「今日御幸先輩に誘われたんじゃないの?よかったの?」
放課後、光と駅前の喫茶店でお茶を飲みながら向かい合う。申し訳程度の英語の単語帳を開いて、形ばかりのテスト勉強をして。周りの席にも、私たちと似たような緩いテスト勉強中の高校生が多数いた。
「いいの。」
光は頷いてアイスティーのストローを咥える。氷がカランと揺れた。
「もうすぐ卒業しちゃうのにー?デートしまくるなら今のうちだよ!」
「先輩忙しそうだし。」
「でも今日都合聞かれたんでしょ?誘おうと思ってたんじゃない?私はいつも暇だしいつでも遊べるんだからさあ…」
彼氏を優先しなよ、と言う私に、光は困ったように笑った。
「だってあの後からまだ光の家来てないんでしょぉ!?」
「……。」
そして急に興奮気味に声を上げた私を、光は冷ややかな目で見つめた。
夏休みが終わった後…光が、ついに御幸先輩とそういうことをしたということを聞いて、私は大興奮だった。まあ、それ以上のことは光が恥ずかしがって何にも聞けてないんだけど…。
「御幸先輩絶対期待してたでしょ〜!今日〜!」
「…でも行きたいとか言われなかったし」
「そりゃ言えないでしょぉ〜!光から家に誘えばよかったのに〜!」
「そ…そんなこと言えるわけないじゃん」
「なんで???」
光は顔を赤くして唇を小さく開く。
「だって、そんな…、…さ、誘ってるみたいじゃん」
「何言ってんの誘いなよ!!」
「無理だって!」
一度最後までできた二人でも、そこに至る壁は厚いらしい。お互い下心あるのにすれ違ってるなんてほんと面白いカップルだな…。
「え〜、てか光的にはさあ〜、どうなの?実際。」
「…なにが?」
「御幸先輩!上手だった?」
「な…、」
一気にトマトみたいに真っ赤になる光がかわいい。
「し、知らないよそんなこと!」
「え〜マキは初めてやったら痛すぎて彼氏もキモすぎてもう二度としたくない!って感じだったらしいよぉ〜」
「……。」
「やっぱ痛いの?二度と無理ってくらい?」
光は口を開けたり閉じたりしながらしばらく考えて、おずおずと口に出した。
「まあ、痛…かったけど……。」
「え〜やっぱそうなんだ!血出た!?」
「でっ…、出たけど」
「うえぇ〜!!あたし無理かも〜!じゃあもうしたくなくなっちゃうのもしょうがないよねぇ」
「…で、でも」
「ん?」
光は真っ赤な顔で絞り出すような声で言う。
「ちょっとだけ……よかった」
「…へ!?」
「……。」
プシュ〜、と音を立ててしぼんでいきそうなほど赤くなった光はぐだぐだと項垂れた。
「よ、よかったって具体的には!?」
「え〜〜…」
「えっ、なに、あの人上手ってこと!?」
「そ、それはわかんないけど!」
「え〜何がよかったの〜!?」
「な、なんか…。優しかったし…。」
その…、と口元に手を当てて真っ赤な顔を隠す光。
「…可愛かった…。」
「…へぇ!?」
あの御幸先輩が…かわいい!?
「へええぇ〜〜〜…」
「な…何…。」
「ううん〜。えへへ」
普段クールな光の、御幸先輩への溺愛っぷりというレアな瞬間を垣間見たような気がして、私は嬉しいようなくすぐったいような気持ちになった。