「御幸!おめでとう!」
「すげえな、ドラフト3位って!」
「うちのクラスからプロ野球選手が出るなんて!!」
「サインくれよサイン!!」

ドラフト会議が放送された翌日学校に行くと、俺はクラスメイトにどっと囲まれた。覚悟はしていたが…ここまでとは。3年間ぼっちだったのに。

「1位と2位の稲実の人って仲良いの!?」
「もうプロの選手にも会った!?」
「いつから試合出るの!?」

群がってくるクラスメイトにそれとなく対応をしながらなんとか教室に入る俺の後ろを、強引に押しのけるようにして倉持が通り、ズカズカと自分の席へ向かう背中が見えた。

…倉持は指名はなく、育成選手として都内の球団が拾った。帰りのタクシーでも倉持は無言で、寮に帰ってからも…一言も話していない。

「わりぃ、ちょっと、通して…」

俺はクラスメイトから逃れてやっと自分の席に辿り着いた。

「よぉ〜御幸、マジでプロ野球選手になっちまうなんてすっげーな。」

前の席の間宮が振り向いてニヤニヤと俺を見上げ、俺は苦笑を返す。

「大変なのはこれからだけどな」
「あぁ!?そこまでたどり着けねー奴のが大半なんだよ!素直に褒められとけやコラ」
「はっはっは…どーも」
「花城さんの彼氏として、ちょっとは認めてやるわ」
「なんだそれ」

俺は笑いながら、光の顔を思い浮かべた。
俺は色んな意味で安堵していた。ドラフト指名されたこともそうだけど…都内の球団に決まったからだ。選手寮もここからそう遠くはない。遠距離恋愛になることは避けられた。最高の結果だ。
…その球団は、倉持と同じなのだが。

「花城さんなんか言ってた?」
「いや…まだ話してない」
「馬鹿野郎最初に話せよ彼女だろ!?」
「今日…話すけど」

多分もう、光も結果を知ってる…はずだけど。
喜んでくれるかな…。



***



「光いる?」

光のクラスに顔を出すと、いつもちょっと注目は浴びていたとはいえ、今日はその日ではなかった。もう噂が広まっているらしい。俺に注目する2年の生徒たちの好奇に満ちた目が痛い。

「御幸せんぱ〜い!!昨日テレビ見たよ〜!!」

やかましい悲鳴のような声をあげて俺に駆け寄ってきたのは光ではなく…教室にいたギャルたちだった。

「プロ野球選手になるんでしょ!?」
「すご〜い!!」
「先輩握手してくださ〜い!」
「ちょ…それより光は…」

「ミカ〜!やめな!」

よく通る声が響き渡って、ギャルたちがぴたりと黙った。教室の中で仁王立ちをした鷹野がこっちを睨んでいた。

「光の彼氏だよ!ベタベタしないで」
「なに〜司、マジになっちゃって…」
「御幸先輩も嫌がってるから!その人光一筋なんだから!」
「はあ…?」
「ですよね〜御幸先輩!!?」

