「なんか何したらいいかわかんねえよなー…」
甲子園を終えて、テレビで流れる決勝戦のハイライトを眺めながら呟く麻生達。完全に抜け殻だ。
「いや受験勉強だろ…」
「あーっ!!うるせえ言うな!!」
騒がしい奴らをよそに俺は麦茶を飲みながらテレビを眺め、ふいに鳴った携帯のバイブレーションに気が付き携帯を開く。光からメールだ。明日ついに海に行く予定だから、そのことかもしれない。
「いいよなープロに行ける奴は…」
「おい、そういうこと言うなって」
麻生達のつぶやきが聞こえてきたが、俺は聞こえないふりをした。
光からのメールは思った通り明日のことで、待ち合わせ時間の確認だった。楽しみで仕方ない。
「…え!?おい、ちょっと、これ見てみろよ!」
突然麻生が大声を出して、俺はつい振り向いてしまった。中田やノリたちが集まって麻生のスマホを囲んでいる。
「ほら!マジだって!」
「ほんとだ…」
「すげー」
…なんだ?少し気になったが、何となくあの輪に入るのは気が引ける。部屋に戻るかな…
「やっぱ花城さんだよな!?」
!!?
「え?」
俺が立ち上がると、麻生たちが一斉に振り返った。
「ほら、これ見てみろよ」
そして、そう言って俺を手招きした。近づいて麻生のスマホをのぞき込むと、そこには…
【速報】甲子園準決勝・応援席の美少女が可愛すぎるwwwww
…というタイトルのネットの記事に、テレビ中継のキャプチャ画像がいくつか貼られていた。それらすべてに、あの日応援席にいた光が写ってるものだから、俺は言葉を失った。
027:これ青道の応援席?
031:芸能人?
034:可愛すぎる
035:選手の彼女だろ
037:これスカウト行くだろ
038:特定班まだ?
042:色白美女
043:俺の彼女の写真勝手に貼るなよ
045:そこらの芸能人より余裕で可愛くて草
046:これ一般人ってマジ?
す…すげえ騒がれてる…。こんな一瞬テレビに映っただけで?まじで?
「…どーすんの御幸?」
「どーするって…」
どうしようもなくね?てか、本人は知ってんのかな…。
「大丈夫?花城さん」
「いや、知らねえんじゃねーかな…あんまネットとか見ないし」
「そっか…」
麻生やノリは心配するような口ぶりだが、そこに好奇心も交じっているのがわかる。
「あんま人に言わないようにして」
俺はそう言い残して、うなずくノリたちを置いて食堂を出た。
周りに誰もいないことを確認して携帯を開き、光に電話をかける。
数回の呼び出し音の後、光はすぐに電話に出た。
「もしもし。」
いつもの落ち着いた声。この声を聴くだけで胸がギュッと甘く苦しくなる。
「あ…光?俺だけど」
「うん」
「今大丈夫?」
「うん」
声の調子は…いつも通り。やっぱネットとか見ないし、知らないのかな…?それならそのままのほうがいいか。
「メール見たけど、明日8時に迎えに行くからな」
「あ…うん。」
光は一呼吸おいて、ささやくように言った。
「楽しみにしてる…。」
ドキ、ドキ、ドキ、と心臓が騒ぎ始める。
「お…おう、俺も…。」
「…うん。」
静かに間を置いた短いやり取りに、お互い、期待を含めたような妙な空気が漂う。
明日、光の水着姿を見られる…。やばい、楽しみすぎる。
しかもそのあとは…なるべく早い時間に光を家まで送っていくとして…うまくいけば…。
ついに……。
「…先輩?」
「あ、いやなんでもない。」
「……。」
光の沈黙にはっとした。こうやってごまかして行き違いになったことを思い出し、俺はとっさに口を開く。
「…て、いうか、なんか、楽しみすぎて。緊張してる」
はは…、と照れるあまり情けない笑いをこぼすと、電話の向こうから光がこっそり笑う声がした。
「うん…私も」
そしてその言葉を聞いて、素直になる大切さをかみしめた。