やっとテスト最終日。
俺は逸る気持ちを抑え、光の教室へ向かう。
「光。」
教室のドアから声をかけると、帰宅準備を済ませていた光がこっちを向いて微笑み、鷹野に手を振ってこちらに駆け寄ってくる。
はにかむ光の笑顔の前に俺はにやける顔をなんとか抑えながら、一緒に昇降口へと向かった。
テスト前の期間やテスト中は、勉強に集中したいと言われやんわりと断られ続けていた…が、今日、やっと、テストからも解放されるということで、昨晩メールをして放課後一緒に遊ぼうという約束を取り付けた。
「どこ行くの?」
「あ〜、うん…」
…まあ、光の家に、とまでは言えてないんだけど…。
「とりあえず…なんか食おうぜ」
「うん。」
そういうことになって、俺たちは駅前のマックに来た。ポテトを食べる光を見つめながら、何とか誘えないものかと頭をフル回転させる。…そして、こんなことを必死に考えている自分がアホみたいだと思う。
「先輩、テストどうだった?」
「ん?ああ、まあまあかな…」
「ふーん…」
なんとなく光の話題も興味が薄い。光自身、何か考え事でもしてるみたいだった。
――コン、コン。
突然、俺たちの席の前の、ガラス張りの壁が叩かれた。驚いて顔を向けると、映画タイタニックに出てくるあの美青年とどこか似た風貌の美少年がそこにいた。
「えっ!?光臣!?」
光が飛び上がりそうなくらい驚いて声を上げた。同時に思い出す。確かこいつ、去年の文化祭に来てた…。
美少年は光を見つめると、くるっと踵を返して店内に入ってきた。
「ごめん先輩、あれ、従弟…」
光がそう言ったとき、その従弟は俺たちの席までやって来ていた。
「ちょうどよかった。今家に行くところだったんだ」
美少年は俺を無視して光に話しかけた。
「え?あ、うん。あ…光臣、あの…彼氏。」
「どうも…」
光が恥ずかしそうに紹介してくれたので、俺もぺこりと頭を下げた。
「あぁ、そう。どうでもいいけど」
…しかしそいつは愛想のかけらもない目で俺をちらりと見て、そう言い捨てた。
「はあ!?ちょっ…失礼でしょ!」
「ハッハッハ…いやいや、いいよいいよ…」
怒り出す光をなだめ、なんて面白いやつなんだと感動を覚えた。外見も相まって映画のワンシーンのような状況だと思った。
「…それより、今日おじさんたちいる?」
「えぇ?…いないけど?」
意にも介さず話を続ける光臣に、光は不機嫌そうに答え、思いがけず今日光の親がいないことを知って内心喜ぶ俺。
「じゃあこれ渡しといて。うちの親から」
光臣はスクールバッグから白い封筒を取り出し、光に差し出した。
「…わかった」
「急ぎらしいから今日中に」
「…はぁい」
ふん、と光に睨まれるのも気にしていない様子で、バッグの肩紐をなおす光臣。
「じゃあ。」
もう用は済んだらしい。光臣は店を出て行った。
「も〜…ごめんね先輩」
「全然いいって。面白い従弟だな。同級生?」
「うん。」
「あの制服って白栄だろ?」
「うん。光臣は幼稚舎からずっと白栄なの」
つまりすげーお坊ちゃんってことか…。
「…光はなんで青道きたの?」
あの家を見る限り、光の家だってかなりの大金持ち。光自身も優等生で成績も優秀だし、従弟が白栄なら光も白栄に行っていてもおかしくないと思った。ただその場合、きっと俺は出逢えもしなかったであろう…。
「うーん、…幼稚舎は白栄に行ってたんだけど。小学校に上がるときにお母さんにどうしたいか聞かれて、地元の小学校に行きたいって答えたんだよね」
「へー、何で?」
「まあ、ちょっと…」
突然顔を赤くして口籠る光。何か後ろめたいことでもありそうな。
「なんだよ?」
「な、なんでもない。なんとなくだよ。」
「嘘つけ。言ってよ」
「いや、えっと、友達とかもいたし」