鷹野がすごい形相で俺に凄んできた。

「お、おう…」
「あと光は今職員室に呼ばれてるんでぇ、そっちの方に行けば会えますよ!」
「わ、わかった…サンキュ」

俺は頷いてそそくさと退散した。鷹野、色々とすげえなアイツ。ちょっと尊敬した。

ともかく鷹野に教わったとおり、俺は職員室を目指した。階段を降りればすぐそこだ。
廊下の角を曲がって、職員室のドアが見える。

「よろしく、周防くん。」
「よろしく」

そこには真面目そうな男と向き合って微笑む光がいて、俺は足を止めた。

「…あ」

しかし上靴がリノリウムの床に擦れて音が鳴り、光が振り向いて目を丸くする。それからぱっと笑顔になった。

「ごめん周防くん、また。」
「…うん」

周防、と呼ばれた男は俺をチラッと見て、踵を返して去っていく。光は笑顔で俺に駆け寄ってきた。

「おめでとう!」

光は眩しい笑顔で言って、俺を見上げた。

「うん…ありがとう」
「東京の球団でしょ?」
「ああ。」
「よかった…。」

光はそう呟いてから、はっと申し訳なさそうに俺を見上げ、だけどだんだんと目を潤ませた。

「ごめん、私、先輩が…遠くにいっちゃったらって…」
「…うん」
「ずっと…思ってたから……。」

光の目がどんどんうるうるしてきて、その雫がこぼれ落ちそうになった。こんなに俺のこと、想ってくれてたんだ…。

「俺も…近くにいられて嬉しい」
「…うん」
「休みの日とか、会いに来るから」
「うん…」

光は目元を拭って俺を見上げ、微笑んだ。俺も口元が緩み、胸が暖かくなるのを感じた。

よかった…本当に。
これでこれからも光と一緒にいられる。光と会える。
そして、光が高校を卒業したら、その時は…。

「…俺頑張るわ。」
「え…?うん、頑張ってね。」

多分あんまり、意味は伝わってないけど。
1年で結果出して、光に…

光に堂々と、一緒にいようって言えるように…。


「…で、さっきのやつ、誰?」
「え?」

俺は俄かに我に帰って光に尋ねる。光はキョトンとしたあと、ああ、と口を開いた。

「周防くんっていう…B組の人で、さっき一緒に先生に呼び出されてたとこ」
「…なんで?」
「えっと…今期からの生徒会…入ってくれって」
「え!?」

そっか…光は優等生で成績も優秀。さっきのやつも知的な雰囲気だったし。
そーいうのって、優秀な生徒は、教師からスカウトされるもんなのか…
まあ…それならよろしくとか言ってた理由がわかった。

「へえ〜…すごいな」
「そんなことないよ。」
「いやいや、すごいって」
「先輩ほどじゃないよ。」
「…それとこれとは別物だろ」

俺が苦笑すると、光はおかしそうに笑った。



***



「御幸先輩おめでと〜〜!!」

夕食時。
寮の食堂に入るなり、パンパンパン!!!と、爆発音と焦げ臭い匂いに包まれる。

「それではこの御幸一也ドラフト3位・プロ野球球団入団決定を祝す会〜〜!!司会はこの私、一番の相棒沢村栄純が務めさせていただきやす!!!!!」
「一番は僕でしょ」
「降谷は座ってろ!!さあさあ御幸先輩こちらへ!!」

やかましい沢村が鳴らした焦げ臭いクラッカーをマイクのように握りしめて俺を誘導する。周りの奴らも拍手で俺を取り囲む。どうやらみんなでお祝いの準備をしてくれてたらしい。こういうの苦手なんだが…。
俺はもみくちゃにされながら席に座らせられ、「本日の主役」と書かれたペラペラの襷を強引に肩にかけられた。

「ハイッ!!本日の主役にはお祝いのケーキがありやすよ〜!!」
「俺甘いもん嫌いなんだけど」
「あっ!倉持先輩!!」

と、そこへ食堂に入ってきた倉持に反応し、沢村は俺を放置して倉持に駆け寄った。

「育成選手おめでとうございやす!!!」
「喧嘩売ってんのか」
「とんでもない!!ちゃんと倉持先輩のも用意してますよ!!」

沢村はそう言って、俺にかけたのと同じ襷をもう一つ取り出して倉持にかけた。

「なんだこれ邪魔…」
「倉持先輩にもお祝いのケーキがありますんで!!仲良く喜びを噛み締めて食ってくだせえ!!」
「とりあえずお前うるせえから黙れ」

「あはは、ほら、倉持もここ座って」

ナベちゃんが宥めるように笑って俺の隣の席にケーキを置き、倉持を手招きした。
倉持とバチリと目が合う。こいつとはここ最近ずっと気まずいが…

「チッ…」

事情を知らないナベちゃんに言われたこともあって、倉持は不本意そうにではあるが俺の隣に座った。

「はい!!それでは主役が揃ったところで開会の挨拶をこの私、沢村栄純が…」
「オメーはうるせえから黙ってろ!!」

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