そして迎えた文化祭初日。
「光。」
朝一番のシフトを終えて光のクラスに迎えに行くと、光は受付のところで鷹野としゃべりながら待っていた。
「いってらっしゃ〜い」
鷹野にからかうように見送られて、俺たちは校内を歩き出す。
「何か見たいとこある?」
「ん〜…」
光は生徒に配られた文化祭のパンフレットを開いた。
「なんか食べたいな…」
「じゃあ中庭行くか」
食べ物系の出店は中庭に集中している。うなずいた光と並んで歩き、周りの視線を感じた。やっぱすげー目立つな…光。
「あーっ!あれ御幸君じゃない!?」
すると人ごみの中で黄色い声が上がった。見ると、少し前方で他校の制服姿の派手なギャルグループが俺を見ていた。
「えっ誰?」
「知らないの!?今年の甲子園出てた人!イケメンって話題だったじゃん」
「え〜!確かにカッコい…、」
にわかに盛り上がったギャルたちは、俺の隣の光に気が付いてあからさまにハッとした。
「……。」
「……。」
「……。」
そして俺たちがギャルグループの横を通り過ぎるまで、彼女たちは光を凝視して悔しそうに押し黙った。
「…えっ彼女!?」
「彼女いたの…!?」
「えー今日御幸君目当てだったのに!!」
丸聞こえの会話に苦笑してちらっと光を見ると、光も俺を見上げて気まずそうに笑った。
こんな可愛い彼女じゃ何も言えないだろう。俺の自慢の彼女だぞ。
「やっぱりモテるね…。」
光はぎこちない笑みのままそうつぶやいた。自分もモテるくせに…。
「そっちこそ」
「え?」
「…こないだのサッカー部のインタビュー、見た?」
「……え?」
きょとん、と訝しむように俺を見つめる光。どうやら見てないらしい…。
「見てないならいいや…」
「えっ、何?」
「いい、いい…気にしないで」
「え〜…?」
光は気になったようだが、俺の顔を見て追及するのはやめたらしい。
そして俺たちは人ごみの中を進み、ようやく校舎を出た。
「何食う?」
「うーん…あ、ワッフルは?」
光が指さす屋台にはファンシーな字で『フワフワッフル』と書かれており、なかなか繁盛していそうな店だった。3年のクラスの出店だ。
ワッフルか…。正直好きじゃない。
「おう、じゃあ、行こう」
「いいの?」
「うん。光好きでしょ?」
うん、とうなずく光の笑顔、プライスレス。早速列に並び、立て看板のメニューを見る。どうやらワッフルに好きなトッピングができるらしい。いくつかの組み合わせのメニューと、単品で好きなトッピングをチョイスできるシステムもあるようだ。
「私は〜…メープルシナモンにする」
また甘そうなもんを……。
「おれは…トッピングなしでいいや」
「え?そうなの?」
だってそれが一番甘くなさそうだから…。
メニューを選ぶとすぐに俺たちの順番が来たらしく、前の客が退いた。
「あ…。」
対面した店員は…ノリだった。
「ははは、御幸…」
気まずそうに笑ってチラチラと光と俺を見比べるノリ。知り合い?と少し遠慮がちに俺を見上げる光。
「おう…、あ、えーと…普通のと…メープルシナモン?ひとつで…」
「は、はい。」
ぎくしゃくと注文する俺と、承るノリ。その目が「本当にワッフル食べるの…?」と驚いている。
甘いものは嫌いで普段は一切食べず、トンカツの衣も剥がして食べるほど糖質を気にしている俺が…ワッフル。どう見ても…彼女の手前、無理をしている。
「あ、じゃあ…600円です」
「あ、うん。」
「え、先輩、私の分…」
「いいから。」
「でも悪いよ」
「いや、いいからマジで」
財布を取り出す光の手を抑えて強引に600円をトレーに出す。ノリの顔が笑みを堪えるようにひきつる。男としてこのくらい奢らないのはダサいし、しかも知り合いの目の前。光に金出させるわけにいかないだろ…、でも、なんか、すげえ見栄張ってる感が恥ずかしい!
「あー、えーとちょうど…だね」
ノリは600円を箱に入れ、ちょうど後ろから焼きあがったワッフルを受け取って俺たちに差し出した。
「はい、普通のと、メープルシナモン…」
「おう、どうも…」
「ありがとうございます。」
そそくさと店の前から退散し、俺はほっと一息ついた。
「今の人知り合い?」
「ノリだよ。野球部の…前海でも会ったろ」
「えっ、あっ、そうだっけ」
なんとなく思い出したのか目を丸くして瞬く光。まあ、ノリとは話したこともないだろうしな…。
「とりあえず、どっか座って食おうぜ」
「うん」
というわけで、俺たちは中庭にあいているベンチを探してそこに座った。
「いただきます」
光はこんなところでもお行儀よくそう言って、上品にワッフルを食む。俺は甘さをこらえて3口で一気に食い終えた。小さめのワッフルで助かった。
「えっ、もう食べたの?はやっ」
「うん…」
「おなかすいてたの?他にも何か食べる?」
「いや、大丈夫…」
口の中がもさもさする。この後なんか飲みたいな…。
「おいしい」
光はワッフルが気に入ったようで、愛くるしい笑顔で食べている。
あー、なんでこんなにかわいいんだこいつ。
「よかったな」
つられて口元が緩んで言うと、光は俺を見上げて輝く笑顔で、フフッと笑った。