移動教室の途中、1年のフロアの前で花城と東条に出くわした。

「よお東条、調子よさそうだなぁオイ?」
「く、倉持先輩、お疲れ様です…」

可愛い女子と一緒にいることを僻んだ倉持の餌食になっている東条を横目に、俺は花城をからかう。

「お前らよく一緒にいるなぁ〜」
「今日日直なんです。」

素っ気なく返された言葉。これがまたいたずら心をくすぐるのだ。

「日直だからって一緒にいなくてもいいんだぜぇ〜?」
「授業の準備で呼ばれたんです!先輩こそなんでこんなところにいるんですか?」
「俺は移動教室で」

涼しい顔で答えようとした瞬間、東条の肩を捕まえたままの倉持がニヤニヤと口をはさんできた。

「嘘つけお前、理科室行くのにわざわざこっちから行こうってお前が言っ」
「おーーーーい倉持くん!?」

ヒャハハハハ、と倉持の笑い声が廊下に響く。
自分の教室から理科室へ行くなら、こことは反対側の階段を下りて来たほうが早い。花城もそれは気づいたはず…。

「…何なんですか?」

花城の頬がにわかに赤くなり、怒った顔で俺をにらんだ。

「別に大した理由はねーよ…」

苦し紛れにそう言った直後。

「ヒューヒュー」
「よっ、ラブラブだねぇ」

「!!?」

聞き覚えのある声が響き、反射的に振り返る。そこにいたのは亮さんと純さん。最悪の展開だ。

「ちょ…やめてくださいよ!」
「照れてる照れてる」
「ダッハッハッハ」

亮さんと純さんは言いたいことだけ言ってさっさと逃げ出した。タチが悪い。
花城を見ると、案の定ますます俺をにらんでいた。

「…ほんと、何なんですか?」
「気にすんな、ふざけてるだけだから…」


***


ジュースを買いに、1年の教室があるフロアのロビーに降りる。2年の教室から自動販売機へ行くには上階へ行ったほうが近いのだが、つい、なんとなく、最近はこっちに来てしまう。
そしてロビーに入ると内心期待していた女子生徒の姿を見つけて一気に胸が膨らみ、直後にその前に立つ男子生徒の姿に気づいて胸が萎れた。
花城と速水。日向の中で、なんだかいい雰囲気で話しているように見える…。

「…で、学校からも近いんだけど、花城さんも行ったことある?」
「あ…」

何か言いかけた花城が俺に気づき、顔をこちらに向ける。それにつられて速水もこっちを振り向いた。本当なら邪魔しないよう、すぐに立ち去るべきなんだろうけど…

「よ〜速水、花城。何話してんの?」
「御幸…。」

強引に速水の肩に腕を回して絡みに行くと、ちょっと迷惑そうに苦笑された。

「うわ…来た。」

悪戯っぽく笑う花城を見て、焦れる速水の顔。こんなので優越感を感じている俺…。

「で、何の話?」
「……。駅前の七夕まつり…花城さん行ったことある?って」

聞いてたんだよ、と、速水はあきらめ気味に白状した。

「あー、毎年やってるやつな」
「そう。」

速水がうなずき、俺と速水の視線が花城に向かう。

「…行ったことあります。小さい頃に何度か…」
「へー。だってさ。」
「……。」

速水が若干鬱陶しそうに苦笑する。だけど俺を追い払わないんだから、優しい奴だ。

「で?」

きょろきょろ、花城と速水の顔を見比べる。二人とも鬱陶しそうな顔をしている。邪魔だとわかっているけどつい絡んでしまう。まるでピエロを演じている気分。

「…あのさ、よかったら、」

しかし速水は意を決したように口を開いた。この流れは…やっぱり、祭りに誘うのか!?

「光〜!いたいた!」

…だがいつかの時のように、速水の言葉を元気いっぱいの女子の声が遮った。

「あっごめん話の邪魔した!?」

いつもの花城の友達だ。相変わらずお調子者で、俺と速水を見てニヤニヤと楽しそうに言う。

「…全然!なに?」

花城は恥ずかしそうに首を振って、友達のほうに駆け寄った。

「ねえ七夕まつり光は来れる!?皆部活で行けないんだってぇ」

あ…、と速水が固まった。

「あ…うん!いけるよ」
「まじ!?やった!」

花城は一瞬悟った顔をしたが、すぐに笑顔になってうなずいた。
速水は苦笑を浮かべる。

「先輩たちもお祭り行くんですかぁー?」

社交的な子なのだろう、花城の友達は気さくに俺たちに問いかけた。

「いや俺は…どうかな…一緒に行く人いないし、ははは」

落胆を隠しきれない顔を笑ってごまかす速水。そうですかぁと笑う少女には通用したっぽい。
だけど次の瞬間彼女はぱあっと何かひらめいたような笑顔で言った。

「二人で一緒に行ったらいいじゃないですかー!」

「……。」
「……。」

いや…そんな仲良くないし。でもこの子からしたらよく速水と一緒にいるところを見られるから、仲がいいと思われているのかもしれない。

「いや、俺部活で忙しいし」
「あ、そーか、野球部だもんな」

心なしか速水が安心した顔になったように見える。まあ俺と二人で祭りとか気まずいよな。

「え〜そうなんですか〜。可哀想〜」

いやそんなことねーよ、と笑い飛ばそうとしたとき。

「速水先輩〜」

…そっちかい。

「お祭り行きたいですよねー?」
「いやぁ俺は…」
「あっ!じゃあいっしょに行きますー!?」
「えっ」

思いがけぬ誘いに、戸惑い迷う速水の顔。なんてわかりやすいんだ。
後輩の女子たちとお祭りに行くなんておかしな状況だが、その中には速水の想い人、花城がいる。
速水、ちょっと行きたそう…。だけどやっぱりためらっている。

「…い、いいのかな?」

誰に聞いたのか、速水は俺たちの顔を見渡した。

「…行きたいなら行けば?」
「……。」

俺の言葉に閉口する速水。
まじか?そんなに祭りに行きたいのか、花城と…。というか、なかなか二人でとはいかないから、友達を交えてでも、と思ったのか。

「……じ、じゃあ」

いい?と、後輩女子二人に窺う速水。いいですよおー!と明るく即答する友達と、はにかむような困惑するような微妙な顔で笑っている花城。

「じゃあ待ち合わせとか…は、光に連絡させますね!」
「えっ」

友達の言葉に表情が晴れる速水と、顔を赤くする花城。

「え?連絡先知ってるでしょ?」

キョトンとした顔で、友達が花城の背中を叩いて言ったその言葉に、俺だけ一瞬時が止まった。

「…う…うん」

うなずく花城を見て、目の前が遠ざかっていく。

「じゃ、それで決まり!」

友達が、パン、と手をたたいたその音で、何とか現実に引き戻された。
タイミングよく鳴り響く予鈴。後輩女子たちはスピーカーを見上げ、踵を返した。

「あっ!失礼しまーす!速水先輩またね〜!」
「…失礼します」
「あ、うん、また」

花城たちに手を振る速水の浮かれた横顔。速水、いつのまに花城と連絡先交換なんて…?
って、なんでモヤモヤしてんだ、俺は。

亮さんたちに変な風にからかわれたからだ。
花城を変に意識しちまうのは、きっとそのせいだ。

016

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