2学期が始まり、文化祭が近づいてきた。
クラスの出し物も決まって、着々と準備を進める日々。今まで部活で忙しくてまともに文化祭準備に参加できなかった分、野球部を引退した3年は積極的に準備に参加していた。

「先輩のクラスはなにするの?」

休み時間、光に尋ねられた。

「焼きそば。」
「へー」
「興味なさそうだな」
「そ…そんなことないよ」

まあ、まともだが面白みのない出し物なのは認めるけど。

「光のクラスは?」
「迷路。」
「迷路?」
「教室の中に迷路みたいなアトラクションを作るんだって。」
「へー、面白そうじゃん」
「みんな文化祭遊びに行きたいから、短時間で少人数で回せる出し物にしようって」
「そりゃ…賢いな」

なんだその動機。気持ちはわかるけど。

「なあ、シフト合わせてさ、文化祭一緒に回ろうぜ。」
「うん。」

それよりも、今年は堂々と光を文化祭に誘える。ああ、付き合ってるって素晴らしい。

「楽しみだね」
「だな〜」

光の笑顔につられて浮かれた返事をしていると、視界に俺をにらみつける沢村の姿が入ってきた。

「なんだアイツデレデレしやがって!!引退した途端腑抜けすぎでは!?」
「黙れ沢村!!スイマセン御幸先輩!すぐ連れていくんで!」
「ほら、いくよ栄純君!」

大声で喚く沢村を金丸と小湊、東条が連行していき、そのあとを降谷がフラフラとついていく。

「任せたぞ〜新キャプテン」

笑いながらからかうと、金丸は疲れ切った顔で苦笑を浮かべた。

「新キャプテン?」

光が興味を示して聞いてくる。

「おう、俺は引退したから、金丸が新キャプテン。東条と小湊が副。」
「へえ〜」

夏が終わって野球部もしっかり世代交代をした。個人的に、金丸は適役だと思う。特に、あの暴走戦車のような沢村と降谷をコントロールできるのは金丸率いる東条と小湊、この3人だけだ。

「金丸君たち大変そう」
「そりゃもう…」


***


「御幸く〜ん、倉持〜、ちょっと手伝って〜」

放課後文化祭準備で居残っていると、俺と倉持が女子に呼ばれた。野球部繋がりで行動を共にすることが多かったから、引退した今でもセットで扱われることが何かと多い。

「何?」
「これ準備室に戻してきてほしいの」

大きな段ボール箱二つを指して女子が言う。確かに女子が運ぶのは大変そうだ。

「了解」
「助かる〜。ありがと!」

俺と倉持は段ボールを一つずつ持って教室を出た。言われた通り準備室に運び、適当に箱を積み上げて教室に戻る。
日が暮れて廊下はもう暗くなっているが、各教室にはまだ文化祭の準備で残っている生徒たちがいて賑やかで、廊下にもところどころ明かりがこぼれていた。

「なあ…お前卒業したらどうすんの?」

何気なく倉持に尋ねる。受験勉強をしている様子はないことは知っていた。

「プロ志望届出した」
「え…」

うすうすプロを志望するのかもしれないとは思っていたけど、まさかもう、…俺より早く提出済みだったとは驚いた。

「なんだよ、無謀だって言いてーのか?」
「いや、違うけど」
「俺にだってプロの話は来てんだ、思い上がってんじゃねーぞ」

それは聞いていた。1つの球団が話を聞きに来たと。

「まあ…お前野球しかできないしな」
「喧嘩売ってんのかテメェ」

階段を上がる足音が響く。すっかり空気の涼しい季節になった。

「お前さ…」

倉持の足取りが重く、遅くなっていくことに気づいて、どうしたのか尋ねようとしたとき、倉持が話し出した。

「卒業したら…どうすんの」
「え?」

そりゃもちろん、プロ志望…、と、分かり切ってるだろうと思いながら答えかけたところで、倉持が振り返って俺を見た。

「花城さんのこと」

俺は息をのんだ。倉持の顔が、あまりにも真剣で。

「…なんでそんなこと聞くの?別に普通に…付き合い続けるけど」
「ふーん…」
「え…何?急に」

お前に何の関係が?と伺うように倉持を見上げていると、倉持はふいっと前を向いてまた階段を上がり始めた。
なんなんだ…。

119

ALICE+