夏が終わり、2学期が始まった。
今年も甲子園に2年連続出場したとあって、学校は始業式の朝から賑わっていた。
俺も副主将として、信二と小湊と一緒に壇上で表彰された。自分にこんな日が来ようとは。
結果は準優勝…沢村・降谷の双璧が、俺たちをここまで引っ張り上げてくれた。
「「「応援ありがとうございましたぁ!!!」」」
壇上で全校生徒に一礼し、並んで壇上から降りる。これで俺も引退か…。寂しいけど、悔いはない。
そして引退するとやはり、話題になるのは…
「ねえねえ!ウチの野球部って今年プロ行く人いるの!?」
…進路だ。
教室に戻るなり鷹野が楽しそうに聞いてきて、俺は苦笑した。
「そうだな…沢村と降谷は可能性高いよ。本人達もやる気みたいだし…」
「えっ!!まじで!?すごーい!!ね、光!!」
興奮する鷹野に対し、落ち着いてニコリとほほえみ「うん、すごいね」と言う花城。
「東条君はどうするの?」
鷹野が身を乗り出してくる。沢村達の華やかな進路の話の後に、言うのはちょっと躊躇うけど…
「俺は大学受験するよ。でも、野球は続けるつもり。」
「へーっ!すごい、頑張ってね!」
「あはは、さんきゅ。」
「ちなみにどこの大学?」
「一応…大学の野球部的にも、偏差値的にも…蓬生か陸橋あたり…」
「えー!いいじゃんいいじゃん!」
「…鷹野達は?」
本当は一番気になっていたのは花城が目指す大学だけど…俺は世間話のように聞いた。
「あたしは東陽!光は白栄だよね?」
「うん。」
「え…!そ、そうなんだ」
白栄…って、めちゃくちゃ偏差値の高いお金持ち学校じゃん…!!
あ、でもそういえば…花城の従弟って、白栄の高校…。
「いいな〜白栄、パンフレット見たけど、お城みたいなキャンパスでかっこいいよねぇ」
「幼稚舎から全部纏まってるから手狭だけど。」
「えー!?入ったことあるの?」
「私、幼稚舎行ってたから」
「え!まじ!?」
ケロリとした顔で驚愕の事実を言う花城。お淑やかで品があるとは思ってたけど…本当にお嬢様だったりするのかな…!?
「なんで青道来たのー!?」
「…なんとなく」
***
文化祭が近づき、放課後居残って準備をする生徒が増えてきた。
これまで野球部の練習であまり参加できなかった文化祭準備に、今年はがっつり協力することができる。
「ねえまっすぐになってるか見てくれないー?」
「もうちょい右!」
「誰かセロハンテープ持ってったー?」
「ここにあるよー!」
みんなの推薦でクラス委員長となった鷹野の指揮で、着々と準備が進む。その中で、俺は…
「東条、そっち少し引っ張って」
「うん!あ…そこ皺がよってる」
「どこ?」
花城と暗幕を段ボールに貼り付ける作業をしていた。花城は暗幕の端を押さえながら片手に粘着テープを持っていて、俺が示す場所を直せない。
それに気づいた俺は、四つん這いの花城の体の下に腕を差し込み…、皺がよった部分を伸ばした。
腕を引く時、花城の髪の先がふわりと肌をくすぐってどきりとした。
「ありがとう。」
花城が微笑み、作業を再開する。
…俺、顔赤くなってないか?
「お、いいじゃんいいじゃん!綺麗!」
様子を見に見回ってきた鷹野が俺たちの作業を見て言って、また忙しそうに他の人の様子を見に行った。誰にでも分け隔てないし、学級委員長は適任だ。
「あ…。」
不意に花城がスマホをポケットから出して呟いた。
「ごめん、お母さんから電話だ」
「あ、うん!」
花城は俺に声をかけ、スマホを持って廊下に出て少し通話をすると、すぐに電話を終えて戻ってきた。
「大丈夫?」
帰りが遅いのを心配して連絡が来たのだろうかと思い尋ねると、花城は笑顔でうん、と頷き、スマホをポケットにしまう。
「今日も帰れないって連絡。」
「え?…お母さん?」
「うん。昨日から出張でアメリカに行ってるの」
「えー!すごいな。なんの仕事してるの?」
「弁護士だよ。」
「え…!す、すご!」
えへへ、と照れ笑いをする花城。母親を尊敬し、大好きなんだなと思う笑顔…。
「じゃあお父さんが寂しがってるんじゃない?今日は花城も帰りが遅くて」
「ううん、お父さんもいつも帰り遅いから。深夜近くになるの」
「あ、そうなんだ…お父さんはなんの仕事してるの?」
「脳外科医。」
「す、すごいな…」
「うふふ」
エリートだ…!!エリート一家だ…!!!
「だから…いつも親がいないのが当たり前だから」
そう言って花城は不意に寂しげな顔をした。
「…花城、」
「まあ、私ももう大人だし。全然平気だけどね!」
なんで声をかけて励ましたらいいか考えた瞬間、花城は明るく笑ってそう言った。
「ほら、続きしよ!」
「あ…うん!」
俺…気の利いたことも言えなかったな…。