夏休みが終わり、始業式。
「おい。」
教室に入るなり前の席の間宮がにやけた顔で俺を振り返る。
「卒業した?」
「うるせえよ」
意味深な俺たちの会話に、近くのクラスメイトが一瞬気になったように視線を向けてくる。
つーかこいつ…夏休みの間このこと気にしてたのかよ。ちょっと気色悪い。
まあ…光のこと好きなんだし、気になるのはわかるけど。
「ええ!?まさかまだ?」
「言わねえって言ったろ」
「海行くって言ってたじゃん!それでなんでできねえの?」
「ノーコメント」
こいつに何を言われようが、おかしいと思われようが、関係ない。光を大事にしたいし、あの日のあの寝顔を見てしまったら…。後悔なんてない。
「お前ほんとに男かよ〜。まあ俺にとっちゃ都合いいけど…」
「いやお前に関係ないし」
「仲いいな〜お前ら…」
倉持が疑問を通り越して不審そうな目で俺たちを見ながらやってきた。
「接点あったっけ?」
「え?席が近い。」
倉持の問いに飄々と答える間宮。
「あっそう…」
「何?べつに横取りとかしねえから、お前の親友。」
「は?別に俺らは…」
間宮の言葉に虚を突かれて口ごもる倉持が面白くてついにやけると、倉持に睨まれた。
「きもちわりー顔してんじゃねえクソ眼鏡」
「いや〜お前にやきもち焼かれるほど好かれてたとは…」
「アァ!?冗談でもやめろ気色わりぃ!!」
「ハッハッハ」
ふざけているとチャイムが鳴り、倉持は不服そうな顔で自分の席に戻っていく。
俺も席に着き、前を向いた間宮の広い背中を見つめた。
***
始業式では野球部の表彰があり、俺と倉持とゾノが代表して登壇した。そのあとにサッカー部もインターハイで好成績を残したようで、代表で速水が登壇して表彰されていた。
「速水、プロ行くらしいぜ」
始業式を終えて教室に戻る途中、同級生たちの噂話が耳に入った。
「Jリーグのクラブから声がかかってるんだって」
「すっげー」
「イケメンだしサッカー選手になるとか…死ぬほどモテるよな」
「いいな〜」
あいつ…そんなにサッカー上手かったのか。確かに目立ってたし上手いとは聞いてたけど、想像以上だった。
「あーあ、いいなあ才能あるやつは…」
「野球部からも今年何人かプロ行くだろうな〜」
「俺らみたいな凡人はおとなしく受験勉強か…」
もう本格的に進路を考える時期。寮でも引退した3年たちは受験勉強を始めてる奴が多い。
教室に戻って席に着き、俺は目の前の間宮の背中を見た。
「なあ」
そしてほんの好奇心で声をかけた。
「お前卒業後どうすんの?」
大学?と聞くと、間宮はいつも通りの不愛想な顔で答える。
「ミュージシャン」
「…え?」
「去年からレコード会社にデモテープ送ってる」
よ…予想外すぎる回答が来た。
「お前音楽とかやってたんだ…?」
「1年の時から軽音部」
「え、全然知らなかった」
ほかの軽音部の奴らみたいに、ギターケースを持ち歩いてるわけでもないし…。
「ここじゃ幽霊部員だからな」
「え?」
「軽音部はバンド組まないと練習場所使えねえんだよ。俺はソロだから」
「へえー…」
こいつもいろいろあるんだな。
「え…どんな曲歌うの?」
「聴く?」
間宮は使い古した音楽プレーヤーとぐちゃぐちゃのイヤホンを鞄から引きずり出した。イヤホンを借りて耳に当てると、間宮が再生ボタンを押す。
そして流れ出したのは、正統派で爽やかなロック調の曲だった。
「え…これお前が作った曲?」
「そう」
意外過ぎる。こんなまともな曲だとは…。歌詞もいい。
「今、意外とまともな曲って思ったろ」
「…いや、いい曲じゃん」
ぎくりとしつつ答えると、間宮はガシガシと頭をかく。
「言われ慣れてんだよこっちは。なんだよ意外とまともって。俺がまともじゃねーみてえじゃねえか」
「まあ…ちょっと破天荒な印象はあるからな」
「はあー?どこが」
自覚はないらしい。こんなにクラスで…いや、学年で浮いてるのに。
だからこそ、ミュージシャンなんて目指せるのかもしれないが…
「お前はプロ野球選手になるんだろ?」
不意に間宮が聞いてきた。
「…まあ、なれればだけど」
「嘘つけプロ入り間違いなしって言われてんだろーが!今のうちにサインくれよ、そのうち売るから」
「ねーよそんなもん」
「は〜、プロ野球選手なんて…すげえなあ」
しみじみとつぶやく間宮に、俺は気が付いた。
間宮からすると…俺も相当特殊な人間なのか。
そう気が付くと、なんだかくすぐったい気持ちになった。