哲さんと花城が話している。
哲さんの花城を見る穏やかな目。俯いてまともに哲さんを見れない様子の花城の赤らんだ横顔。
…なんで俺、なんか寂しくなってんだ?
「花城は本当に、大人っぽくなったな。」
「そうですか…?」
「ああ。前はこんなに小さかったのに」
哲さんは腰のあたりに手で示して言った。花城ははにかみ笑いをして首を横に振る。
「そんなに小さくないです」
「そうか。」
「先輩は相変わらずですね」
「そうか?背は伸びたんだが。」
「そ、そういう意味じゃ…」
哲さん…やっぱ天然だ。
小さく噴き出すと、二人とも俺の存在に気が付いて振り返った。花城の顔がふにゃりとゆがむ。
「おお、御幸。」
「…お疲れ様です。」
哲さんに頭を下げ、ちらりと花城を見る。むっとした顔で俺を見上げるその顔も、にやけるほど可愛い。
「なんですか、ニヤニヤして…」
「いや、なんでも。」
「……。」
哲さんと話していたのをからかわれているとでも思ったのか、花城は不機嫌そうにそっぽを向いた。
「お前たち、仲がいいんだな。」
俺たちを交互に見て、哲さんが不思議そうに、だけどどこか嬉しそうな顔でそう言った。
思わず花城の顔を見ると、予想通りの嫌そうな顔をしていて、俺はついつい噴き出す。
「違います!良くないです。」
「そうなのか?」
「照れてるんですよ。」
「違うから!」
ムキになる花城と笑う俺を見て、哲さんはどこか優しいほほえみを浮かべる。
「そういうところは、昔と変わってないな。」
哲さんは小さな子供にでも言うような優しい声色で言った。途端に花城は、ショック受けたような顔をした。
「む…そろそろ教室に戻らないとな。」
じゃあ、と哲さんは踵を返し、階段を上がっていってしまう。
取り残された花城の顔を覗き込むと、あからさまに落ち込んでいた。
「おーい。大丈夫か?」
「な…、なにがですか。」
花城は取り繕ったような強気の態度で俺をにらんだ。
「哲さんにガキ扱いされたからって、そんな気にするなよ。」
「は!?別に、そんなこと…」
言いながら、花城の目に、じわりと涙がにじんだ。
「え…、え〜…、ちょ、おい、待って待って」
じわじわ、涙がどんどんにじんで、花城はこらえるようにそっぽを向き、天井を見る。
「えええ…俺が泣かしたみたいじゃん…」
「違うから!…泣いてないし!」
花城は涙を指先で払い、ふうと息を吐いた。
「…哲さんのどこがそんなに好きなの?」
そりゃ…哲さんは男もあこがれる、尊敬できる人だし…花城はそんな哲さんと、幼馴染だし…。好きになったって、何の不思議もないけど。
「だから…そういうのじゃないってば…」
花城はつぶやき、また涙をぬぐった。涙は何とか止まったようだ。
「んな顔で言っても説得力ないって。」
「……うるさい。」
***
「最近花城さんとはどうなの?」
「……。」
夜の食堂で絡んでくる亮さん。にわかに注目を浴びて食事がのどを通らない。
「どうって別に、何も関係ないんで…」
「え?だって御幸って花城さんのこと好きなんでしょ?」
「なんでそうなるんですか」
「名前聞いてたし。学校でもよく絡んでるって倉持からタレコミがあったけど?」
「……。」
倉持をにらむと同時に視線をそらされた。アイツ亮さんに余計なこと言いやがって。
「御幸が花城を?」
ふいに、ポツリと低い声が響いた。振り向くと哲さんがまじまじと俺の顔を見つめていた。
「そうなのか…気づかなかった。」
「…え、いや、違いますからね?ホントに」
「確かに仲がよさそうだったな。」
「いやいやいや!」
っていうか…花城が好きなのはアンタだよ!この鈍感が…。
「ええ!?御幸が花城に片思いぃーー!!?」
「……。」
話が波及していって1年のほうにも伝わったらしい。向こうのほうで沢村が騒ぎ、けたたましい音を立てて椅子を跳ねのけ立ち上がった。
「地方予選のこの大事な時期に女にうつつを抜かしているのかああ!そんな暇があるなら俺の球を受けろ!!」
「うるっせえな…」
「あれー!?いいのかなー!!そんな態度とっていいのかなー!!花城に言っちゃおうかなー!!」
「馬鹿な事しでかしたら一生球受けねえぞ。」
「な…なに!?卑怯な…!!」
「オメーがな。」