「疲れた?」
帰りの電車の中、隣に座る光の体温を感じながら尋ねる。光は少し眠そうな目をしていて、俺の声に引き戻されたように目をこすった。
「大丈夫」
「寝てれば?起こすよ」
俺が自分の肩を叩いて寄りかかるよう促して言うと、光は恥ずかしそうにはにかんで首を振った。
「大丈夫だってば。」
ちぇ、残念。
電車は静かに揺れ、あっという間に最寄り駅についた。まだ少し、一緒にいたいという思いを募らせながら、俺たちは駅を出て帰路を歩く。
まだ日は高く、学校のグラウンドのそばを通りかかると、自主練をしてる野球部の1,2年の姿もあった。
「先輩は…卒業したらどうするの?」
光がポツリと聞いてきた。今まで聞きたそうで、だけど聞いてこなかった質問。そして俺も、はっきり口には出さなかったこと。
「俺は…プロ入り目指す」
光は息をのんで、しばらく黙っていた。
「そうだよね…」
そしてそう呟くと、また黙ってしまった。
プロへ行ったら、いろいろと難しくなる。まずどこが俺を取ってくれるかわからないし、プロに行けたとしても北海道とか九州とか、すごく遠くに行く可能性だってある。光は一つ下で、まだ高校生。同級生だったら…一緒に行こうって言えたのかな…
「同級生だったら…追いかけていけるのに」
光のつぶやいた言葉が、俺はしばらく理解できなかった。同じことを考えてくれていたことに驚いて、そして、どうしようもなく嬉しすぎて。都合のいい幻聴なんじゃないかと疑った。
「会いに来るよ。」
俺が言うと、光は俺を見上げた。そして寂しそうな眼をして、頷きながらうつむいた。
俺は光の手を握った。光は握り返してきて、お互いの火照った手に熱がこもって熱く感じた。
そのまま黙って歩いて、ついに光の家に着いた。門の前で立ち止まって、光は手を離さず俺を見上げる。
「…もう帰るの?」
そんな…そんな、寂しそうに聞かれたら…!!っていうかこれ、もしかして誘われてんの…!?
まあ、今日はあわよくば…とは思ってたけど…。でも、いよいよかと思うと緊張してきた…。
「…寄ってもいい?」
ここは男の俺から、切り出すべきだよな…。勇気を振り絞って言葉を絞り出すと、光の頬が赤く染まった。
「う…うん」
そうして、俺たちは家の中に入った。
光が言った通り、家の中には誰もいなかった。階段を上がりながら、胸の奥から興奮がこみあげてきて、俺は生唾を飲み込んだ。
光の部屋に着き、ドアを開けたところで、光は俺の顔も見れない様子で赤面し、俺を振り返る。
「お…お茶、飲む?」
「いや、いい。」
俺は光の手を掴んでドアから離し、部屋の中に促した。光はおとなしくされるがままになる。ドアを閉め、密室に二人きりになる。部屋の中を見渡し、俺たちはゆっくりとベッドに近寄る。今日は勉強机に座る用はない。
ドサッ、とベッドに座った時、興奮はピークに達していた。もちろん緊張も。でも、光も同じくらい緊張した様子で…いや、俺以上に緊張した様子で、ガチガチに固まっていた。
俺はそんな光にキスをした。光はキスに応え、そっと俺のシャツをつかんできた。俺は光の背に手をまわし、キスをしながら、ゆっくりとベッドに押し倒した。
夕暮れの薄暗い部屋で、俺の下に組み敷かれた光が、うるんだ目で俺を見上げてる…。
ついに…。
いや…焦るな!まずはキスから…。
俺は光にキスをして、深く舌を入れた。
「んん…」
光はそれを受け入れながら、俺の服をつかむ。その手はぎこちなくて、すごく遠慮がちで、か弱い小動物のようだと思った。
すごく緊張してるな…。初めて、だもんな…。
俺はそんなことを考えながらキスを続け、ゆっくりと手を光の肌に滑らせた。
