光がワッフルを食べている間、目の前の雑踏を眺めて、隣の光に視線を移す。
赤い唇…。ワッフルをほおばって膨らむ頬が愛らしい。少し赤い耳元、滑らかな首筋、華奢な肩、細い二の腕、くびれた腰、スカート、そしてそこから延びるすらりとした足。
どこを見てもドキドキして、さっき無理して食ったワッフルのせいで胸焼け気味なほど腹はいっぱいなのに、空腹感に似た物足りなさがわいてくる。
この原因はわかってる。というか、頭から離れがたく、振り払うこともできず、ずっと俺の脳を支配してる。
…光とセックスしたい…。
「ごちそうさまでした。」
光がワッフルの最後の一口を食べ終え、包み紙を丁寧にたたむ。そんな品のいいところも、この間のあの姿との乖離がなんかどうしようもなくいやらしく思えて、俺は本能的に手を伸ばした。
光の髪に触れ、ハッとしたときにはもう遅く、俺の手は光の腰にのびそうだったところを、とっさにひっこめた。
我に返ると途端に周りの喧騒が耳に入ってくる。
…ここ、学校だった。
「な…なに?急に…。」
光は恥ずかしそうにそう言って肩を丸めた。
「ごめん…つい」
俺がそういうと、光は照れたように笑う。
ああ…、もう…。今すぐにでもふたりで、人のいない場所に行きたい…!
「おっ!御幸じゃねぇか」
突然名前を呼ばれて現実に引き戻される。顔を上げると、そこには懐かしい面々がいた。
「純さん!」
そこには青道OBの、純さん、哲さん、亮さん、クリス先輩、益子さんがいた。
「お揃いで…。」
「テメーはデート中かぁ〜?オイ」
純さんがニヤニヤからかってくるのを、亮さんたちも一緒になって面白がるように笑ったが、哲さんだけがその笑みに影を感じ、俺は少し気まずい思いをした。
「あぁ、はい…」
そしてそのまま深く考えずに苦笑いでうなずくと、純さんたちの顔がビシッとひきつって固まった。
「……えっ?」
「な……。」
「ウガ……」
みんなの顔が驚きに染まり、顔を見合わせて俺と光を何度も見比べる。
あ…、そうだ、この人たち…
「付き合い始めたのか?おめでとう。」
固まった空気の緊張を破ったのは哲さんの言葉だった。
…そうだった、俺が光に告白したのはこの人たちが卒業した後だし…知らなかったのか。
「あ…ハイ…」
「アアアァァ!!?テメェいつの間に!?」
「春市から何も聞いてないなあ…何か面白いことあったら報告しろって言ったのに」
「面白いって…」
この人たち、相変わらずだ。この感じ、懐かしい。
「じゃあ、邪魔しちゃ悪いから行くよ」
「御幸ィテメェ調子乗んなよ!」
「それじゃあな。」
だけどこの人たちも少し大人になったのだろうか。少し騒いだらすぐにそう言って切り上げようとした。
「花城も…元気でな。」
哲さんは最後に、光を見つめてそう言った。
光は微笑んでお辞儀をする。先輩たちの姿が雑踏に消え、俺たちは顔を見合わせた。
「…俺らもどっか行くか?」
「うん。」
俺たちはベンチから離れ、パンフレットを見ながら校内を回ることにした。
「あっ、ねえ、お化け屋敷あるよ」
「あぁ…入る?」
はしゃぐ光はかわいくて、なんでも付き合ってやりたくなる。すれ違う人たちもみんな光を振り返る。なんだかもう、光を隠したくなる。誰の目にも触れないように。
「あっ」
光が何かに気づいたように立ち止まった。前方から見知った人物…倉持が歩いてきたからだった。隣には中田がいる。光は俺と倉持が何か会話をするだろうと思っている様子で俺を見上げた。近づいてくる倉持はすでに俺に気づいていて、表情を暗くしたのが分かった。
背中の傷を指摘されてから…まともにしゃべっていないから気まずい。
傷の原因にもたぶん、気づいてるし…。
「……よぉ」
気まずさのあまり、すれ違いざま、光の手前無視もできずに俺は低く声をかけた。我ながら不自然だった。
「……。」
倉持は無視こそしなかったが、何か言いたげな目で俺を睨み、小さく頷くだけに留めた。まだ腹の中に溜めかねている鬱憤があるような様子だった。
光はそんな俺と倉持を見て不思議そうな顔をした。中田も俺と倉持の顔を見比べて、異変に気付いたような緊張した顔になった。
倉持はそのまま歩いていき、中田も静かについていった。二人が遠ざかると、光は俺を見上げた。
「…何かあったの?」
まあ…そうなるよな。
「別に何もないよ。あいつたまに機嫌悪いときあるから」
「ふーん…?」
あまり納得していない様子で相槌を打つ光。たぶん、何かあったと思われただろうな…。
そう思ったけど、俺はなんでもない顔をして、平静を装った。