2学期の期末試験も終わり、冬休みが近づいてきた頃。

「ちょっと出かけてくる」

おう、と顔を上げるゾノ。無視を決め込んで漫画を読んでいる倉持。
俺はコートを着込んで寮を出た。

もうすぐクリスマスイブ。光とは、一緒に過ごす約束をしている。

冬休みに入れば俺は実家に帰省するし、正月が明けたら選手寮に入寮…。光と会うのが難しくなる。
だから、今度のクリスマスは…ちょっと特別にしたい。

俺は駅へ向かい、急足で歩いた。
寒さもあったけど、気が急いた。光のためにと思うと、早く行動に移したくて。
俺って本来、結構マイペースなほうなんだけどな…。


駅前の街路樹はすっかりクリスマスのイルミネーションが飾られていて良い雰囲気。この通りを光と歩くのも良いな…当日はこの道通って駅に行こ。
そんなことを考えながら、俺は駅ビルの中に入る。1階のジュエリーショップが並ぶフロア。女性客やカップルばかりで若干居心地が悪いが、耐える。

もう目星はついている。俺みたいな学生が貯めた小遣いの範囲でも、手の届く…この店だ。
俺は一つのジュエリーショップに近づき、ショーケースを覗いた。ライトアップされてキラキラ輝く指輪たち。
あ、これなんて光に似合いそう…

「プレゼントですか?」

気がつけば正面に店員のお姉さんが立っていて、ニコニコ営業スマイルを向けられていた。

「あ…ハイ…」

…覚悟はしてたけどやっぱ小っ恥ずかしい…!
お姉さんは、キャッ、と嬉しそうな悲鳴をあげた。

「そうなんですねぇ。彼女さんかなぁ?」

…完全に子供扱いされている。まあ、どこからどう見ても高校生だしな、俺。

「ハイ…まあ…」
「ウフフ。彼女さんも高校生ですか?」
「はい…」
「あぁそうなんですねぇ。ちなみに彼女さんどういうのが好きとか、ありますか?」

どうやら相談に乗ってくれるらしい。指輪なんて買ったことないし、有難いが…。

「うーん…」
「普段彼女さん、アクセサリーは?」
「…あんまりつけてないッスね」
「なるほど、じゃあ…こういう華奢なデザインのものとかどうでしょう?シンプルで着けやすいと思いますよ。」

お姉さんはそう言って指輪を一つトレーに出してくれた。シンプルで細身の輪っかに、花のような形で淡いピンクの石がついている。
まあ…似合いそうだけど、こういう可愛らしい感じよりも、光にはもっと…

「そうですね…、」
「好みじゃないな」

突然隣から声がして、俺は飛び上がった。

「光が小学生くらいの時に似たようなのしてたぞ」
「……。」

顎に手を添えて品定めるように指輪を眺めながらいつの間にかそこに立っていた、光の従弟…光臣とか言ったか?相変わらず神出鬼没。そして、相変わらず映画俳優のような華やかな容姿。

「お…お前なんなの?なんでいんの?」
「光にプレゼントだろ?」
「そういうことじゃなくて!」
「お前が1人で宝飾品フロアに入っていくのが見えたから」

…追いかけてきた…ってこと?怖っ

「お友達ですか?」

うふふふ、とただ1人楽しそうに笑うお店のお姉さん。

「違います。」
「しっかり否定すんのかよ」

ピシャリと真顔で言う光臣に突っ込むと、お姉さんがまた笑い出す。

「それよりもう少し高価格帯のにしろよ。プロ野球選手なんだから金はそこそこあるだろ」
「…は?」

突拍子もなく俺の進路を暴露され、俺は目が点になる。お姉さんが口元に手を当てて目を丸くし、あら、と驚いたように俺を見る。

「え、なんで知って…光から聞いた?」
「光からお前の話なんか聞いてない」
「……。じゃなんで知ってんの」
「テレビに出てたろ。見覚えある顔だと思って」
「あぁ…。…つーか正式にはまだだから。まだ給料もらってないから。」
「えっ、どういうことなんですか?プロ野球選手?あなたが?」

お姉さんが興味津々に聞いてきて、俺は苦笑のあと、小さく頷く。

「一応…来年からっすけど」
「ええー!すごい!どこのチーム?お名前は?」
「いや、あの…それはいいんで…」

騒ぎになりたくねえ…!!俺はなんとか名乗るのを断って光臣を睨んだ。余計なこと言いやがって。

「18Kで0.5カラット以上の指輪出してくれませんか?」
「えっ?ああ、はい!」

光臣は素知らぬ顔で慣れた様子でお姉さんに指示をする。そしてずらりと並んだ指輪は、どれもこれも10万円以上…

「せめてこの中から選べよ」
「高校生に買えるか!!!」

うふふふふ、とお姉さんが笑う。もう散々だ。
俺はまたショーケースの中を覗き始めた。

「お前光の好みちゃんとわかってるのか?」
「うるさい」
「女はジュエリーのデザインにはうるさいぞ」
「うるさい」
「ジュエリーに詳しくない男が選ぶのって大概女の好みからズレてるしな」
「うるせえって…、…あ」

俺はショーケースの中の一つの指輪に目が留まった。

「あの…これ見せてください」
「はい。」

お姉さんが手袋をした手で丁寧に取り出し、ベロア生地のクッションが張られたトレーに丁寧に取り出す一つの指輪。
中央の石に向かって収束するように細くなる指輪のデザイン。その中央の石は、光のイメージピッタリの、淡い青にも見える光がキラキラ輝く眩い宝石。

「これ…綺麗ですね、なんていう石ですか?」
「あ、これは…ガラスです」

お姉さんが申し訳なさそうに言って、隣の光臣が噴き出した。俺が光臣を睨むと、誤魔化すように咳払いをした。

「でもこれはダイヤモンドをモデルとして特殊なカットがされた、ダイヤモンドよりも輝くデザインなんですよ。」

お姉さんがそう言って、恭しく指輪を差し出してくれる。
俺は指輪を受け取り、まじまじと見つめた。うん…やっぱ、光に似合いそう。金額も…予算内。値札を見ていたら、隣の光臣が覗き込んできた。

「光が持ってる中で一番安いな」
「…あのな、こういうのは気持ちなの」
「それを言って良いのは受け取る側だろ」
「うるせえな…そんな高いもん買えるわけねーだろ!これだから世間知らずのお坊ちゃんは…」

俺は光臣を睨んで黙らせ、お姉さんに指輪を渡した。

「これください。」
「はい。彼女さんのサイズはわかりますか?」
「あ…」

そうだ。サイズ。全くわからねー…!!

「あ…ど、どうだろ。細いほうだと思うけど…」
「左手の薬指なら7号」
「…え?」
「右手なら8号」

フン、と勝ち誇った笑みを浮かべる光臣。…なんで知ってんだよ。

「それでしたら8号ならどちらにもつけられると思いますよ。」
「あ…じゃあそれで…」

お姉さんの提案に、俺はありがたく頷いた。

「7号じゃないのか…意気地なし」
「なんか言った?」
「お包みする間、お待ちくださいね〜。」

お姉さんが後ろのカウンターに向かって行き、俺と光臣が取り残される。

「俺がいてよかったな。」

…腹立つけど、確かに、いなければ指輪のサイズわからなかったしな…。でも…。

「…お前友達いねぇだろ」
「人並みにはいる」

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