「っか〜!!野郎だけで海かよ!!」
「そんなこと言って…浮き輪まで持ってきて準備万端じゃん」
「御幸のヤローどこ行ったんだよ!!美女を独り占めしやがって」
「花城さんの水着見たかったな〜」
御幸が花城さんとここにきていたのは驚いた。現れた花城さんの、あまりの可愛さにも。
俺らが見惚れて固まってる隙に、その彼女の手を引いて行った、御幸の慣れた感じにも…。
…なんか、モヤモヤする。
「引退早々あんな可愛い子と海とか…なんてゼータクな奴!!」
「いや…彼女だから」
「なんでノリはさっきから御幸を擁護すんだよ!」
「別に擁護なんてしてないけど…」
「ノリ…いいからイカ焼き買いに行こうぜ」
白州とノリが連れ立ってイカ焼きを買いに行った。俺はボーッと遠くの岩場の方を見つめる。遠くからでもよくわかる、浅瀬で御幸と遊んでいる花城さんの素晴らしいプロポーション…。
…まだ上着脱いでないのか。
「あ〜あ…もうやることやってんのかなあ」
麻生の呟きは皆まで言わずともなんのことかは分かった。
「…はあ?」
「なんだよ倉持も興味あるだろ?なんか聞いてる?御幸から」
「別に何も…」
言いかけて、間宮と御幸の会話を思い出す。
ーー夏休み中だろ?
ーー童貞卒業報告ヨロシク♡
あれって…そういうことだよな?
「えーつまんねえな」
「……。」
…なんだろう、別に御幸のことなんてどうでもいいし、普段なら人の色恋には片っ端から遠慮なく首を突っ込んで邪魔をするけど、花城さんのことを色々言われるとモヤモヤして…
「花城さん処女かな?結構胸あるよな〜」
「……。」
「やっぱもうヤッたかな?あんな可愛い彼女できたら我慢でき…」
思い切り蹴り上げた海水が麻生の顔面を直撃した。目と口を開けたままモロに食らった麻生は途端にもがき出した。
「ちょっ…テメッ…何すんだよオイ!!」
「ヒャハハハハ!!いいザマだぜぇ〜」
ちょっとスッキリした。いや、まだ苛つくけど。
また御幸たちの方を見ると、2人は波打ち際から離れて行くところだった。荷物のところで何か話してる。
…なに、あの2人のことばっか気にしてんだ、俺。せっかくの海なのに。
「お待たせー。みんなもイカ焼き食べる?」
「クッサ!!ヤロー臭え上にイカ臭えとかどんな拷問だよ」
イカ焼きを買いに行っていたノリたちが帰ってきて、麻生は海から出てきた。
「あ〜すぐ近くで御幸はあんな美人の彼女と青春してるってのによぉ〜!!」
「もう人のことはほっときなよ…」
「イカ焼き美味いぞ」
「あ〜華がねえ!!誰かナンパしにいこーぜぇ」
麻生は粋がったことを言ったが、通りすがりの大学生くらいの女2人にクスクス笑われて俄かにおとなしくなった。
呆れながら俺はまた、無意識に御幸たちの方向を見る。
いや…違う。俺はずっと、花城さんの姿を目で追っていた。
するとさっきまで2人の姿があった場所に御幸の姿がない。花城さんが1人で砂浜に座っている。あいつ便所にでも行ったか?
「倉持〜イカ焼き食べる?」
「あ、おう…」
と、その時、花城さんの元に近づいて行く二人組の男に気がついた。ちょっと柄の悪そうな…。
御幸…どこ行ってんだよ!?
「倉持?」
「悪い、ちょっとトイレ」
受け取りかけていたイカ焼きを断って、俺は駆け足で砂浜を蹴った。
「…あんなにトイレ行きたかったのかな?」
「俺食ってもいいかー?」
***
花城さんの両隣には見知らぬ男が座って何やら不穏な雰囲気。俺は足を早め、近づくにつれてその話し声が聞こえてきた。
「ねー名前教えてよ」
「高校生?だよね?」
…案の定ナンパされてる…!!
「そんなの着てて暑くないの?」
「その下、水着でしょ?脱いじゃいなよ〜」
「やっ…やめてください」
無遠慮に胸元のファスナーに手を伸ばす男から逃れるように身を丸める花城さん。
ヤロー…絶対許さねえ!!
「彼氏も戻ってこないしさあ、俺らと…」
「おい」
俺は腹から低くドスの効いた声を出した。効果はテキメンで、こっちを振り向いた男たちは顔を引き攣らせていた。
「え…、か、彼氏?」
これでも筋トレで鍛えた体。その辺のナヨっちい男よりは威圧感を持っている自負がある。
日和って顔を見合わせる、ガラが悪いだけのなまっ白いヒョロガリ男たちの間で、花城さんは目が潤んだままの顔で俺を驚いたように見上げていた。
「チッ…いつまでいんだよ早く消えろよ!」
「すっ、すいません!」
情けない声をあげて逃げて行く男たち。やばい。俺、カッコいいとか思われてたりして…。
「あっ…あの」
花城さんはまだ少し混乱した様子で立ち上がり、俺を見つめた。ほんと、可愛いぜ…
「ありがとうございます…」
「いや、大したことじゃないから」
「でも…なんでここに?」
「……。」
俺たちが遊んでいたのは御幸たちから遠く離れたはるかかなた。ウォータースライダーや遊具を有料で貸し出してたりもする、浜辺で一番賑わっているあたりだ。
そして御幸たちがいたここは人気の少ない静かな岩場。俺たちがいたところからは目を凝らしてでもいないと全く気づかないあたりだった。
「ちょ…ちょっと通りかかってな」
「そう…ですか」
…こんな奥まった岩場を通りかかるとか…無理がある…!!
「あ…御幸先輩ですか?」
「え?」
花城さんは俺が御幸に用があって来たと思ったらしい。花城さん、俺と御幸が仲良しだと思ってる節があるからな…まさか自分がずっと俺に見られてたなんて、思わないんだろうな…
…って、これじゃ俺が花城さんに片想いでもしてるみてーじゃねえか!御幸の彼女だぞ!?ありえない!そりゃ、可愛いけど…!
「いやっ…、まあ…」
「?」
「い…イカ焼き食うかなと思ってな!買いすぎちゃって」
「そうなんですね」
咄嗟についた嘘だったが、花城さんは納得したようだった。あぶねー…
「でも…今御幸先輩、ちょうどイカ焼き買いに行ったんですよ」
「そ…、そっか!じゃあいらねーな、ヒャハハ…」
「ふふ」
「ヒャハ…」
…沈黙が流れる。き、気まずい。
そんでまた…直視すんのが厳しいくらいキレーなんだよなぁ、花城さん…!!
「…じゃ…、」
居た堪れなくなって、少し踵を返す。もう戻るわ、と、言うべきなんだけど…。
でも…。
「……。」
「…?」
不思議そうに俺を見上げる花城さんを、まともに直視することもできないくせに…
なんか、妙に落ち着くような…この子のそばにいたいような、不思議な気持ちもあって…
「…御幸が戻るまで、いるわ」
「え…?」
「さっきみたいな奴、また来るかもしれねーし…」
苦しい言い訳…かもしれない。
花城さんはどう思ったか、わからないけど…
「…ありがとうございます」
その微笑みを、守りたいと思った。