光の言葉が取り繕ったようにしか聞こえず、俺は少し考えて、ピンときた。
「もしかしてさあ…哲さんがいたから?」
「え…、ち、ちがうよ!」
光は慌てた様子で否定してきた。が、顔がどんどん赤くなっていく。
「絶対そうじゃん…」
「ち、違うって言ってるじゃん!」
「バレバレだっつうの…」
「もう!なに!?」
逆ギレかよ。というか、そんな必死になるって、やっぱり…
「…やっぱお前哲さんのこと好きだったんじゃねーの…?」
「え…!?ち、ちが…」
光は言いかけて、項垂れる俺を見て気が咎めたように、ちょっと言い籠りながら…
「こ…子供の頃だけだよ!」
と…白状した。
「やっぱり〜〜!!最初からなんかおかしいと思ってた〜〜〜!!!」
「ちょ…、も、もう違うから!もうやめてって…!」
「どうせ俺なんて…俺なんて…」
「ちょっと、先輩!も〜…!」
慌てる光が可愛くて面白くて、俺は大袈裟に泣き真似をしてからかってしまった。まあ、実際ほんとにちょっとショックは受けたけど…。
「い…今は先輩が、す、すき…だから!」
照れながら俺をそうフォローする光の可愛さったら。
「え?なんだって?よく聞こえないナァ」
「…はあ!?」
「もう一回言って。」
俺は耳に手を当てて傾ける仕草をする。
「……もう!だから、今は先輩が好きだって…」
「先輩って、誰?」
「…み…御幸先輩」
「ちがうだろ〜」
「…は?」
「か・ず・や♡」
「……。」
光は顔を赤くして俺を睨んだ。
「今後一也って呼ぶなら許す!」
「……………一也先輩」
「声が小さいぞ〜」
「…一也先輩!」
これでいいでしょ!と、赤い顔を隠してそっぽを向く光。
「…うひひ♡」
「何?うざいなぁ」
「はっはっは!カーワイ〜」
「も〜…」
光がナプキンで口元を拭う。
俺はトレーの上を見た。もうすぐ食べ終わる。
このあと…なんて切り出すか…
「この後どうする?」
今まさに口に出そうと決意した言葉が、それよりも早く耳に届いた。顔を上げると、光が俺をまっすぐに見つめながらポテトを口に運んだ。
なんて純粋無垢な瞳。俺の邪な心なんて見えていなさそうな…。
「ああ…うん」
俺は頷きながら考える。
どうしよ。ここから遊ぶなら、カラオケとか…ゲーセンとか…だけど、そのルートへ行くと今日もセックスは難しくなってしまう…!
最初の一回以降、もうどれだけ経ってる?時間が経てば経つほど、またそーいう流れに持ち込むのが難しくなるような…。
そろそろペースを作っておきたい。そーいうことをするのも自然な段階へ行きたい…。
と…いうことは、今日このあたりで切り出しといたほうが…いいよな。
「…俺は……一緒に過ごし…過ごせれば…な〜と…思ってるけど…」
「…ん?うん。だから、どこいく?」
勇気を振り絞ったのだが、光は無垢な顔で目を瞬いて次のポテトに手を伸ばした。
…全然伝わってない!!
「…だから〜、その…一緒にさ、ふ、ふたりで…」
「……なに?」
「……。」
な…なんで全然伝わらねぇんだ!?どんどん顔が熱くなっていく…。あの日の…アレは俺の見た夢だったとでもいうのか…!?
「……光の家行っていい?」
もう、思い切って、一息に伝えた。
光の顔がポカンとなって、じわじわと赤くなっていく。俺の顔はもっと赤い…。
「…う……うん」
唇を結んで、光が頷いた。
よ……
よっしゃあ……!!
でも…もっと早く勇気出せばよかった…!!
「…ありがとう」
「……。」
光は赤い顔で、もうほとんど氷しかないアイスティーのカップに刺さったストローをぐるぐるとかき混ぜた。動揺が伝わってくる。というか、俺も動揺している。
「じゃ…行く?」
もうトレーの上は空だ。俺が切り出すと、光は目を泳がせながら、うん…、と頷いた。