「あ…、まっ…て」
光が俺の手をつかむ。
「あ…汗かいてる…」
「いいよ…そんなの」
「で、でも…」
本気で嫌がってればわかる…。か。
確かに…光の火照った目は、言葉に反して俺をじっと見つめてくる…。
すごく…求められてる気がする…。
なんだこの感情…なんだこれ。セックスって、すごい…。
「あ…、」
光の首筋に顔をうずめ、何度もキスをした。吸い付くような肌。柔らかさと甘い香り。少ししょっぱい味。なんでこんなに可愛いの、こいつ…。
「せ、んぱ…」
光のか細い声は緊張に震えていて、その力の入る肩をほぐすように俺はキスを繰り返す。
「なあ…なんでまた名前で呼ばなくなったの?」
「え…?」
「名前で呼んでって言ったのに…」
手を滑らせて光の腰に移動する。そしてゆっくりと腰を撫で、少しずつ、少しずつ…胸に近づいていく。
「だって…皆の前…だから…」
「今は二人っきりなんだけど…」
言いながら、軽く胸に触れる。光の体がびくっとはねて、緊張で身を固くしたのが分かった。
「…大丈夫?」
一旦撫でる手をまた腰に戻し、光の様子をうかがった。光は唇を噛み、恥ずかしそうに眼をさ迷わせている。
「だ…大丈夫」
だけど光はそう言って、握りしめた手を口元にあてた。
「光、俺の顔見て。」
その手を解きながらそう言うと、光はゆっくりと俺に目を向けた。
「…胸、触っていい?」
光は息をのんでしばらく固まって、それから小さく口を開いた。
「……うん……」
聞き取れるか聞き取れないかというほどの小さな声だった。どれほど勇気を振り絞ってその声を絞り出してくれたのか、俺には少しわかった。
女の子は不安なものだから…。
でも光は、俺にこたえようとしてくれてる…。
ゆっくりと…手を胸に伸ばす。ふくらみに沿って、そっと手のひらを添える。そして優しく力を入れ、膨らみを揉んだ。
「……。」
緊張で固まる光は目をつぶったり伏せたりして、いたたまれない表情で顔をそむける。
嫌がっては…ないみたいだけど…。このまま続けていいのかどうか…。
考えながら、俺は一旦手を離し、ワンピースの肩紐に手をかけた。
「え、っ…」
途端に肩をすくませて身をちぢこめる光。尋常じゃないくらい緊張してる。
こういうとき、触りながら少しずつ脱がせって、間宮は言ってたけど…。うーん…。
光の汗の浮いた額を撫でた。少しほっとしたように俺を見上げる光の顔を見て、俺の中の焦燥感がぴたりとやんだ。
焦らなくていいか…今は、まだ…。
そのまま光の隣に横たわると、光は驚いたように俺を見た。
「無理しなくていいよ。」
俺はそう言って、光の頭をなで、そのまま抱きしめた。
「な…なんで…」
「抱きしめただけでこんなガッチガチだし。」
「……。」
口ごもる光の、小さくちぢこまった背中を撫でる。
「こうやってさ、ちょっとずつ慣れようぜ。」
ぽんぽん、と叩いた背中の力がほんの少しほどけるのを腕の中で感じながら、俺は光の華奢な体を抱きしめ続けた。どうしようもない愛おしさが胸の底からこみあげて、幸福感を感じた。可愛いな…と、それだけで頭がいっぱいになる。
「うん……」
光はそう小さくつぶやくと、しばらく静かな空気が流れた。安心するような、落ち着くような…このまま眠ってしまいたくなった。さすがにそれはまずいけど。
だけど…
「…光?」
いつのまにか、光の肩がゆっくりと上下し、スゥスゥと静かな寝息が聞こえてきた。腕の中を見ると、長いまつ毛に縁どられた瞼は閉じ、光は愛くるしい寝顔で俺の胸に蹲っていた。
…可愛い…。
俺の胸で寝ちゃったよ。安心してくれてるってこと?だよな?
俺はしばらく、その寝顔をこっそりと楽しんだ。