「ひっかっりっちゃ〜〜〜ん!!!」
文化祭初日も半分が過ぎたころ。
光と二人で校内を歩いていたところ、やかましい声が響き渡って嫌な予感がした。
「ちょ〜〜〜〜〜久しぶり!!!俺だよ覚えてるよね!?」
「鳴…。」
やっぱり…。この声は成宮だと思った。
後ろにはカルロスや白河たちもいる。
「光ちゃんちょっと見ない間に大人っぽくなったね!ますます俺の好み…」
「おい、近い」
鳴が光に駆け寄ってきたので光の手を引っ張り後ろにかばうと、鳴は不満そうに俺をにらんだ。
「なんだよ邪魔すんなよ一也!」
「いやいや、俺、彼氏。」
「だから何!?」
「邪魔すんなはこっちのセリフ。」
はあ!?うざ!!と子供のようにわめく鳴の後ろで、カルロスたちは踵を返す。
「鳴〜行くぞ」
「もうほっといて行こうよ」
「腹減ったな〜」
「おい!!何勝手にどっか行ってんの!?」
嵐のように去っていく稲実生たち。なんだかどっと疲れた。
「ったくアイツは…。」
あきれて愚痴をこぼすと、光は可笑しそうに笑う。その動作にさえ目を奪われてしまう。さっき鳴が、「大人っぽくなった」と言ったときも、なんかドキッとした。
だって俺と……あんなことしたし…。あの経験の後からがらりと世界が変わって見えるようになった気がしている俺には、あの日から光も少し変わったように思えた。俺への視線とか、反応とか…。
見えないつながりのような…誰にも言えない秘密を共有した特別な感じ。
俺を見上げてほほ笑むこの目も、もう、単純に可愛いというだけの気持ちじゃ見られなくなってしまった。
「どこ行こうか?」
パンフレットを広げる光に、俺は微笑みを作る。
「お、これとか面白そうじゃん」
「ん?あ…ほんとだ。行ってみる?」
笑顔の光と連れ立って歩く。もうそれだけで幸せで足元がふわふわする。学校内でこんなに光と寄り添って歩くこと、そうそうないし。周りの青道の生徒たちや、他校から遊びに来た生徒たちが、驚きと羨望の混じった目で見てくるのもたまらない。
「ねえ御幸先輩、あそこのさ…」
「一也。」
「え?」
「一也って呼んで。」
ちょっとからかいたくなって光に言うと、とたんに顔を赤くした。
「な…何、急に?」
「前から言ってんじゃん。」
「いいじゃんもう呼び慣れてるの!」
「だめです」
「なんで今?」
「この間も言ったじゃん」
「この間…?」
一瞬眉をひそめた光が、ハッとしてますます顔を赤くした。
この間…というのは、あの、初めてのセックスを叶えた時のことだ。
「ちょ…!ねぇ…!」
「何赤くなってんの?プクク…」
「もう、何!?いきなり!」
恥ずかしさのあまりプンプン怒り出した、そんな光も可愛くて仕方がない。
「いいじゃん今日くらい。文化祭だぜぇー?」
「気が向いたらね!」
「つめてぇ〜」
「あの…花城さん?」
また誰かに呼び止められ、俺たちは立ち止まって振り返った。
「あ…やっぱり。ども…。…お前も、元気?」
ぎこちなく赤らめた笑みを浮かべてそこにいたのは真田だった。
「おぉ…久しぶり」
「うん」
俺が挨拶を返すと真田はうなずいたが、視線は光にくぎ付けだ。その証拠に、光がこんにちはと会釈すると、嬉しそうに口角を緩めた。
「お前今日一人?」
「いや、野球部の奴らと来たんだけど…」
真田の周りには他に誰もいない様子だったので尋ねると、真田はそう答えて光を見つめた。
「ちょっと俺は…花城さんのことさがしたくて」
「え?」
「皆付き合わせるのもワリィし…」
へへへ、と照れ笑いをしているところ悪いが、なぜ彼氏の俺の前でそうも堂々とそんなことが言えるのか。
「何?探すってなんで?」
「あ〜、いやちょっと…」
真田は頭を掻いてそわそわと光を見て、俺の前じゃ言いづらそうだったが意を決したように口を開いた。
「えっと…これ。」
真田は小さな紙きれを光に渡した。
「俺の連絡先なんだけど…」
「おい。」
「いやわかってる。すまん。今だけ見逃して。」
「はあ…?」
「花城さん、俺いま、都内の大学目指してるんス。社会人になっても野球できたらと思って…」
はあ、と頷いて真田の話に耳を傾ける光。
「で…、ですね…」
「…?」
「…コイツと別れたらいつでも連絡してください。」
「おい。」
コイツ、のところで親指で俺を指さす真田。さすがに聞き捨てならなくて肩をつかんで咎める。光も苦笑を浮かべて俺と真田を見上げた。
「光、そんなゴミ捨てろ。」
「待って待って!頼む、いいじゃんか俺は花城さんの連絡先知らないままなんだし!希望くらい持たせてくれよ!」
なっ、お願い!と手を合わせて懇願する真田を前に、光は苦笑いで頷き、紙をポケットにしまった。
「ありがとう花城さん。じゃ、何年でも待ってるから!」
「お前なぁ…」
ため息をつきながら真田を睨むと、真田は謝るように顔の前で手を立て、もう退散するから勘弁して、という様子で去って行った。ったく、どいつもこいつも…。
「大丈夫だよ、連絡なんてしないから。」
だけど、俺の脇腹をつんつんとさしてからかうように微笑む光を見ると、この可愛さじゃこんなのモテるのもしょうがないよな…という気持ちになってしまうのだった。