御幸が間宮と喋っている。
「だから、勢いだよ勢い」
「それがわかれば苦労しないって…」
「ごちゃごちゃ考えてたら萎えるだろーが!アッチのほうも」
「お前と一緒にしないでくれる?」
「じゃー俺に相談すんな」
先週の期末テストのときから話すのを見かけるようになった気がする。万年ボッチのアイツに友達…?しかも同じような孤立気味の間宮と。
間宮は1年の時から素行が悪めで、中学の時は荒れてたらしいと噂で聞いたことがある。それでなのか周りからはちょっと距離を置かれている存在。まあ、顔がいいから一部の女子からはキャーキャー言われてるけど…。
「ねーまた御幸くんと間宮くんが喋ってる〜」
「めっちゃ目の保養〜♡」
…ほらな。
バカバカしくなって、俺は教室を出た。手持無沙汰に、ジュースでも買いに行こうと考えながら。
そして…
自販機のあるロビーに行くと、そこに花城さんがいて驚いた。
「あ…。」
振り向いた花城さんが俺に気が付き、小さく会釈をしてくれる。…ラッキー!花城さんに会えるなんて。
…まあ…御幸の彼女だけど…。
「あの…先にどうぞ。」
「え?」
「まだ、決まってないので」
花城さんがそう言って、俺に自販機を譲ってくれた。俺はどうも、と言いながら自販機の前に立ち、頭が真っ白なことに気が付いた。
「…?」
突っ立ったまま固まった俺を、花城さんが不思議そうに見る。
「…あ…俺も決まってない…ヒャハハ」
恥ずかしい。何言ってんだ俺。と思っていると、花城さんがふわっと笑顔を広げた。
か…可愛い!笑顔がまぶしすぎる…!!
「あー…御幸とは順調?」
「え?」
……。
……何聞いてんだ俺!?
花城さんの困惑した顔が、みるみる赤くなっていく…。え、なんで!?
「…はい…」
まあ…。と、花城さんは真っ赤な顔でつぶやいた。ど…どーいう意味!?俺、変なこと聞いた…よな!?え…今のってセクハラ?ち、違うよな?そんなつもりじゃ…!
「そ、そっか」
「……。」
なんか…聞いちゃまずかったか?
でも花城さんとの共通の話題って、御幸のことくらいしかねーな…悲しいことに。
「…先輩、は…」
「えっ!?」
思いがけず花城さんが話を振ってくれて、俺は驚いて無駄にでかい声を上げた。
「あの、仲いいですよね。御幸先輩と…」
「え?あ、ああ〜…いや…まあ…なぜかずっと同じクラスでな」
笑ってそういいながらごまかすと、花城さんはふふっと天使のようなほほえみをこぼした。そんな暴力的なまでの可愛さを前に、俺はしどろもどろになって変な汗が噴き出してきた。
「じゃあ…1年生の時も、ですか?」
「え…?おう、ずっと同じ…」
「中学は…」
「あ、それは別。」
「あ、そ、そうですよね」
俺も御幸も野球留学というやつで、推薦でこの学校に入学した。同じ中学から、というのはなかなか考え辛いだろう。
「1年生の時から仲良かった…んですか?」
「え…?いや…普通だけど」
なんだ…?やけに聞いてくるな。
「あ…。」
そうなんですね…。と納得したようにうなずいた花城さんが、しばらくうつむいて考えこむようにして、ふと顔を上げて俺を見上げた。
「あの…じゃあ…、…。」
その顔は緊張していて、頬が赤くて、そんな気はないとわかりつつも、俺はドキドキした。
「御幸先輩って……前、付き合ってた人とか…し、知ってますか…?」
「……えっ?」
完全に想定外の質問に、俺の頭はまた真っ白になった。
ど…どーいう意図の質問!?
「き…聞いたことねーけど…」
1年の時からむかつくほどモテる奴だったけど、そういう話は聞いたことがない。
でもなんでそんな質問を…?ま、まさか御幸のやつ…元カノがいるのか!?聞いたことねーけど!?いやちゃっかりしてるから実は中学の時に…とか、あり得る。考えたくねーけど。そこまで考えて、さっき間宮と親しげに話していた御幸の姿を思い出した。間宮は中学の時から素行が悪く、女関係も派手だったという噂がある。まあ、だからって御幸も…とは思えないけど。あいつのことはこの2年半、野球部で一緒に過ごしてきてどんな奴かはなんとなくわかるし。
でも花城さんがそんなこと聞くってことは…や、やきもち?ってやつ?
「そ、そうですか」
花城さんはごまかすように笑った。な、なんか、胸が痛い。何か力になってやりたい。
「すみません変なこと聞いて。」
「い、いや、大丈夫」
「じゃあ…。」
「え、」
気まずかったのか、花城さんは何も買わないままロビーを去ってしまった。どうしたんだろう…。