかなっちゃいそう。
この興奮のままに流れに身を投じてしまいたかったが、一方で、頭の片隅では少し冷静な情けない自分がいた。

胸、触ったけど…このあとどーすればいい?脱がす?いや、俺が先に脱いだほうがいいか?こういうのって、女の子は恥ずかしいもんだよな…。あ、いや、先にベッドに移りたい。やっぱ、ベッド行こうって言うしかないか?あ、あとそうだ、明かりを消さないと。つっても今真昼間だから、部屋の電気を消しても全然暗くならないよな…。カーテンも閉じる?でも光が何も言ってないのに俺が勝手にカーテン閉めて回るのって変だよな…なんかシュール…


「な…なんでずっと黙ってるの…。」

光がか細い声で言って、俺は我に返った。うわ…今俺、結構な時間ずっと黙って胸揉んでた…!?

「あ、いや、なんか…」
「…何…?」
「…か、考え事してて」
「…考え事?」

光の目がいぶかしげに細まって、しまった、と思った。光は俺の手をやんわりと胸からはがした。俺も抵抗するわけにもいかず大人しく手をひっこめた。

「いや、違っ…考え事っつーか、なんつーか…」

…童貞だから流れがわからなくてまごついてた…なんて言えるか!

「…なんか…」

光は胸を隠すように腕を組んで、机の上に視線を落としながら、どこか悲しそうな顔でつぶやいた。

「……慣れてる…んだね…」
「…えっ?」

な…慣れてる?どこが!?
むしろガチガチの童貞でどうしたらいいかわからないんですけど!?

「いやそんなことねーよ…」
「……。」

な…なんでこんな気まずい空気になってんだ…。
よくわかんねーけど…なんか光、怒ってる?

「え、な、なんか嫌だった…?」
「…べつに」
「…怒ってません?」
「怒ってないし」

怒ってる…絶対怒ってる…!

「なんか…ごめん」
「だから、怒ってないってば」
「いや怒ってるじゃん…」
「怒ってないって言ってるのに謝るから」

あー、もー、なんでこんなことになってんだ…!

「えーと…」
「……。」
「とりあえず…今日は帰るわ」

いったん時間をおいて冷静になろう。何が悪かったのか正直わからないし…明日は試験だし。試験が終わってお互い頭が冷えてから…

「勝手にすれば」
「……。」

…なんでこんな急に怒ってんの光…!?

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