俺たちは電車を乗り継いで、すぐに海浜公園についた。早速公園内を進んでいき、白い砂浜に向かって歩く。

夏休みも終わりを迎える直前の海には、まだ結構な海水浴の客がいた。

「わぁ…」

嬉しそうに頬を綻ばせる光。俺はこっそりと呼吸を整えて、緊張を悟られぬように言う。

「とりあえず…着替える?」

俺を見上げた光の顔が少し赤くなる。

「あ…うん。」
「更衣室…あっちだな」
「うん」

整備された公園のため、そこそこきれいで大きい更衣室が男女別で少し離れてところに建っている。ほかにもシャワーやロッカーも完備されている。

「じゃ…着替えたらそこで待ってるから」
「うん。」

うなずいてパタパタと軽い駆け足で更衣室に向かった光を見送って、俺はドキドキしながら男子用の更衣室に向かった。
光の水着姿…どんなんだろ。
光、スタイルいいし…目立つだろうなー…。あんま他の男に見られたくはない…。この前、触ったけど…胸も、結構あった…。…まさかビキニかな?いや、まさかな…。

悶々としながら着替えを済ませ、俺は更衣室を出た。光は…まだ見当たらない。
さっき、そこで待ってる、と指示したあたりのベンチに座って、俺は光を待つことにした。

期待にソワソワする心を周りに悟られぬよう、すました顔で、じっと光を待つ…。

…と、向こうからぞろぞろ歩いてきたむさくるしい男子高校生の集団と目が合って……愕然とした。

「あっ!?御幸だ!!」
「えっ!?ホントだ」
「朝から姿が見えねーと思ったら!!」
「一人で海かよ!?」
「んなわけないじゃん…彼女とでしょ?」
「何ィ!!?」

麻生にゾノに、倉持にノリに白州……。つ…ついてねー!!

「おい花城さんと来てんのか!?」
「こっち来ないでくれる?」
「花城さんどこだよ」
「どっか行ってくれる?」

うっとうしい…だけじゃなく、こいつらに光の水着姿を見られると思うと…嫌だ!!

「先輩?」

そんな願いもむなしく、俺を呼ぶ愛くるしい声。そして一斉に気持ち悪いほどの勢いで振り向く野郎ども…。

ぎょっとして固まった光は、ありがたいことに、薄手のジャージを着てきっちり胸の上までファスナーを閉めていた。だがそれでも、きわどい短さのジャージの裾から、ほっそりと柔らかそうな太ももがすらりと伸びていて…

野郎どもの視線がくぎ付けになった。

「オイ…見過ぎ」

ぎくり、と音がしそうなほどあからさまに肩をすくませた男達。

「行くぞ」
「え…。」

倉持たちがあっけにとられているうちに、俺は素早く立ち上がって光の手を引き、その場を後にした。もうあと一秒たりともあいつらの記憶に光の素足を刻みたくない。

「皆来てたんだね」
「まあ、皆休み一緒だし…皆夏らしく海に来たがるからな」

ふーん、とつぶやいて俺に手を引かれる光。

「一緒に遊ばなくていいの?」
「なんでだよ…せっかくむさ苦しい寮から出てこんな可愛い彼女といるのに?」
「……。」

急に甘い言葉を言われるとは思っていなかったようで、不意打ちを食らった光は顔を赤くして黙り込んだ。

「上着…着ててよかった」
「え?」
「あいつらに水着姿、見せたくねえし」

そう言って俺も顔が熱くなったけど、光はますます顔を赤くした。
そのまま手を引いて、砂浜を延々と歩く。

「どこまで行くの…?」

光が後ろから聞いてきた。

「もうちょっと…人が少ないところ」
「……。」

ドキン、ドキン、と心臓が鳴る。光とこうして過ごせるのが夢みたいで…。

しばらく歩いて海水浴客の少ないあたりを見つけ、俺たちは歩みを止めた。

「この辺でいいか」
「うん」

俺は持ってきたシートを敷いて、やっと荷物を置いた。

「お腹すいてない?」
「ううん。」
「じゃ…ちょっと泳ぐ?」
「…うん」
「……。」
「……。」

泳ぐ…ということは、光は上着を脱がなきゃならないけど…。
恥ずかしいのか、ファスナーを少しおろしては戻し、なかなか脱いでくれない。

「…脱がないの?」
「え?ぬ…脱ぐ…」

光はそう言って、赤い顔で、ゆっくりとファスナーを下した。俺はその光景に目が釘付けになって…

「そ…そんなに見ないで」

光は恥ずかしそうに俺に背中を向けてしまった。

「彼氏なのに」
「見すぎなの!」
「そりゃ、見たいから」
「もー…」
「なあ、こっち向いてよ」
「……。」

ちらっとこっちを振り向いた光はやっぱり顔が赤くて、少し迷った後、またゆっくりとこっちを向いた。
ファスナーが下がっていき、白い肌を包む、白い水着があらわになる…。
胸元にはくっきりと谷間が鎮座し、引き締まって魅惑的にくびれた腰がちらりと見え、秘部を隠す小さな布は両端のひもが結ばれているだけのなんとも心もとないもので…。

俺は言葉を失って数秒固まった後、無意識に光の手ごとファスナーをつかんで、首元まで閉めてしまった。

「え?なに…」
「…やっぱあいつらに見せなくてよかった」

ついつぶやいたその言葉に、俺は顔が熱を発するほど熱くなり、股間に熱が集まるのを必死に堪えた。
け…健全な女に慣れてない高校球児には刺激が強すぎる…!!!あいつらが見たら誰かしらが鼻血を出して倒れていてもおかしくなかった…。

つーか…俺もやばいんだけど……!!

「…脱げないんだけど…」

俺に手を押さえられたまま、光が赤い唇でつぶやく。そういう意味じゃないのに…わかってるのに、そういう意味に変換するな俺の煩悩…!!

「…脱がないほうがいいかも」
「え?」
「つうか、脱ぐな」

あんなかっこの光を前に、反応せずにいられる自信がない…。この、上着を着た姿でさえも際どいのに!

「…変、かな…」

すると光がぽそりと悲しそうに呟いて、俺は凍りつく。

「ちっ…違う!変じゃない!」
「……。」
「可愛いよ!めちゃくちゃ…!」

ドキン、と心臓が跳ねる。真っ赤な顔の光が俺を見上げる。

「でも、その、俺が……冷静でいるために、着てて…」
「……。」

光は目を瞬いて、だんだんと意味を理解したようで、さらに顔を耳まで真っ赤に染めて俯いた。

「…ほら、行こうぜ」

光に手を差し出すと、光は俺の手を握る。
打ち寄せてきた波に近づき、そっと爪先を踏み出した。すると一気に波が足首まで打ち寄せてきて、足元の砂をサラサラとさらっていった。

そのくすぐったさに顔を緩めて光を見ると、光も笑顔を浮かべ、きらきらと輝いていた。

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