「あ〜御幸先輩だ〜!」
廊下で間宮と話していると聞き覚えのある声に呼ばれて振り返る。そこには元気いっぱいの鷹野と、その隣に少し恥ずかしそうな光がいた。
「おっ、ドーモ」
「あっ間宮先輩も〜。」
間宮がぱっと笑顔になって二人に手を振り、鷹野だけが振り返すと、気まずい笑みを浮かべて他人事を決め込んでいる光に身をかがめて近づき、しつこく手を振った。
「花城さ〜ん。どうも〜」
「ど、どうも…」
「カーッ!やっぱ可愛いな〜!」
根負けした光が小さく手を振ると、間宮は大げさに喜んで飛び跳ねた。鷹野だけが面白がってキャッキャと笑っている。
「倉持先輩が一緒じゃないの珍しいですね〜。」
笑いながら鷹野が言うと、間宮は俺を見る。
「そういやお前ら最近一緒にいないな。」
「っていうか、間宮先輩と御幸先輩が仲いいのも驚きなんですけどー。二人ともそんな話す仲でしたっけ?」
「まー最近は…席も前後だし。なっ。」
間宮が俺に同意を求めて肩を組んできた。おう、と適当に返事をして、光を見る。
…白いすべすべの肌。甘そうな鎖骨。シャツにしわの伸びる胸元の膨らみに、スカートの下にすらりと伸びる足…。
あ〜……触りたい、触りたい、触りたい…!!
「じゃ、私たち移動教室なんで行きますねぇ」
急に鷹野が切り上げて、光も俺にニコッと笑い、二人は廊下を歩いて行った。
遠ざかっていく光の姿に腹の底からモヤモヤがこみ上げる。
ハァ……飢餓状態のような気分だ。
「……なんだよ」
ふと、肩を組んだままの間宮が俺の顔を凝視して観察していることに気づき、ぎくりとした。
「いや〜お前、その目つき…」
「は?」
「“飢えてる”…って感じ……」
サアッと血の気が引き、直後に一気に頭に血が上ったのが分かった。
「なっ……、…ハァ!?」
「まさかついに…卒業したのか!?」
「……。」
何か言おうとするのに、頭が真っ白になって口がパクパク動くだけで、焦りばかりが脳内を支配する。
「ウワーッ!!嘘だろ〜〜!!嫌だー!!」
「ちょっ…、バカ、声がデカい…!!」
「もうお前とは絶交だ!!!」
通りすがりの生徒たちが目を丸くし、大丈夫か?と言ったり、クスクス笑ったりしていく。
「いいから騒ぐなよ…!!」
「あ〜〜〜もぉ〜〜〜〜最悪!!!」
「黙れって…!!」
窓辺に突っ伏して大げさにおいおい泣く間宮を鎮めていると、教室に戻ってきた倉持が冷ややかな視線をこちらに向け、教室に入っていった。また変な勘違いされたな…。
「わかるんだよ俺、覚えたての頃ってな〜、もう頭の中それだけになっちまってな〜…」
「ちょっとお前もう黙れって!」
***
放課後の文化祭準備を切り上げて、まだ校内に光も残っていることを知り、家まで送ることを申し出た。
校門で俺を待っていた光と合流し、すっかり日の暮れた道を歩き始める。
「いよいよ明日だね。」
「おう」
「先輩、後夜祭も行くの?」
「あー、多分…」
隣を歩く光の存在を必要以上に意識してしまう。なんだこれ。頭の中が「触りたい」ということばかりで溢れていって、まともに回らない。
「司ね、剣道部の出し物で演武やるんだって…、」
光が話し出したとき、俺はもう我慢できずに、光の手に触れた。光は息をのんで黙り込んだ。少し強引に指を絡めて、つなぐ。でも、それでも物足りなかった。
「……。」
「……。」
光、今、何考えてるんだろう…。
あの日のこと、話したい。どうだったか、とか…。また…したいと思ってるのかとか…。
それとも、こんなにセックスで頭の中がいっぱいなのは俺だけなのか?
「…どうしたの?」
俺が静かだからだろう、光が少し戸惑ったように笑って言った。
「…なんでもない。」
前にそう言って怒られたけど、俺はついそうごまかした。だって本音はとても言えたものじゃなかったから。
またセックスがしたい。光はどう思ってる?…だなんて。
「……。」
光も静かになって、ただただ歩いた。つないだ手にこもる熱が、すべて俺の欲情の熱だと思った。それを悟られるかもしれないと少し焦った。だけど何かを切り出す前に、俺たちは光の家の門の前についた。
「…じゃあ…。」
光はそう言って俺に向き直り、簡単にはほどけないほどしっかりとつないだ手を見つめた。
最近は…ここで、光に寄っていくか聞かれる。それか、俺が…今日親いるの?と、聞く。
でもそれをしたら、もう、セックスしようと言っているようなもので…。
「あの…。今日…親いるから…」
気が付けば、光が申し訳なさそうに俺にそう言った。その瞬間、しまったと思った。
「そ、そっか、そりゃよかった、一人じゃ危ないし…」
「……。」
とっさに取り繕ったようなことを言って、恥ずかしくなる。きっと気づかれてると思ったから。
「じゃあ…。」
しかし弁解の間もなく、光は少し強く手を引いて離し、門を開けた。
「ああ、気を付けて…」
俺は笑顔を作って手を振り、光が少し気まずさを残して微笑んで中に入るのを見送った。
「……。」
ガチャン、と門が閉じ、扉の向こうの気配がなくなり、俺は挙げたままの手をぶらりと戻す。
なんか、もっと…紳士的に接したかった…。これじゃヤリたいだけの男みたいじゃねーか…。
俺は肩を落とし、大きなため息をついて帰路に就いた。