1学期は瞬く間に過ぎ、もう夏休み目前。
「すごい活躍してるね〜!御幸先輩!」
鷹野がスマホでニュースを見ながら話し始める。そうなのだ、御幸先輩は入団直後から捕手としてレギュラーに抜擢され、攻守ともに破竹の勢いの活躍を見せていて、もうすでにファンもかなり多い。
「可愛い彼女もいるしそりゃ頑張っちゃうよね〜!」
「…司。」
花城が恥ずかしそうに鷹野を睨む。
「そういえば倉持先輩ってどうしてるの?」
不意に鷹野が思い出したように俺を見た。
「元気だよ。この間野球部にもちょっと顔出してくれたし」
「えー!私も見たかったな〜!」
「そんなレアキャラみたいに…」
「あ、ごめん、私ちょっと…」
急に花城が時計を見て立ち上がった。驚く俺をよそに鷹野はわけ知り顔で行ってらっしゃいと手を振る。
花城が教室を出ていくと、鷹野はニヤニヤしながら教えてくれた。
「告白だろね〜」
「…え!?」
「今年に入ってけっこー呼び出されてるよ。」
そ…そうだったの!?
そりゃ1年の時の花城のモテっぷりは凄まじく、伝説的だったけど。2年になって御幸先輩という絶対的で圧倒的な彼氏ができてからは、少し収まっていたはずなのに…
「御幸先輩がいるのに…!?」
「鬼の居ぬ間にってやつー?身の程知らずなのよー、一年からも告られるみたいだし」
「えぇ…!?そうなの!?」
や…やっぱすげーモテるな、花城…。
「ま、もちろん全部断ってるけどね!」
「だ、だよな…。」
***
「お、東条。」
寮へ帰ったらなんと、御幸先輩がそこにいた。
少し逞しくなって、より精悍な顔つきになったような…相変わらずイケメン…。
「…え!?御幸先輩!?」
「お、いーねその反応♡」
すでに2、3年の顔見知りの寮生に取り囲まれ、御幸先輩の活躍を知る1年が遠巻きに羨望の眼差しを向ける中で、御幸先輩は周りを見渡す。
「今テスト期間だっけ。」
「あ…はい!今日から…」
「あちゃー、練習日に来たかったな」
忙しいんだろうな…それでも来てくれるなんて、有難いし意外。
「ま、いいや…これみんなで食えよ」
「え…!ありがとうございます!」
そしてこんな手土産まで。こんなに気を使う人だっけ?
「大活躍で忙しそうですね。」
「え?あぁ、まあ…。悪いな、もっと早く顔出したかったんだけど、今日やっとたまたま昼間に時間が空いてさ」
「そうなんですか…」
本当に忙しそうだ。
「倉持先輩とはどうですか?」
「まあ普通にやってるよ。あんま会わないけど」
「そ、そうですか」
「悪いけど俺、学校の方にもちょっと…」
急にいそいそと立ち去ろうとする御幸先輩。えーもう行っちゃうんすか、と寂しがる後輩を剥がして、なんだか急いでいる様子。
「もしかして、花城に会いに?」
ぎくり。そう音が鳴りそうなほどはっきりと御幸先輩が固まった。
「花城ならさっき帰りましたけど…」
「え…。あ、そ、そーなんだ」
事前に連絡とかできなかったんだろうか。たまたま時間が空いた…とか言ってたしな。
「でもまだ近くにいると思いますよ。連絡してみたらどうです?」
「え、あ、うーん」
俺の提案に、御幸先輩はなんだか歯切れ悪く頭を掻いた。なんでだろう…?
「御幸先輩!!」
と、そこへ、沢村が大声を出しながら駆けてきた。
一同振り返って、目を見張る。沢村がなぜか、花城の手を引いて走ってきたから。
「今そこで花城見つけて!!連れてきやした!!」
「お前いつの間に探しに行ってたんだよ!」
「ナイス沢村!!」
みんなのヤジの中、花城と御幸先輩だけが静かに見つめ合う。そして御幸先輩がフッと小さく微笑を浮かべた時、花城の顔がふにゃっと歪んだ。
「…え!?花城!?」
花城が俯いて目元を手で覆ってしまった。沢村が慌てて声を上げる。な…泣くほど、御幸先輩を想ってたんだ…。
「お、おいお〜い…」
御幸先輩が苦笑顔に変わって花城に歩み寄る。そして狼狽える寮生達の前で、そっと花城の肩を抱き、顔を覗き込んで慰め始めた。
「泣くなって。」
「う…。だって…。」
「皆びっくりしてるぞ〜」
「ううぅ…」
花城の頭を撫でたり肩をさすったりして慰める御幸先輩。花城もそんな御幸先輩に、甘えるみたいに縋り付く。
普段優等生で、生徒会副会長としてしっかり者で、落ち着いた雰囲気のある花城が…。
御幸先輩の前では、こんな…。
「大丈夫か?」
「先輩ぃ〜…」
「ったく、泣き虫だなー」
「……。」
「……。」
「……。」
いちゃつくカップルを前に、周りのみんなは居た堪れない様子で顔を見合わせ始めた。沢村は猫目で固まってしまっている。
俺は…御幸先輩の前でいつもと全く違う表情を見せる花城が、まるで知らない人のような気がして…その寂しさに似た感情には間違いなく、悔しさが入り混じっていた。