寮での生活にも少し慣れてきた。

…が…。


…全然光に会えねえ…!!!


高校ん時は恵まれてたなー…光の家も近かったし…。あ〜、光に会いたい…メールや電話はしてるけど、その度に会いたくなって辛くなる。
俺ってこんなに人に依存するタイプだったか?

「よお。」

ポンと肩を叩いて声をかけてきたのは、球団の先輩である選手。いつもテレビで見ていた選手が、今はこうして気軽に自分に声をかけてくれる。なんて贅沢な環境だと、思ってはいるけど…。

「もう慣れた?」
「あ…はい。なんとか。」
「育成の倉持も同じ高校だろ?アイツ頑張ってるよな」
「あぁ…そうみたいですね」

倉持…。
あの日、駅のホームで言われたことは、今でも脳裏に残ってる。
一年で育成から這い上がってみせる…その言葉通り、倉持は凄まじいストイックさで練習に臨んでいるようで、球団の先輩たちからの評判がすこぶる良かった。

「なに、仲良くねーの?」
「え、いや、まあ…普通です」
「うわ、仲良くねーやつじゃんそれ」
「はっはっは…そんなことはないですけど」

事情を説明するとややこしくなるし…笑ってはぐらかす。

「まああいつもなー。同級生がドラフト指名…自分は育成…よく腐らずに頑張ってるよ」
「はあ…」

確かに…脇目も振らずに頑張っている。トレーニングルームで見かけた時…声をかけるのも躊躇ったほど。
あの原動力が…光だなんて、少し畏ろしく感じる。

「で、お前彼女いるの?」
「…はい?」

急に話が変な方向に変わって俺は変な声を出してしまった。

「いやネットでさー、お前に彼女がいるって騒がれてるから」
「…何見てんすか」
「え、お前エゴサとかしないタイプ?」
「しないっすね」

つーかアンタが俺を検索するのはエゴサじゃねーし…

「へー。で、彼女いるってマジ?」
「まあ…」
「おお〜、やるじゃん、いつから付き合ってんの?」
「俺が…3年に上がる直前す」
「俺が、ってことは、後輩?」
「はい…やけに聞きますね」
「だって、すげー美人なんだろ!?」
「え…」
「ネットに書いてた。どんな子?写真見せろよ」

結構面倒くさいなこの人…。
俺は小さくため息を吐き、新しく書い直した…1世代前のスマホを取り出した。

「…どうぞ」

ロック画面は光とのツーショット。光だけが映るように切り抜いてるけど。

「ええ!!!!!めちゃくちゃ美人じゃん!!!!!」

先輩は目ん玉をひん剥いて驚いた。その声を聞きつけて、なんだなんだ、と周りの先輩たちも集まってくる。

「やばい御幸の彼女めちゃくちゃ可愛い!!」
「えっ、見せろ見せろ」
「どれどれ…、うおお、可愛いわ」
「彼女芸能活動とかしてんの?」

なんか大事になってしまった…。まさかこんなに食い付かれるとは。俺は写真を見せたことを少し後悔した。

「会えなくて寂しいだろ〜?お前」
「ははは…、まあ…」
「おっなんだ、欲求不満か〜?わはは」
「……。」



***



「もしもし。」

電話の向こうから聞こえる可愛い声。懐かしく感じる、光の声。
時々こうやって電話をするのが、数少ない癒しの一つだ。

「よ。今何してた?」
「お風呂入ってきたとこ。」
「あ、へぇ…」
「なに?」

お風呂、という単語で一瞬光の裸を思い浮かべてしまい、変な声が出て光に不審がられた。

「いや…会いたいな〜と思ってさ…」

電話の向こうが少し静かになる。光の顔は見えないけど、どんな表情をしてるか浮かぶようだった。

「うん…」

そこに想像通りの寂しげな声が返ってきて、胸が苦しくなる。ああ、今すぐ会って抱きしめたい。

「…あのさ、明日でホーム戦最後で、夜少し自由時間あるからさ…会いに行ってもいいかな…」

我ながら、自分がこんなことを言うなんて少し信じられない気持ちで、だけど心から懇願しながら言った。

「え?会いに…?どうやって…」
「光の家の前まで行くから。少しだけ外出て来れる?」
「え…。」

光の声が動揺し、迷っているのか少し沈黙が流れる。

「…わ、悪いよ…。」

そして返ってきたのは遠慮の言葉だった。

「いや、俺がどうしても会いたいんだって。」
「でも…大変じゃない?」
「光に会えるなら平気平気。」
「……。」

また少し沈黙して、光はぽそりと言った。

「…会いたい…。」

…トクン、トクン、と心臓に初めて血が通い始めたみたいに胸が熱くなる。

「…だろー?待ってろよ、試合終わったらすぐ行くから」
「ふふ…うん。」

俺は強がってそうおちゃらけた。すると光が少し笑ってくれてほっとした。

「で…そっちはどう?」
「あ。あのね、今日学校でね…」

光の声が明るくなったのを感じ、嬉しくなりながら、俺は光の話に耳を傾けた。

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