昨日光の胸を揉んだ…。

今思い出しても興奮で胸がいっぱいになる。
あの感触、あの光景…。きっと一生忘れない。

だけど…。

光…なんであんな急に怒り出したんだ!?

一晩経ってもわからない。やっぱ俺がもたついたから?それともやっぱ、嫌だった?

「おい、大丈夫かよテメー」

倉持にどつかれて少しよろけた。俺は、おう、と気力のない返事を返す。

「昨日からなんか変だぞ、気持ちわりー」
「別に普通だって…」

相変わらず鋭いやつ…。ごまかすのも楽じゃない。

「お前昨日昼めし食った後どこに消えてたんだよ」
「テスト勉強してたんだよ」
「どこでだよ。自習室にもいなかったって中田言ってたぞ」
「ナイショ〜」
「ああ?テメー…」

倉持が舌打ちをしてまたどついてきた。暴力的な奴…

「イターイ倉持クン最低〜」
「気持ちワリーな、黙れクソ眼鏡」

じゃれ合いながら階段を上り、教室へ向かう途中で俺は立ち止った。

「あ…俺飲み物買ってくわ」
「…あそ」

そこは自販機の前だった。倉持は興味なさそうに先を歩いて行った。
俺は財布を取り出すためにバッグの肩紐を片方おろしてバッグの中を漁る。財布はすぐに見つかって、俺はバッグの肩紐を片方ぶら下げたまま財布から小銭を取り出し、自販機に入れた。そしていつも飲む麦茶のボタンを押したとき、ドスンとバッグに衝撃がぶつかった。
はずみで肩紐が落ち、バッグが重い音を立てて床に落ちる。同時に筆記用具やノートが少し床に散らばって、俺にぶつかった犯人の足元にも滑って行ってぶつかった。

「あ、ワリィ」

乱暴な口調でそう言いながら、思いのほか丁寧に散らばったものを拾い上げ始めたその犯人は、間宮だった。俺は少し驚きつつ、いや…、といいかけて、間宮の足元に転がっていた小箱に気づき、息が止まった。
こ…コンドーム!間宮に…つーか誰にも、見られたらまずい!
すぐに拾い上げるべきだがそんなことをしたら間宮に気づかれる、と考えている一瞬の隙に、間宮がその小箱に気が付いてしまった。

「……。」

それを拾い上げ、目が釘付けになる間宮。俺はその手から箱をひったくってバッグに放り込んだ。

「……。」
「…なんだよ」

俺はほかのものをすべて拾い上げてバッグに放り込み、まだ呆然と固まっている間宮に何事もなかったかのように言った。まあ何事もなかったかのように済ますのは、無理があるが…。

誰にも言うなよ、とか、くぎを刺すべきか。いや、そうしたところでこいつが言うことを聞くか?でもこいつ、光のこと好きだったよな。なら言いふらすようなことはしねーか…?
などと考えていると、突如、間宮の目から信じがたいものが零れ落ちた。

ぽろぽろと涙を流し、すぐに腕でそれを乱暴に拭ったかと思うと、そのまま背中を丸めて顔を覆い隠し、肩を震わせる間宮。え、ガチ泣き?

「お…おい」
「……。」
「だ…大丈夫か?」

なんで俺がこいつの心配なんかしてるんだろ。

「うるせえな平気だよ!ほっとけ!」

間宮は顔を覆ったままそう声を上げた。

「…はいはい」

まあ俺に慰められるのも嫌だよな、とも思うし、なんで俺がこいつを慰めなきゃならねえんだ、という気持ちもあったから、俺は間宮をほうったまま踵を返して教室に向かおうとした。

「おい待て」

しかしその足を間宮がつかんで止められた。

「なんだよ危ねーな…」
「…いつ」
「え?」
「いつしたんだよ」

ギリリと俺の足をつかむ間宮の手に力がこもる。

「なんでお前にそんなこと言わなきゃならないわけ?」
「いいから言え!!」
「言うわけないじゃん」

つーか…してないし。間宮が思ってるほどのことは…。

「ああ〜!俺が花城さんの最初で最後の男になる予定だったのにー!!」
「何言ってんのお前…」

やっぱり変な奴だな…こいつ。

「チクショ〜最後の男だけで我慢するか…」
「おい。なにサラッと言ってんだお前」
「ま〜初恋は叶わないっていうしな〜。お互い二番目の相手で最後ってのが現実的…」
「え?」

