「あの…倉持先輩」
廊下でふいに背中から可愛い女子の声が俺の名前を呼んだので俺は驚愕と期待のあまりすごい勢いで振り向いた。そしてそこに立っていたのが花城さんだったのでさらに驚愕した。
相変わらずかわいいぜ…色白いし足長いし、スタイルも抜群…。廊下の周りにいる奴らが全員ジャガイモに見える。なんだこの天使は…
「あの…わ、私のことわかりますか…?」
「えっ!?わ、わかるよわかるわかる!もちろん」
「あ、よ、よかった」
えへへと照れ笑いをする花城さんの、その神がかった可愛さのあまり見とれてしまって固まった…だなんて言えない。
「あの…。」
一体俺に何の用なんだ…!?この間ちょっとしゃべったし…まあ御幸のことだけど…俺に何か用なのか…!?花城さんから見たら彼氏の友達ってポジションだけど…だとしても…こんな可愛い子に廊下で話しかけられるなんて、それだけで優越感。幸せ。青春最高。
「御幸先輩…いますか?」
「え」
…なんだ…御幸を探しに来たのか。まあそーだよな…
「あー…アイツなら…」
だけど御幸…昼休みの途中で急に間宮と教室を出て行って、まだ戻ってないんだよな。あいつと最近仲いいこと自体が謎だし…
「……。」
「どうしたんですか?」
「あ、いやなんでもない。御幸はさっきどっか行ったけど…」
「あ…そうなんですね」
残念そうに微笑む花城さんに胸が焦がれる。ああ、なんで御幸と付き合ってるんだ…速水ならまだ納得できた…嫌だけど。
「あれ?光?」
と、そこへどこかから戻ったらしい御幸がちょうどよく登場した。隣には間宮もいる。
「ちょーどお前を探してたんだよ」
俺と花城さんを不思議そうに見比べる御幸にそう説明すると、花城さんは俺にお礼のように会釈をして御幸のほうへ歩み寄った。すると間宮が意味深な視線を御幸に送ってニヤッと笑い、迷惑そうに眉を顰める御幸をよそに、花城さんにひらひら手を振った。
「またね花城さん♡」
花城さんはちょっとあきれたような笑みを浮かべ、教室に入る間宮を見送り、また御幸を見上げる。
「ちょっと話したくて…」
「あ、おう、わかった」
二人は親しげな様子で一緒に歩き出す。
…いいなあ…花城さんがちょっと話したくて訪ねてくるなんて…。
去っていく二人の背中を見送るのもむなしくて、俺も教室に戻った。御幸の席の前の席には間宮が座って退屈そうに携帯をいじっている。あいつとはあまり話したことないけど、いやな感じはしない。むしろ中学の時の話とか、なんとなく俺と似てるのかもと思ったりもして、実はちょっと親近感を持っている。
「なあ」
間宮に近づいて声をかけると、目つきの悪い鋭い目が俺を見た。
「お前と御幸、最近仲いいけどなんで?」
「あ?」
ぶっきらぼうな声が返ってきたが、悪気はないのは伝わる。
「あー…」
その証拠に、間宮はまじめに御幸と仲がいい理由を考えるように視線を巡らせた。
「ちょっと相談乗ってる」
「相談?」
「たいしたことじゃねえよ」
間宮はそれ以上のことは何も言う気はないようだった。
問いただすほどのことでもないし、俺は諦めて自分の席へ戻る。すると10分もしないうちに御幸が戻ってきて自分の席へ着き、すぐにまた間宮と話し始めた。
二人とも身をかがめて内緒話でもしているようで、俺は興味を惹かれた。
真剣に話している二人にばれないように俺はこっそりと二人の背後に近づく。
「甲子園終わるまでは無理だなぁ、忙しいし…」
「お前よく我慢できるな」
「しょーがねえじゃん、俺主将だし」
「うわっ、うぜー。まあ俺としてはできねーまま別れてくれりゃあ嬉しいけど?」
「はあ?ふざけるな」
…なんか、思ってた以上に仲良さそうな会話。今まで接点も共通点もなさそうだったこいつらが一体なぜ?
「で…いつすんの」
「言うわけねーだろ」
「あぁ?ここまで相談乗ってやったのによぉ」
「それとこれとは別」
「でも夏休み中だろ?」
「うるせえよ」
「童貞卒業報告ヨロシク♡」
「するかバカ」
え……
キーンコーンカーンコーン、と鐘の音が頭の中に反響する。それが教室のスピーカーから出ている音だと気づくまで、俺は数秒間突っ立っていた。そして呆然としたままふらふらと自分の席まで戻って、ドスンと力が抜けるままに座った。
童貞…卒業?
ってことは……花城さんと!?…ってことだよな…!?
間宮に相談って…そういうこと!?確かに間宮は女関係が派手だったと聞いたことがある。でも…だからって花城さんとのことをあんな部外者に相談するか普通!?見損なったぜ御幸のヤロウ…
俺なら絶対…花城さんとのあんなことやそんなことなんて、絶対に絶対に誰にも話したりしないのに…!!