「まさか御幸先輩が花城さんを好きとはなー…。」
朝練を終えて登校する道すがら。一緒に歩いていた信二がムズムズした様子で切り出した。言いたくて仕方なかったって顔だ。だけどその気持ちもわかる。だって、御幸先輩といえばこの学校で一番有名といってもいい、プロも注目している選手であり、しかもあのイケメン。女子人気がすさまじく、よく練習中に黄色い声援が飛んできたりするのだ。そんなモテモテな人が、片思い…。でもその相手が花城だというなら、それも納得だけど…
「うん…びっくりしたよね」
「やっぱり美人だしなー花城さん…」
「あ、信二もそう思ってるんだ?」
「は!?ちょ、おい…変な言い方すんな!誰だって思うだろーが!」
「あはは、ごめん。」
そうだよ。誰だって。
花城を見てドキドキするのは、いたって普通のことだ。
***
「あ、東条。おはよう」
「あ…おはよう!」
教室につくと、挨拶をくれる花城にドキリとする。クラスの男子たちが羨ましそうな視線を向けてくる。
「今日日直だよ。よろしくね。」
「あ…そっか!」
日誌と書かれた青いファイルを見せながら言った花城の言葉でとっさに黒板を見た。日直欄には俺と、花城の名字が書かれている。
「日誌取りに行ってくれたんだ、ありがとなー」
「ううん。」
花城は微笑んで日誌を机にしまった。
そうか、今日は、花城との日直の日か。隣同士で日直が回ってくるシステムだと知った日から、この日が来るのはわかっていたけど…最近はすっかり忘れてた。なんだか急に気分が浮かれてきた。
「2限の授業でプロジェクターを使うから、その前の休み時間に日直で取りに来てほしいんだって。」
「ああ、了解!」
何でもないことのようにうなずいて、胸の中ではうきうきした。今日は花城と一緒に行動することが多くなる。日直がこんなに嬉しいなんて生まれて初めてのことだ。
「プロジェクターってどこにあるんだ?」
「視聴覚室の…」
「花城〜〜〜〜〜〜っ!!!」
突如廊下から響いてくる大声、そしてあわただしい足音。驚いて目を丸くした花城が振り向くと同時に、教室の入り口に沢村が現れた。
「花城さん!花城光さんはいらっしゃいますか!!」
「な…なに?」
「あっ!!花城!!」
戸惑う花城の姿を見つけた沢村は笑顔になって教室に飛び込んできた。そして花城の前までやってくると、その華奢な両肩を大きな手でつかんだ。
「頼む!付き合ってくれ!!!」
「……え?」
教室が静まり返った。ここから見える花城のうしろすがたの、ちらりと見える耳が真っ赤になっていく。
「…ど、どういう意味?」
静まり返った教室に花城の困惑した声が小さく響いた。誰もが事の成り行きを見守る中、沢村だけは何にも気づいていない様子で続けた。
「どうしても今日御幸先輩に球受けてほしいんだ!!これから頼みに行くから花城も一緒に来てくれ!!」
「は、はあ?意味わからないんだけど…」
なんだそういうことか…。俺はつい溜息を吐いた。
花城は困惑気味に笑い、固唾をのんで見守っていたクラスメイト達も一斉に脱力した。
「なんで私が一緒に行くの?」
「そりゃー御幸先輩が花城の…」
「ちょ、ちょっと沢村!」
沢村があまりにも普通にとんでもないことを言おうとしていることを察知して俺がとっさに口を挟むと、沢村は一瞬目を丸くした後で「まずい」という顔になって口を噤んだ。
「え、何?私の…何なの?」
当然花城は訝しんだ顔で俺と沢村の顔を見比べる。
だけど言えるわけがない。御幸先輩が花城のこと好きだから…だなんて。御幸先輩に怒られる…どころじゃなさそう。あの人が怒ってるとこ見たことないけど、なんか、起こったらすごく怖そう…と思う。
「な、なんでもねえよ!突然悪かったな!じゃ…」
「さ、沢村!」
に、逃げた。とんでもない爆弾を残して逃げた。
「ねえ、何なの?東条」
「い、いや…何でもないよ本当に」
「嘘!あの人私のこと何か言ってるの?」
「い、言ってないよ何も。」
誰か…助けてくれ〜…!