床に胡坐をかいてぶつぶつ呟いた間宮の言葉に俺は固まった。

「…二番目?」
「なんだよ?」
「いや…お前、彼女いたの?」
「はあ?」

間宮はうっとうしそうに俺をにらんだ。

「いたけどそれが何?」
「え!?…いつ?」
「中学んときだけど?」
「…へー…」

意外…こいつがねぇ…。

「え…同級生?」
「いや俺が中3の時相手高3。」
「へー年上…」

気づけば俺も間宮の前にしゃがみこんで話し込んでいた。

「え…じゃあお前中学で…」
「あ?」
「…は、初体験?」

間宮は切れ長の鋭い目で俺を睨んだ…ように見えたけど、目つきが悪いせいでそう見えただけかもしれなかった。

「そうだけど?」
「……。」

まじか…こいつに先を越されてた…。まあモテそうだしなコイツ…。しかし中学生でとは…。

「へー……」
「ってオイちょっと待て、なんでテメーが吐かないのに俺が教えてやってんだよ」
「お前が素直に喋るからじゃん?」
「ふざけんなテメーも白状しろ!」

間宮が騒ぐので、道行く女子生徒たちがこっちを見ながらキャッキャと盛り上がっていった。

「それとこれとは別じゃん」
「いーーーーーから言えって!!別に誰にも言わねーから」
「うーん」
「いーじゃねーかどうせもう経験済みなのわかってんだから!時期言うくらいなんだってんだよ」
「いや〜…」

まあ…勘違いされてるし、してないって言ってもいいか?それにこいつ…経験豊富そうだから、ちょっと相談できるかもしれないし…。

「まだ…なんだよね」
「あ!?」
「だから……まだしてない」
「……。」

俺を揺さぶっていた間宮がきょとーんと硬直して、しばらく読み込み中のコンピュータみたいに動かなくなった。

「……っは!!?え!?なんっ…!!」
「お、再起動」
「えしてないの!?マジで!?」

間宮の奴、急に目をキラキラさせやがって…。やっぱ言わないほうが良かったかも。

「よっしゃああーー!!!」
「何喜んでんだよ。別にお前にチャンスとかないから」

俺の突っ込みをよそに、間宮はひとしきり喜びをかみしめてから、キラキラした目で俺の元に戻ってきた。

「お前もちょっとはイイトコあんじゃねーか!」
「別にお前のためとかじゃないから」
「じゃなんでしてないんだよ。最低でも3か月は付き合ってんだろ?」
「まー…」

もうすぐ4か月になるか…。

「フツー1か月くらいでするだろ」
「…え!?それは早くない?」
「はあ?何言ってんのお前それでもDKか?」
「…俺は大事にするほうなんだよ」
「あ、もしかしてお前童貞?」
「……。」

言葉に詰まった俺を見て間宮の目が丸くなった。

「えマジで!?お前クソモテるのに!?今まで何やってたんだよ!」
「…野球」
「マジでバカだな!」

こいつ…ちったあ歯に衣着せやがれ。

「あ…へぇ〜…なるほどね」

間宮が突然、ニヤーっと笑って俺を見た。

「…なんだよ」
「いや、だからか〜と思って」
「何が?」

なんとなく言われることは予想がついたが、俺は言い返した。

「童貞だから3か月も手ぇ出せてねーんだろ」
「……。」

やめときゃよかった。

「よかった〜」
「なにがよかった〜だよ。」
「いやお前に度胸がなさそうで」

腹が立つほどいい笑顔で言う間宮に腹が立ちながらも、俺は尋ねた。

「お前…初めての時どんなんだった?」
「は?俺に相談するかフツー?」
「あ…やっぱダメ?」

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